4.4
修行を始めるにあたって、ケジメが必要だと思った。今までの汚い自分を真っ新にして、新たな自分に成る為には自分一人ではそれを完結させることができないと感じたからだ。
弱い自分はその内に言い訳して、新しくなったことを無かったことにしたり、都合悪くなればしれっと元に戻ることを平気でやりかねない。
それには自分以外の外的なモノで記録というか、釘で打ち付けて繋ぎ止めるというか、そういう監視してもらうようなことをすることで自分が固定されると思うのだ。簡単に言えば、大々的に宣言して後戻りできなくしてしまえということだ。
そして、自分で終わりを作るからこそ、新たなモノが産まれる気がするんだ。
なんとなく始めることはなんとなく終わる。それでは何も成せるわけがない。
盛大に終わらせるからこそ、爆誕させることができる・・・はず。
意識としての自分が、この世界に来ても変わらなかったから、俺は上手くスタートさせられなかったに違いない。
体だけ新しくなったから、全てが中途半端な今まで通りの延長を歩んでいた気がする。ケジメを強制的にされる死はそれだけ生きる上で重要なモノだと漸く気づいた。
だから恥ずかしいとも思いながらも、絶対にそれを乗り越えて、全てを更地にすることを選ぶのだ。
これから俺は新しく生まれ変わるんだ。
なんだか中二臭いけど、まあ、いいか。
夕食では、皆が集まり、食事をする。
これはこの家独自の儀式のようなものかもしれないが、余程のことが無い限り必ず皆が揃って食事をとることになっている。
だから必ず父上母上、アントニオにマリーナも揃う席になる。
そして今日決心したのだから、今日しなければならない。
とはいえ、全てを打ち明けるのだと覚悟を決めてはいるものの、なんて切り出そうか、どこから話した方が伝わりやすいだろうか、順番は?話の流れは?どんな表現が良いか?そんなことが頭をグルグル回って、食欲が湧かない状態になった。
でも決めたからにはやるのだと己を鼓舞してはみるものの、手足から血流が途絶えたようにピリピリと痺れがやって来ていた。
だんだんと息苦しく感じ、終いには唇の色も紫になり、ガタガタと震え出してもいる。
そんな状態で食堂に入り自分の席に着いていたのだから、皆から視線を集めていた。
「レオ兄、なんだか具合が良くないようだけど、大丈夫か?」
アントニオが真っ先に気が付き声を掛けてくれた。
「ん、あ、ああ、ダイジョウブ」
全く大丈夫そうではない裏返った声が出た。
咳ばらいを入れて、ゴブレットの水を少し飲み下そうとして、グラスを手に取るとプルプルと震え出したことで、ようやく自分が緊張しているのだと悟った。
体に力が入り過ぎている。それに呼吸も浅い。息苦しい。
それでも、決めたことを実行するのだという決意は揺らがせてはならないと思い、水を飲み下した後、深呼吸をしてから今いる皆に声を掛けて改めて後戻りできない様に己を追い込むことにした。
「食事終わりでいいから、話を聞いて欲しいのです。大事な話です、とても大切な・・・これからも含めた話なので、皆の時間をもらいたいのです」
未だにどう話そうか、なんて言おうか、切り出しはどうしようか、退屈させない様に、真剣さが伝わる様に、上手く全てを表現できるように等、色々なことが自分の中で渦巻いていて、「時間を下さい」というだけなのに、言葉が上手く繋げず、片言になってしまった気がする。
しかし、明らかに様子がおかしいことは伝わり、後から入ってきた父上も含め各々了承をしてもらえたのだが、ここで母上から思わぬ提案がなされた。
「レオの様子からして、大切な話なのは分かります。その様子では食事も喉に通らないのじゃなくて?先に話をして、それから食事をしたらいいのじゃないかしら?待たされているこっちも気になって、料理がおいしく頂けませんもの、ねえ」
