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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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4.1

ログレス領は4ヵ月の時が経ち復興が進み、とても活気があった。

街並みは以前の面影を取り戻しつつある感じなのだが、まだ完全ではない。

住宅地、商業地域のあたりは見た目は元通りになっていたが、特に港の方はまだ手付かずの所も見られていた。

そんな状況でも、活気はあるのだ。


経済的にお金が回っているという意味でもなければ、人の行き来が沢山あるという意味でもない。

街にいる人全員が、目的を持って行動しているという意味だ。


それは一見無秩序に見えながらも、一定の方向性を持った活動になっていた。

威勢の良い掛け声が、金槌を振るう金属音が街を包み込み、足音や煮炊きをする音も混ざりながら、生き生きとした空気を作っていた。

躍動感溢れる人々の活動は途切れることのない豊かさを醸成していった。


笑顔があふれている訳ではないのだ。

真剣でひたむきに、苦しい思いも、悲しい辛さも抱えながら、それでも前に向かっている人々の姿勢そのものが、躍動となって街全体を包み、活力となって周囲にも伝搬していくのだ。


私は少し離れた所から見ているから、それがとても良く分かった。

明らかに少し落ち込み疲れを見せていた人も周りに流され、自分もやらねばと立ち上がるのが見えるのだから。


誰も無傷ではない。

見えようが見えまいが、皆痛みを抱えて生きている。


この状況だと言わなくても誰もがそれを感じ取り、それを察しているのだ。


そしてだからこそ、あえて何もそれには触れずに、今できることに全力を尽くす。


傷はいえるのに時間が掛かる物だ。

それは生きている者であれば、誰もが分かる話である。


心の傷は自然と治ることは無いが、少しずつ様々な経験という名の栄養を取ることで、埋めていき、治っていくのである。


街の人の活気というモノを得ることが心の栄養となっている。だから動き出せるようになるのだ。


そしてこれを見ている私も当然胸やお腹の底から温かで、または熱い、エネルギーのような何かが生み出されてくることを感じていた。



その頂いたエネルギーを元手に動き出すことを決心させた。


私の予定も大体が落ち着き、治療の方は街の薬師たちに引き継がられ、今では対外的な活動や臣下への指示を出すお義父様に当たる公爵閣下のサポートのような役割をお義母様である公爵夫人と共に当たっていた。


ロレンスは予定通りという訳にはいかなかったが、見習い騎士卒業試験の為に王都へと向かって旅立っていった。


もう季節は冬の始めであるが、ここは雪がそれほど降らないためか景色がいつものと違う事で少し違和感を感じている。


しかしもう冬という事は後三か月程度で戦争が起こるかもしれないという事になる。

正直こちらから物資を送り出すような余裕がある様には見えないが、それでも王国の一員として何とかすることが必要だろう。

それが貴族であり、この仲間意識、帰属意識が国という大本の基盤となっているのだから。


しかも我々は震災で周囲から援助を受けたのだ。

困った時はお互い様だと言ってくれる状況があったからその援助を快くもらえる。


それを戦争という国を挙げた一大事となれば、今自分は大変だから何もしないとは言っていられない。


受けた恩には報いるのが、人間のあるべき姿だ。


それで物資を送れないのであれば、他のできることをしなければならない。つまりは人員を送り出すことになる。

こっちの復興にも人手は必要だが、自分可愛さにせこい真似は出来ないし、したくなかった。


それで復興も方向性が見えてきたこの時に公爵夫妻が揃ったところで、内々の話として伝えることにした。



「実は、帝国が戦争を仕掛けてくる兆しがあると連絡がありました」

サリバンから聞いた話では、かなり戦争準備を始めていて、もう既にある程度整っているらしい話まで聞いていた。


サリバン達精霊は、同属性であればある程度の距離があってもそれぞれ連絡を取れる。

連絡というのは正確ではないが、人間とは違い個体という概念が薄い。

同族が見聞きしたことは全員が共有している。つまり帝国にいる精霊が見たことをサリバンは知っているのだ。

そして逆もまたしかりである。


ただ、向こうの人は精霊とコミュニケーションを持てるような体質の人間は中々いないらしいのだが。


それが、バーンベルクが3万年無敗でいられる理由の一つではないかと思っている。

勿論それ以外の理由もいくつもあるが。


この話に対し、二人の反応は、もう分かっていたのか慌てる様子は無かった。

「そうか、ついに動くか」

話を聞くと、国王に精霊のテオについて報告に上がった際、来年には戦争があるかもしれないという話を聞かされていたらしい。

「あの国は、この国を処刑場のように扱って、戦争を仕掛けるのよね。勝ち目があるから来るのではなく、様々な国内の憂さ晴らしのために仕掛けるのだから」

「しかし、これはあまり知られていない話だが、向こうは向こうで様々な策を練ってやってきているのだ。毎回新兵器、新戦略を出してきていると話を聞いている。それを何とか騎士団が防ぎ、跳ね返してきている訳だが」

