4.5
訓練では様々な事をやらされるが、大体のことで人と比べても遜色なくこなせていた。
騎士に成れた人と比べても、そういう意味では大差はない。むしろ自分の方が得意な部類もあるくらいだ。
だから訓練では本質的に俺は成長することは無いと思う。
成長するとは何だろうか。
弱点が無くなることだろうか。
でも騎士が無敵の存在という訳ではない。・・・・一部例外はあるかもしれないが、それでも無敵という訳ではない。
空気が無ければ死ぬし、水や食事が無ければ死ぬ。それを克服できた人間はいない。
その弱点は許されて、他の弱点だけを無くすことが成長といえるのか?
成長とは弱点を克服することではないのかもしれない。
では成長とは、長所を伸ばすことか?
それは弱点や嫌なことをやらない事と同義になるのではないか?
好きな事だけをすることで、世界は回るのかもしれないが、それでも嫌いなことから避けて通れない時に放り出すことが正解と言われることがあるだろうか。それには納得はしたくない。それは俺の心が違うと叫んでいる気がする。
成長とは長所を伸ばすことでもなければ、短所を無くすことでもないとしたら、やはり、成長とは精神が育つことだろう。
精神が育った状態とはイメージでいえば動じない、へこたれない、前向きに挑戦することを指す様に感じるが、これが未だ良く掴めていない。
周囲の騎士を見ても、それほど精神的に凄い奴ばかりかと言い切れるのかどうなのか、正直良く分からない。
ネガティブな騎士もいれば、和を重んじない騎士もいるし、汚くズルい騎士もいる。決して憧れる騎士ばかりではないが、それでも騎士になれる人はなれる。
そうやって自分の成長した姿は何かと悩んでいる時に、父上から呼び出しを受けた。
父上の執務室に入るとそこにはアントニオも居て、どうやら昨日告白した、前世についての話を聞きたいということらしかった。
「レオはこれから騎士試験に向けての時間も取らないといけないからな、あまり拘束する気はないのだが。ただ、話を聞くに、前世という所はかなり興味深い。ただトニーは、様々な広い範囲の知識は持ち合わせていないというし、自分よりもレオの方がこういう話は詳しいと聞いたんだ」
苦笑いのアントニオが「俺は興味がある狭い範囲しか必要なかったからさ」と言っている。
本当に?
なんだか誤魔化されている気もする。
お経を知っている人が、知らない事ってそんなにあるの?・・・まあ、あるか。
「だから交換条件と行こう。お前が私に前世の知識を教え、私がお前を騎士試験に合格するレベルに鍛える。時間は無いが、私にならそれをすることが可能だろう。どうだ?悪くないと思わないか?」
「え?」
正直家族なんだし、そんな交換条件と言わずにも教えるし、教えて欲しいと思ったが、多分、昨日の俺の話を聞いて、家族に対しても甘えることが苦手なのだろうと分かってくれたに違いない。
そういうことを考えた後に頷き、答えを返した。
「はい、よろしくお願いします。と言っても教えられるような話が私にありますかね?」
「ああ、まあ、それは前世の知識全般だから、知らないことがあっても構わない、どの道お前たちが知らない事であれば、仕方が無いのだから。ただ我々に活かせるものがあるのであれば、活かしたいだけだ」
「俺はレオ兄と比べて狭い範囲で生きていたから、知識ってあんまり無いんだ。学校にもあんまり行っていないし。広い知識はレオ兄の得意分野じゃないかと思って」
「え、あ、まあ、期待に沿えるか分かりませんが、知っている限りお答えします」
そう俺が了承したところで、父上が座る態勢を少し前景に変えた。
「それじゃ、時間が無い方を先に片付けようか、レオの試験対策だな」
「えーっと、それって、普段の訓練と何が違うんでしょうか?」
父上から直々に訓練など受けたことが無かった。
だから少し緊張した面持ちで聞いた。
「何もかもだ。これはレオ専用の訓練と言って良い。どうやらお前たちには呪いがかかっている気がする」
「「え」」
あまりに唐突な話で二人して驚いて声が上がった。
この世界に呪いという呪術があったなんて知らなかった。
「まあ、それ自体は軽いものだ。洗脳と言ってもいい。それを重く考えているか、軽く考えているかで症状が違うのだろう。レオは重く、トニーとステフは軽く考えているんだ、きっと」
洗脳?操られているの?なんか怖い。
一度アントニオと顔を見合わせて先を促した。
「そうなんですか?なんですそれは」
「んー、いくつかあるがまずは昨日の話を聞いていて思ったことであるのだが、まずは命についてだ」
命、それを重く考えている、そんなの当たり前じゃないか。え?違うの!
そう思ったが、ふと先日のトニーの話を思い出して少し腑に落ちた。
「お前は命を大切に思い過ぎている。しかも自分でどうにかできる物だと勘違いしている。命というのはそういうモノではない。これをしっかり理解しろ」
命は自分が思い通りできない?分かるような分からないような。
「それが一点目。二点目は、お前たちは自分という存在をまだ分かっていないということだ」
自分という存在。これについてはさっぱり分からなかった。
「お前たちは自分たちの特別さをハッキリ認識できていないのではないかということだ」
特別さ?前世を持っているということだろうか。それとも、何か特別な隠された力があるの?
「つまりは、バーンベルクの血を受け継いでいることを理解していないということだ」
それは少しは理解しているつもりだった。自分の体が特別製だと思う事は多かったのだ。
訓練でのことでも、瞬発力とか持久力とかは他の者達よりも確かに優れていると感じた。
王都では勿論、ここの従騎士たちと比べてもそう感じていた。
それでも未だ理解していないということなのだろうか?