「そうだな。まず話を聞こう、これからの話なのだろ?どんな内容だ?」
「ふぇ!」
父上の鋭い目つきが、ガチガチに緊張した俺には、胸にナイフを突き刺されたように錯覚させ変な声が漏れた。
しかも食事中にもう少しプレゼン内容を詰めようと思っていたのに、いきなり順番が回ってこようとしている。
だが頭の中では、色々な『しなければならない事』でいっぱいになっていき、パンクしそうになったことで、全てを投げ捨てて、大きく開き直ることができた。
今日新しくなるのだから、今ここで昔の自分とは別れるのだから、上手く説明できなくてもいいか。
何というか、もうプライドも何にも必要ない。
誰にどう思われようが、俺はそんな大した人間ではないんだ。
これが、羯諦 羯諦 って心境かな。ただただ突き進めばいい。なる様になる。なったらそれを楽しもう。
ただそれだからもう話す順番もなく第一声が、自分が話したいことになった。
「お、俺は人を殺したことがあるんだ」
緊張した感じは取れず、とりあえず口に出た言葉が、突飛なところからだった。
皆の顔が、真剣に俺に向いている中、少し意味が分からなそうに目を剝いているような表情になっていた。
その反応を見て、やっぱり順序は大事だと思い直し、自分には生まれる前の記憶があると伝え、その転生前の記憶について話を始めた。
話が進むにつれて、父は腕を組み瞑目して頷きながら聞き、母は口に手をやり、言いたいことを我慢しながら聞いていた。
隣りに座っているアントニオやマリーナにはあまり目を向けなかった。
どんな表情で自分のことを見ているのか、知りたくなかったというのもあるが、真剣に目の前に座っている父上と母上に伝わる様に話をした。
「だから俺は悪戯というよりは自分の不甲斐なさや承認欲求が満たされないことに腹を立てながら、その腹いせに魔が差したように浮き輪の空気を抜いて、女性を殺したんだと思うんだ。その時死んで、俺はその記憶をもってこの世界に生まれ変わっているんだ」
ここで一旦区切り、相手の反応を伺った。
間が空いたことで、父上は目を開け、「それで、今後の話とは何だ?」と続きを促した。
俺はそれに頷き、「自分の罪や汚い精神を皆に聞いてもらって、生まれ変わろうと思ったんです」と伝えた。
「2週間後に控えた騎士試験に挑む前に、新しい自分に成りたいと思って、今までの中途半端な自分を捨てたくて、聞いてもらったんです。隠し続けていることを全て吐き出すことで、生まれ変われるとそう思いました。でも今まで言わずに、上辺だけ繕うようにやり過ごしていたように俺は卑怯で、弱くて、腐った人間です。そういうことを分かってもらい、改めて指導していただければと思ったのです」
「そうか」
そう言ってまた腕を組み、目を瞑った。
そこに今まで黙っていた母上が自分の番だと少し柔らかい表情になって話を始めた。
「今の話は、あれよね。そういう夢を見ていたということでいいのかしら」
「いえ、ハッキリと覚えているので、夢というよりは、そういう現実があったのです、経験をしていたのです」
「そう、でも、それは夢と何か違うのかしら」と頬に手をついてそっぽ向いた。
そう問われると、自分でもなんだかよく分からない。
意識はあったが、体は違うモノだ。違う体で体験したことは、自分が経験したと言って良いのか?
自分という存在は、意識が自分のモノだと感じていることが重要なのか?意識だけが自分で、他は自分ではないのか?体は自分なのか?
夢で体験したことは、経験したと言って良いのか?夢で犯した罪は、俺が背負っていくことなのか?前世と夢はどう違うのだ?
前世の意識や感情は今の自分が引き受ける必要があるのか?
