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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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4.10


  §


「レオナルド様はいつも控えめだけど、このグランドセントピードの通過、早すぎないか?」

「まあ、バーンベルクの直系だしな」

「いやいやいや、そんなので納得できるかよ!」

「もう、25前だろ。年齢考えれば騎士になっていても可笑しくないんだし」

「でも初挑戦だろ。俺なんか、ここの通過にどれだけ時間がかかったことか。ここに来た時はもう真っ暗だったつーのに」

「ふん、そんなの比べるのが悪い。お前の使命と、あの方の使命が同じわけないだろ。役目が違うんだよ。人はそれぞれに必要な力を持って生まれているだけなんだ。だから比べること自体意味がない」

「いやでもよ、まるで道やグランドセントピードが全部見えて、真っ直ぐ来ましたってレベルだぞ、多分。おかしいだろ」

「できる人とはそういうモノだ」

「はあ?なんだそれ!悔しいとか、凄いとか思わないのかよ。物わかり良すぎると成長しないぞ」

「悔しいとか凄いとかは感じているさ。それが自分の励みになる時もある。だがな、お前のように何でもかんでも言葉にしないだけだ」

「ふん、高尚なこった、俺はそんなのごめんだな」

「そうだろうな。お前のように高尚になろうと思わない奴は、いつも下の奴ばかり気にして生きていけばいい。それがお前の役目だよ、きっと」

「ふん、お前のような達観したムッツリ野郎はモテないんだよ。バーカバーカ」

「幼稚よりましだ。お前は人に成長を語る前に己の成長を目指せ」


 §


今日はもうすることは無い。

取り敢えず、明日の為に食事を控えておくこと以外、気を付けることもない。


ただ正直瞑想ってどういうことか今一つ、分かっていなかった。それに三日間という長時間もなんだか不安だ。

見様見真似でやっていることを根本から行動を見直しておこうと思った。


こういう時は先輩に聞くに限る。

早速我が弟、アントニオに聞こうと部屋を訪ねたが不在だった。


当たり前か。俺が試験で暇になっただけで、普通なら外縁で警備があるのだから。


試験の為、人手が取られているのだから、ほとんどの騎士は休んでなどいない。つまり聞ける相手はいないのだ。


普通なら。


ただ俺には頼れる人がいた。



それはお爺様だ。


お爺様は蟄居しているから、絶対に人の前には顔を出すことは無い。

お爺様の性格から言っても、かなり厳粛に全うしているに違いない。

聞いた話では、全ての面会は受け付けられず、追い返されているらしい。


だが、俺は知っている。極偶に融通を利かしてくれるのだ。

ステフがログレスへと旅立つ前には、部屋に呼んでくれていた。


つまり、人生の転機であれば、お会いできるということだろう。


そう思って、お爺様たちが暮らす離れへと足を向けた。


騎士試験くらい大したイベントではないと言われればそうかもしれないが、俺の人生にはもうこれ以上重要なイベントは今後も決してないと言い切れるほどに大切な出来事になったのだ。


何かを報告に伺うなんてことは、そこに褒められたいという欲望がある。

何か技術を教えて欲しいには楽をしたいという欲望がある。

そんな事にお爺様との面談をお願いしたいとは思ったわけではない。


「憤せずんば啓せず、悱せずんば発せず」

というけど、今まで本当に悲しんだのだから発してほしいのだ。ここを逃したら、とんでもなく悲しむことになるのだから、今こそ発してもらいたいのだ。



離れについて取次ぎをお願いしてみたが、会ってはくださらなかった。


ガッカリはしたが、他にやることもないから、しばらくそこで座り込み、座禅をしてみることにした。


明日が大切だからこそ、最大限のことはやり切りたい。


そんな思いから、予行演習的に座禅をしていたのだが、日が傾く頃に声が掛かった。

「クラウディオ様がお会いするとおっしゃっています」

「え」

棚から牡丹餅である。

近くで座禅し始めた時には少しこの展開を期待していたが、お爺様はいつも自分には厳しかった。ちょっとやそっとでは認めてくれることは無かったし、思い返しても俺は褒められたことが無いように思う。

