表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/75

信じる力④


「はぁ・・・なんだかちょっとズレてしまった気がするわ」


公爵邸に帰って来て、自分の部屋でソファで腰を下ろし、独り言のようにつぶやいた。

今日起こったことは自分が考えていたモノよりもかなり異質な状況から思ったような結果に人々を導けなかったように感じていた。

神々に感謝したり、自分の置かれた環境、立場をよく見るようになったりと悪くない方向ではあるものの、少し卑屈な考えに公爵によって導かれたように感じていて、それが少しずれてしまったという思いに感じていた。


「あの精霊は一体何なのよ」


思い出してみると本当に計算外で、思わず愚痴をこぼしてしまった。


自分が考えていたちょっとしたサプライズに神の現れを感じてもらい、神々に対して感謝し、生き甲斐に向かってほしいと思っていたのだが、あんな出来事が起こったから、自分たちの仕込みなんて何の役にも立たない状況になってしまったのだ。


「お嬢様、力及ばず申し訳ありません」


サリバンはスタンバってくれていたのだが、それはあの精霊のテオが出てきたことで、ほとんど見向きもされないことが分かったので、何にもせずに終わったのだった。

それにも関わらず、自分の力不足を嘆いているのだから慰めるよりほかない。


「仕方ないわ、こんなこと予想できる人はいないでしょう。それより私はなんだか公爵の話によって少し卑屈な印象を受けた人たちが出てきて、公爵の求心力まで落ちるのではないかと心配しているのだけれど」

「そうですね・・・・、そういうところをハッキリ認識できている人はまだ少ないかもしれませんが、心に引っかかりを作ったというか、なんだか違うとおぼろげながら感じた者は何人かいるかもしれませんね」

「そう・・・私が感じたのだから、気づく者はそれなりに多くいると思っても可笑しくないはずよ」

「ではどうされますか?」

「これから王都に向かう準備をしている公爵に全て伝えたとしても対応に取る時間はないでしょうから、他のここに残るロレンス達と話をしてみようかしら」


そういって早速、近くの部屋にいるロレンスの所に向かい時間を取れないか聞いてみることにした。


今日は祭りであるので、騎士の訓練はない。

騎士団は見習いも含め祭りの警備に当たっている。勿論公爵邸の警備もしている。

そんな中ではあるが、当たり前だがロレンスは警備の仕事には就くことは無い。

だからロレンスは少し時間に余裕があるはずである。


あんな突発的な出来事はあったが、公爵邸の中はそこまでごたごたしている訳ではなかったが、それなりに皆忙しそうに動き回っていた。

公爵が王都に向かうのは年に何度もあるので、急ではあるが、準備というのは慣れたものである。だから周囲の者はテキパキと動いていた。

その中、私はロレンスの部屋へと向かった。


側仕えに確認してもらって部屋に入るとロレンスは執務机に向かって書類仕事をしている最中だった。

「お仕事中にすみません」

「なんだ、何かあったか、私に話しなど珍しいこともあるもんだな」


ロレンスとの関係はパーティの一件以来、少し歩調を合わせることができるようになってきた。

彼も悪い人間ではない。公爵であるお父様が大好きなパパッコで、自分はまだ公爵など早いと思い、成長を止めてしまって感じで、隙が無いように見えて、どこか脇が甘い年相応の青年というだけだと分かってきた。

だから相談位は嫌われることなくできるような関係を築けていた。


「先程の閣下の話の中で気になる表現を感じました。それで対策というと大げさですが、対応も含めて想定して考えておいた方がよいかと思いまして、少しお時間をいただきたいのです」

私は勧められた椅子に座り、話を始めた。


「父上の話で気になる表現とは何だ?」

「こういう思想というか哲学というモノはどうしても言葉にしてしまうと歪められてしまうという大きなデメリットが潜んでいるという事です」

「ああ、なるほど。それは確かにそうだな。先ほど父上も言っていた嘘を口にしなければ、嘘は入れられないという訳ではないという事もそうだったな。相手が誤った想像をしただけだと向こうが言い張れることなど沢山あるしな」

「そうです。どうしても言葉というのは一場面を切り取った形でしかないことがほとんどで、それは発信者の本質を見失った形で広まってしまうことがあります。だからそういった書物は色々な角度から説明し表現する分、分厚い物になることがほとんどですし、短い言葉だけでは上手く伝えることが難しいのだと思います。あの発言だけでは言葉を切り取ったり、揚げ足を取ったりという事が、悪意を籠めてやらないとしても、生まれてくることがあると思うのです。時間が経てば共通認識を押さえる必要性が抜け落ちたり、伝え忘れて歪むことだってあります。だから本当に危うい事だと感じているのです」