「そうなんですか?知りませんでしたわ」


戦争に勝つと無傷で誰一人傷もつかずに勝ったように感じるが、そんなことはあり得ない。

勝つ方は失う部分が少なかったというだけで、そこには大切な存在の人が大勢犠牲になっている。

勿論それを尊い犠牲と感謝を込めて葬っているが、それを悲しまないで浮かれることは出来ないが、時間と共に薄れてしまうのは良くあることだ。


「20年くらい前の前回の戦いでは大型の投石機を使って来たと聞く。それなりの被害が出たのだ。毎回勝っているからと言って無事で済んだ試しはない。今回のことで我が領は色々周りから助けてもらったばかりだからな。正直出せる人材もそれほど多くは無いのだがど、どうにかせねばならんだろう・・・・はぁ、どうしたものか」

「我々も義務は理解しますが、無い袖は振れようがありませんよ。それを考えて行動するのがよろしいかと」

公爵は額に手を当て、椅子の背もたれに体を預け、夫人は独善的に言い捨てた。


二人も貴族の義務と国への忠誠心と実生活で葛藤をしているのだと分かる。

現実と理想の互いが一致することは無いのだ。

いつもそれはかみ合わない様になっている。


それは人間の欲望が(とど)まることが無いからともいえるし、理想は常に高い所に向かっていくという事もあるだろう。


勿論、体面というか見栄というかそういう周囲の期待などを微妙なラインを感じ取って、最低ラインというモノを作りだしていることもある。


私はいつもこういう現実と理想の狭間で考える時、常に理想の側に重きを置く。


それは皆の最善の為という建前もあるが、自分が思い描いた将来に対して、できない訳がないと信じているからだ。


本当にやりたいことであれば、それに向けて前進あるのみだ。


そこには自分の利益や体裁や名誉欲を考えていない純粋な思いから生まれる。


理想とは、実現できるかどうかを考えることではなく、目指すべき姿を見据えて進み続けることである。

その彼方にある理想に向かう姿に民衆が付き従いたいと思うようになるのだ。


誰かの受け売りのような言葉になってしまったが、本当にそう思う。


「お義父様、こういう時は計算していては何かを成すことは出来ません、全力を尽くすことで最善がです」

この言葉にお義母様は少し目を剥いた。

「何を言っているんですか!ステフ!それじゃ我が領がいつまでも回復しないじゃないですか!」

お義母様に視線を送って言葉を制し、自分の言葉をつづけた。

「とはいえ、計算は駄目ですが、戦略を考えることは重要です」

「というと」

「あらかじめ、民衆に戦争があることを伝え、復興や、農期の行動をスムーズにできるように行動させましょう。つまり、物価が少し上がることをやむなしとして、資材を揃えてしまいましょう。そして人員に関しては公爵家全員で向かいましょう」

「え?わたくしたちも行くのですか?冗談よね、ステフ」

「いいえ、全員で行けば、ここに無駄な騎士を置く必要はありません。誰が見ても公爵が惜しんだ兵運用をしていないことが明らかになります。それに、今の民衆を見れば、我々が管理しなければ、だらけ腐ると思うようなそんな憂いや心配は不要だと分かるはずです。こういう時だからこそ皆を信じ切ってしまっていいのではないでしょうか」


私の提案に対して、公爵は顎に手を当て、上に目線を送り考えを巡らしている。


しばらく公爵が考えをまとめている間、沈黙ができた。

夫人も少し手元に力を籠めながら、公爵を伺い、心配そうに見つめていた。


公爵が沈黙を破った時、強い決意を漲らせていた。

「良いだろう、確かにここを明け渡したところで、今のここを手に入れたいと思える人間は少ないだろう。なんたって、費用ばかりが今は膨らむ時期だ。それよりも戦地に赴く方が、周囲からの眼も含め、我らの国への忠誠心と本気の現れを見せつけることができるはずだ。それに、民衆が自分たちを守ってくれる為に力を尽くしているという実感にもなるだろう。ただし、ここの防備を空にする訳にはいかない。我らを守る兵力は連れて行くが、ここを守るための兵と騎士団長を置いていくという事も民衆に伝えよう。それであれば全てを両立できると思う。大切なのは保全を選ばないという行動だろう。逃げ腰で自己保身の支配者など誰の心の支えにもならないのだから」

この公爵の決断に私は笑顔を向けて賛同する。

「ご英断です。民衆に、そしてすべての領地に対して、公爵の思いが行動で伝わるはずでございます」


夫人はどこか呆れ、もうどうにでもなれという感じで体を椅子に預けて言葉を使わず体現した様子を示し、公爵も、私も笑いをこらえながらそれを見守った。



最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

大変うれしく思います。

読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。

遅くなり申し訳ございません。

最終章のつもりで書いていきます。

最後までお付き合いいただければ幸いです。


面白ければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

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