だからこんなにすぐに意見を変えて、会ってくださるというのはなんだか不思議な感じがした。



部屋に通されると、昔の威厳ある姿のまま、客間のようなところのソファに座っていた。

「お爺様、お久しぶりです。変わらない姿に驚きました」

「ふん、ここに居ても体は動かしておるからな。わしに用とは何だ」

全く出迎える気もなく、むしろ迷惑だと言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。

「お婆様はお元気ですか?」

「ああ、問題ない。それよりさっさと早く本題に入れ」

少しでもアイスブレイクができればと思ったが、全く態度を変える気はないように思えたので、仕方なく本題へと入った。

「今日騎士試験を受けてきました。明日ある座禅の前にお話を聞ければと思ってきました」

今日の試験には受かりましたという話をすると今まで固い表情だったところから、眉を上げ、顎に手を当てて意外そうな表情へと変わった。

「ん?では今日は受かったのか?てっきり落ちてしまって、落ち込んで来たのかと思ったが、そうか、受かったのか。だがな、お前に何か教えられるようなことは言えんぞ。昔の話過ぎる。もう忘れたわ」

「はは、確かにそうですよね。でも、なんていうか、そういう答えを欲しがることはもうやめたのです。お爺様に自分を立ち上がらせるような問いをいただきたいと思ってきたのです」


アドバイスや教えが欲しいのではなく、情けない俺を補強してくれる『問い』を貰いたいんだ。

人生に置いて『問い』を持つことだけが、本当に大切な道を示してくれる。


答えを持つということは、結果が分かった簡単な事だと勘違いを生む。馬鹿にし見下し、油断することにつながる。

そして答えが間違えだと気付いた時には、手遅れになっている。

つまり、現実が理想から離れた場合、そこにはパニックと不満と絶望が産まれるしかなくなってしまう。


だからそんなものを求めては駄目だと気付いたのだ。

人生は答えのような知識では駄目だ。

それではいつまでたっても厚みのある人間にはならない。それでは精神は生まれない。それでは立ち向かう勇気は湧き上がらない。


人生には問いを持つ事が、己を振り返り、その答えを問い続けることが本当の成長につながるのだ。


人生は結果で積み上がるが、それはペラッペラな年表でしかない。

そういう結果では見えないところに本質がある。


本質とは、何を握りしめた生きたかである。


どんな理想を、何のために、どうやってなすのか。

そういう方向は『問い』から生まれる。

誰かの真似だとか、誰かに言われたからとか、そういう取って付けたモノでは、都合よく忘れてしまう。

自分に問い、自ら生み出した答えを作らなければ、本質となるものは生まれて来ない。


その問いが人生を厚く、人間を厚く、そして意識を深めてくれる。


だから『問い』を見つけにきたのだ。


「別に問いを立てていただくことをしていただかなくてもいいのです。自分で見つけます。俺はなんだかまだ薄っぺらで、中身がない人間だと思って、それを埋めたいと思っていて、まだお爺様に言われた覚悟ということが不動のモノに出来ていない様に思って、まあ、上手く言葉に出来ていませんが、俺の人生の転機になる最後の試練の前だったので、お会いしておきたくなったのです」

自分の思いの丈を全て洗いざらい吐いた感じがして、自然と表情が緩んだ。

それを見て、顎に手を当て、顎鬚(あごひげ)をいじりながら、どこか感慨深げな雰囲気に変わった。

「ふむ、お前は変わったな。伝え聞いていた姿ではない様に感じる・・・・」

「いえ、つい最近、変わっただけです。追い込まれて、今見つけようと藻掻いているだけかもしれません。本当に最近で、自分でも今の自分は今しかいない様に思うのです。ですが、今の自分を続けるたいと思っています。そのために、精神を強く厚く深めるために来たのです」