私が公爵を否定するつもりで言っている訳ではなく、真心から言っていることが伝わったようで、ロレンスも思い当たるようなことを口に出した。


「ふむ、父上もああいう形でなければ、大勢の前で語ることなどなかっただろうしにな。私と一対一の対話でさえ、ああいうことをお教えくださることなどほとんどないのだから。あれは仕方がなく出してしまった言葉だろう。となると一々言葉を訂正するのも面倒な上に、更に上塗りすることもあるという事になるか。対応と言っても難しいな。ではどうしたらいいと思っている?案はあるのか」

「・・・・上手くいくかどうかは分かりませんが、言葉を発するのではなく、体現してくことが重要だと考えます。背中で見せると言いますか、行動で示し続けることが民衆の心に伝わるのではないかと思うのです。今までも閣下のおっしゃった精神を元に行動を取っていると思いますが、改めてそれに対して、偶には少し大げさに振り切るくらいの行動を示すことも良いのではないかと思います。分からせるのではなく、気付かせることが必要だと思います。頭で理解させるのではなく、心と言いますか、何か通じ合うような事でなければ、本当の意味で理解はできたことにはならないでしょうから。しかし、具体的な方策というかやり方という点では、何をするかというのは決めかねているというのが実情です。私だけの考えでは限界というか、時間もかかりそうなので、これではすぐに対応ができる訳ではありませんから、相談しようと思いまして参りました」


こうやって行くという方針は示せても、具体的な対応策としては打ち出すことができていない。

どういう行動が一番見てもらいやすいのか、何かを催した方が良いのか、全般的に目立つことが好きではない分、そういった発想の乏しさが自分にはあると自覚していた。


「なるほどな。でもそこまで考えてくれているのであれば、対応は簡単な気がするが、確かに何をやるかという事では特別な出来事があった方がいい気はするな。守りではなく攻める手を考えたいという事だろ。・・・そうだな、ならば優秀な人材を手本という形で尊敬されるように見せるというのはどうだろう」

「それは良い考えですが、その人はどう決めましょうか。模範的な人というのは中々責任重大ですけど」

「そんなの我々がやるしか無かろう」

「・・・・なるほど。でも我々の生活行動を民衆に見てもらうというのは難しいと思いますがそれは・・・」

「確かにな、でも、それは大切ではないだろ。お前が言ったように一々言葉にするとか命令しても意味がない、己で感じることが気づくことが必要だと言っていたではないか。我らにできるのは自分のことをそれに沿わせることで示し続けることが大切だろう」


これではどうしても浸透が遅いというか、最初の特別な部分がないと言わざるを得ない。攻めようとしていても全く相手に届かないと思うのだが、もしかしたらロレンスは今後の予定で色々人と触れ合う機会があるから、これで十分伝えることができると考えているのかもしれない。

私はおそらくお茶会は開くだろうから、そういったところで示すことはできるだろうが、それでも私が気にしている部分を埋めることは出来そうにはなかった。

だから仕方がなく、やりたくはなかったが、公爵の考えでは足りないと思う部分について指摘することに踏み切ることにした。


「・・・・それもそうですね。何かをやらないといけない様に思っていましたが、特別なことをしなくても示し続けていれば、いずれ周りはそれに気づいてくれると信じることが一番いいかもしれませんね」


そういってひとまず納得した形を取って、最も不安なことを伝える。


「それともう一つ申し上げたいと思っていたことがあります」

「なんだ?」

「閣下のあの説明では、少し人々がやる気を起こさなくなってしまうのではないかと不安に思っています。これは私が閣下の言葉から感じた受け取り方の問題の所ではありますが、それでも、私がそうであったように、その受け取り方をされる恐れがある表現だったともいえるでしょう」

「話が見えないな。どこでやる気をなくすような話に感じたんだ」

「神々が決めたことであれば、受け入れるというところです」

「それの何処が悪い?」

「問題は本当に神々が決めたかどうかは誰にも分らないという事です。それなのに本人がそう思ったら諦めるしか手段がなくなるというところが問題だと思うのです。それに誰かに神々からの罰が与えられたと言われたら、もう駄目だと受け取りかねないのではないでしょうか。本当はそれはただの試練であり、幻想というか乗り越えるべきものかもしれないのに、そんなつまらないことでも諦めてしまうのではないかと危惧しています。おそらく閣下の言われた話というのは死ぬ直前のどうすることもできないと悟った時の受け入れ方のような極論というべき話だとは思いますが、今のままでは例えば天災、自然災害がこの地を襲ったとき、人々はこれは神々が死ねとおっしゃったと判断するのではないかと思ったのです」