あれ?なんだか土台がグラついる気がして来た。
「でも、前世の影響もあって今のレオナルド様になったということでいいんですよね」とマリーナが上手く現状を要約してくれた。
「え、そう、それです。そう言いたかったのです」
「それで今の性格を矯正するために、隠していた後ろめたい経験をお伝えになられたんですね」
「はい、そうです。前世の価値観が邪魔して、本当にこの世界に染まることを自分が拒否していた気がするのです。自分の居場所はもっと違う所にある様に絵空事を描いている自分がどこかにいたように感じていました。そういう己を今日きっぱりと捨て去って、この今の人生を仕切り直し始めたいと思って伝えました。これからはここにいる皆に恥じるような生き方はしない、そういう騎士になると宣言することで、次の騎士試験に憂いなくぶつかることができると思ったのです」
「それでレオナルド様がスッキリした気持ちになられたのであれば、良かったです」とマリーナはニッコリ笑ってくれた。
マリーナは本当にいい子だ。そして可愛い。
緊張がほぐれ、可愛い笑顔を見れたことで、自分の心も表情もほぐれてきたのを感じた。
そしてしばらく黙っていた父上が目を開き、話を始めた。
「前世か夢かはどうでもいいが、幼い時から賢いとは思っていたが・・・・、なるほど。その知識はこの世界でも有用なモノもあるようだな。ただ精神についてはこの世界とは合わないのか・・・。ふむ、精神の方は確かに見えない分、本当に理解したのか矯正できているのか見分けにくいな。なるほどな。それで我々に根本を叩き直してほしいということか」
「え」
父の声は低く、ボソボソしゃべる癖があるから、独り言か尋ねているのかすぐに判別は難しい。なんだか不穏な言葉が聞こえた気がした。
そこにトニーが手を挙げて少し気まずそうに喋り出した。
「あのー、実はレオ兄だけじゃなくて、俺もあるんですが」
「え」「何?本当か」
それには二人とも少し意外に声が上ずって嬉しそうに見えた。
「ちなみにステフもありますよ」と俺が添えてあげた。
「何?なぜレオナルドだけこんなに腑抜けなのだ?」
と全く悪気はないのだろうが、直球を父上が投げ込んで来た。
「きっとそれぞれ違う世界の前世記憶を持っているのよ」「そうか、なるほど、それもそうか。夢なら一緒のはずもない」と何にも言わないのに父母は納得した。
細かなところを確認したことが無いから、似ているけど違う世界説はあるし、年代も別々なこともあるだろうが、なんだか自分だけ腑抜けと言われた言葉には傷ついた。
ずっとそう思われていたんだな。やっぱり。
「それにしても、わたくしたちの子供は特別なのね。なんだか自分たちに性格的に似ているところが少ないように思っていましたが、そういう理由があったのね」と母上は明るく、心底納得した表情に変わっていた。
それを父上が鼻で少し笑った後余計な一言が飛び出す。
「いや、ステフの言ったら曲げないところは君にソックリだろ」
それを聞き一瞬目が鷹のような鋭さを見せた後仮面を被り、「そういえば、トニーの怒ると物に当たる癖は貴方にそっくりよ」とにこやかに返した。
「ははは、一歩引いたところから眺めるトニーの癖は君由来だね」
「フフフ、それは貴方由来よ、私はそんなことしませんから」
なんだか不穏な雰囲気を感じ、トニーが「まあまあ」と二人がヒートアップするのを止めに入ったが、そんな事より気になることがある。
「俺には何にも引き継がれてないんですか?」
その俺の反応に皆が爆笑し始めた。
一頻り笑いが納まったところで
「ははは、話も終わったことだし、食事にしようか」と父上が言いだし流された。
まあ、いい、今から俺は変わるんだ。この腐った性格を直す。そこから始めよう。
取り敢えず、全てをぶちまけて自分なりのケジメは付けることができた。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
精鋭の読者のお陰で続けられています。
本当にありがとうございます。
最近筆のスピードが上がらず申し訳ありません。
喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。