「・・・そうか。・・・。はぁ、よく聞け。お前は問いを貰いたいといったな」

「はい」

「人が話をするほぼすべてが、問いを貰うためだ。・・・・、わしはかねてから、お前ら最近の若者がペチャクチャ喋っているのが気に食わんと思っておった。その言葉に何の意味が在るのか考えもせずに、上っ面な聞こえがよく、中身もないモノを口にするのが気に食わないと思っておった。報告にしろ、何にしろ、話をするのは、問いを見つけるためにするものだ。なぜこの状況になったのか、どこで間違えたのか、どうするべきだったか。そういうことを思うために言葉というモノは存在している。勿論、相手の機嫌を伺うためや、話しやすい雰囲気を作ることが悪い訳ではないから、止めはしなかったがそれを続けることによって、己が軽くなると思わんか」

威厳たっぷりの鋭い眼光に睨まれて、今まで少し緩んでいた表情が凍り付いた。

「本来言葉には重さがある。それを感じて受け止め、その言葉がなぜ自分に向けて言われたのか考える。これが問いだ。そしてこれが本来の対話だ。それ以外のあってもなくてもいいような言葉は会話とは言わん。わしにとっては雑音だ」

自分の会話が今まで雑音だと思われていたのかと、ちょっとショックを受けながら、それでも、今は「なるほど」と思えるほどには自分の器は大きくなっていた。

「今まで申し訳ありませんでした」

「これもだ。お前は言葉を使って、重さを受け止めることを拒否している。最後だと思って、しっかり聞きなさい。お前はそれを持ち帰るだけでいい。そういう態度で臨みなさい。なぜそもそもわしは言葉に対してこれだけ注意を払っているか分かるか。これは人間だけが持つ、自意識というモノで話しているからだ。自意識の中には自我などの欲望もあれば、知性などの計画もある。これらは本当に多くの意味が入り込む。それは自然とはかけ離れた欺瞞に満ちた人間特有の意味が入り込んでいるということだ。だから注意しなければならない。人を助けもすれば、陥れもする。掬い上げるはずが、蹴落とすことにもなりかねない。そういう両刃のモノだ。気軽に使うな。お前の父も、ステフでさえやっていた」

そこで前のめりになっていた態勢を戻し、背もたれに体を預けた。

「言葉を使わずとも伝えること、感じることは出来るだろ。それを習得できるように心がけよ。自意識などなくとも全ては回っているのだ。自意識はもっと別の、もっと崇高なために使うべきものであるはずだ。決して己の欲望や楽をしよう、上手いことやろうなどと思って使うモノではないはずだ。それを掴めるようにしなさい」

それで言いたいことは終わったのか、背もたれに体を預けたまま、窓の外に視線を外した。

疲れたのかな、もう年だしな、と思いながら、ただ、言葉を使ったらまた怒られるだろうなと思い、どうしたものか、考えていると何かを思い出したようにまた話始めた。

「お前は昔から知識は豊富だったな」

体を起こし、またこちらを向いてから話をつづけた。

「・・・それは悪い事ではない。それがあれば自信を持って動くこともできるだろう。知識は判断を遅らせもすれば、確かなモノを掴めるようにもしてくれる。だからそれを誤った使い方をせぬようにならなければならん。それには心が必要だ。欲望や損得に流されない理想が必要だ。理想は手の届くようなところに置くではない。理想とは自分が信じる最高の景色であり、その景色以外は目に入らないような事でなければならない。一目散にそれだけを見つめ、形振り構わず走り続けられるものでなければならない。こじんまりとした幸せにしてはいけない。幸せとは不幸せと共に在るものだ。目指すようなものではない。理想とは並び立つモノはない状態だ。裏表がなく、ただただ輝きを放つ暗闇の中の一灯である。幸せを目指さず理想を目指す男になりなさい」

そして俺を見て、頷き目を閉じ、また背もたれに体を預けた。

これは最後の挨拶だなと感じ取り、一礼して席を立った。


もう会うことは無いだろうな、と思って、怒られることを覚悟しながら、部屋を出る前に「ありがとうございました」とだけ伝えた。

これには怒られることは無く、手を挙げて返事を返してくれた。





最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

精鋭の読者のお陰で続けられています。

本当にありがとうございます。


喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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