自然災害は神々の現れと取られやすいものだと思う。

これを罰だと受け取り、立ち上がれない人が出てくるのではないかと思ったのだ。

試練と罰は現象として似ていても全く意味が違う。それこそ受け取り方次第でいかようにも変容する。

だからこれについては早いうちに訂正ないし追加で説明できる場があった方が良いのではないかと思ったのだ。


「そんなことでは良くありません。今後の領地運営も日照りや冷害、獣害や蝗害(こうがい)など様々な困難があると自分たちでどうにか改善するとか対策、工夫をすることなく受け入れるだけの民衆になってしまうのではないか、全て我々が指示を出すまで動かない民衆になったらと思うと、とても困ると思うのです。そんな危うさを感じさせる言葉だと思ったのです」


ロレンスも公爵の言葉を思い出す様に目を瞑り、私の意見に対して何か対策の必要性がある気になったのか、腕を組んで沈黙した。


しばらく黙り込んで色々考えた末、目を開き、何か決心したようだ。

「お前のいう事は分かった。神の意志というモノを前提に諦め思考を手放すことは違うという事だろう。でもそれで神々を忘れてしまうのもまた違うと言いたいのだろ。ならばどう訂正した方が良いと思っているのだ?」


「私は人生とは挑戦することだと思っています。

何があるか分からない未来に向かって、自分の力で何かを試し、何かを学び、何かを求めて挑戦し全力で体当たりをすることが人生だと思うのです。そこには成功もあれば、失敗もあります。だけれど、どんな経験であれ、全力であれば学びがあるはずです。

学びがあれば、それを生かした次がある。その繰り返しが人生だと思うのです。

人生の最後に達成できず終わることは、悔いが残ったと周りは評価するかもしれませんが、本人が全力で駆け抜けていれば、実はどんな時に終わったとしても、きっと最高の人生だったと評価するはずです。絶対にそう思うに違いないのです。

だからそういう生き方をする人間が増えることを願っています。


だから逆に、力を残し、決めかねて余力を残した生き方など何の成果もない、つまらない不完全燃焼でくすぶった何にもならないくだらないモノになってしまうと思います。そういう人がいることは問題ではなく、そういう人を作ってしまう指導者や社会システムがあったら問題だと思うのです。

未来が分かる人がもしいるとしても、その未来は絶対に訪れる未来とは決まっていないはずです。絶えず変わり、変化するのが未来のはずです。様々な挑戦で結果は変わると信じています。それでも決まった出来事があり絶対に変えられないモノだとしても、そこにどうやって望むのかで次の出来事は違っているはずです。

運命とは変わらない流れではなく、己の力で踏み出す一歩で引き寄せるモノだと思っています。

必ずやってくるものがあったとしても、それから自分が何を引き寄せるかで次の結果は変化すると思うのです。


こういうもしもを考えても一回きりの人生には無駄な話ですが、だからこそ、その一回の人生で全てを尽くすことが、大切だと思うのです。

それが神を信じることと繋がるのです。

神々を信じるとは必ず自分の人生に意味が在ると信じ切ることと同じです。

自分の人生が神に罰せられて無駄に終わる物であるなんてことは絶対に無いとハッキリ思えることが、神々を常に意識することになっています。もうすでに人生の意味を噛みしめている人は、その後ろの神々の采配が分かっているはずです。

だから神への信仰というのはそれを意識して強く握りこむことよりも、それは絶対にあると分かれば、それだけで十分だと言えます。


あとはあるのだから探す。

一生人生の意味を探し続けることが素晴らしい人生にしてくれるのです。

ありとあらゆることから、経験から人生の意味や神々の現れを感じ見つけ続けることが感謝になるのです。

そういう風に民衆になってもらい、どんな試練がやってきても、乗り越えられる姿勢を作り上げていくことが、民衆を率いる貴族の在り方だと思うのです」


ロレンスは真剣に私を見つめ話を聞いてくれた。


「挑戦し、体当たりする人生か。確かに、信じていると思い続けていないからと言って、信仰を失っている訳ではないな。大本のそれが在るから派生して生まれた言動、思考で我々は出来ているという事だな。そういった裏には神々の恩恵を感じ感謝があるともいえる。たとえ気づいていないと言えども、そういう一面があるという訳か」

「そういう機微というか、裏にある思いのようなものは、あの精霊には分からないのでしょう。表面上の言葉にできる思考でないときっとわからないのです。全く意識できないと言うのは問題でしょうが、祭りなどで思い出すきっかけがあれば、それで十分だとも思うのです」

「それで、あとはそれをどうやって伝えるかだな」

「閣下のことを非難するような訂正をするような形にならず、話を広めることが重要です。下手を打つと広い意味で反逆、クーデターと言われかねませんから」

「うむ、そうだな。でも伝えることは大体わかった。あとは私に任せてくれ」


そういってその日の話はまとまった。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

大変うれしく思います。

読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。


面白ければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