「お前たちは、他者の視点で物を考えると自分がどう映るのか分かるか?」
「え?」
「バーンベルクという歴史を背負っているという状態が他者にはとても強大で特別な存在として、受け取られているのだ。それはこの世界ではそれだけで強力な力となっている。他者はそれだけで怯み、一歩引き、筋肉が硬直し、緊張しだす。我々はそういう状況を引き出せるということだ。レオナルドは勿論、アントニオもステファンでさえ、この意識はおそらくあまりない。それはずっと不思議だったが、前世の教育にあるのではないかと思い至った」
前世の教育のせい?何かと恵まれた環境に感じていたけれど、何かおかしかったの?
アントニオはあんまり学校行っていないって、言ったの忘れたの?
疑問に思ったが、口に出すことなく、話を真剣に聞いた。
「人は生まれで、能力は変わる。それは誰もが選べないが、それだけで優劣が付いている。お前らは特別で当たり前だ。平民の騎士と比べて有能で当たり前だ。そうあるはずだし、そういわれることを本当の意味で特別と考えてはいけない。これを本当に理解しているか?」
え?特別と考えていいのか、いけないのかどっち?
「例えば、戦場で私が前線に立てば、それだけで皆が力を今まで以上に発揮する。それは当たり前だ。それだけ私は特別なのだ。この存在感、歴史、名前の力というモノが我々の力だ。その力が周囲の皆に体の奥底から力を湧き起こし、勇気づけることだってできるということだ。これをお前たちはまだ纏えていない。それでは自分の力だけで戦っているようなものだ。他者の力というモノは、より強くもっと自分の力を高めてくれる。他者の認識が我々に力を与えるのだ。そして我々がいることで他の者達も力がもらえるようになる。それが3万年無敗の力だ。自分の肉体の力だけでどうにかしようとするのは、力の半分も出せないのと変わらない。こういうことは普通言わなくても分かるのだが、お前たちはそれに気づいていない気がするし、見ようとしていない気がした。それが三人共が共通となると、それは前世の教育にあると私は思ったが、違うか?」
「なるほど!流石父上!ああ、そうか、そうか、ようやくわかりました、あはははは」
アントニオには何か分かったようだ。腹を抱えながら笑っている。
だが、俺は良く分からなかった。おかしい。
「俺は良く分かりません。言っていることが、見えてこないというか、そんな教育受けたことない気がします」
「あれだよ、アレ。人間は平等だってやつだよ、それが違うって言っているんだ」
「え、違うの?」
「そうだ、違うといっただろ。生まれが違うんだ。血筋は重要だ、とても重い意味がそこには在る」
「え?見た目、皆、一緒なのに?」
「そうだ。見た目が一緒でもだ」
「それは差別じゃないの?」
「差別だ。違いがあると分けることだからな。それがいけないのか?」
差別がいけないというのは当たり前だと思っていたが、違うのか?
「逆に違いがあるのに認めないのは不自然だろ?」
「でもそんな違いをあげつらったら、可哀想なんじゃないですか?」
「ん?言っていることが良く分からんが、違うところがあることを認めないのは変だろ?その違いは生まれ持った特別であるはずだ。相手の生まれを軽んずる方が可哀想だろが。そこには自分だけではない大勢の人が命をつないでくれた結果が現れているんだ。それは誇りであり、証であり、何より大切な歴史がある。それを重視して何がいけない」
「違います、父上、レオナルドが言いたいのは、見た目の違いで、扱いを変えることや偏見や優越感を持つことが不満を生むと言いたいんです」
「はあ、それはそいつの心が悪いのだ。そんな奴を見かけたらボコボコに殴って矯正すればいい」
なんて力こそパワーなノウキンな思考だ。
「前世ではそういう争いが良くないと教えているんですよ」
「秩序や序列を重んじないのか?生存競争がいけないのか?どうやって生きているんだ?」
「表面上仲良くするという形で、協力をする?みたいな」
「それでも関係には上下はあるだろ?そこには不満は出ないのか?出たら戦うしかないだろ」
「いや~それも表面上はあやふやというか、上手にやるようにしていましたね」
アントニオからそれらを聞いて父上は憤慨した。
「お前たちのぐじゅぐじゅした性格はそこからきているんだな。ステフはそういう所ないが」
息子への扱いが、娘と違い過ぎるのも不満に思っています。
心の中で思ったが、言わなかった。言わずに認めた。
「そうかもしれません」
「良いか、もう一度言う。皆とは必ず違う、差別は在る。生まれが違えば、育つ環境は違う。当たり前だろが。誰もが一緒ではないのに、なぜ一緒になると信じ込んだ?」
あれ?そうだ。なんで一緒だと思い込んでいたんだ?
「植物だって育つ環境で生育状況が変わるだろ。努力している奴としていない奴が同じなわけないだろ。本人だけではどうにもならない歴史や血筋はあるし、それは誇りだ。決してないように思っては駄目だ。認め合うことが大切だと認識を検めなさい。そしてそこには偏見や優越感など存在しない。あるのは誇りと責任だけだ。この認識や意識で出てくる力は変わる。まあ、これを理解せずアントニオが合格したのは、偶々なのか分からないが、この意識が世界の全てを支配しているんだ。世界中の全てを支配する力がある。その意識を育てなさい」
「意識を育てる?」
「そうだ。その力があれば、あんな試験、必ず合格できる」
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