表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/75

信じる力

今日は貿易船の対応から予期せぬ人生相談へと目まぐるしい予定となり、なんだか疲れを感じる。

元々人と話すこと自体が好きではないのだらか精神的な疲れが出ているのだと思う。


貿易船の話し合いはそこまで変わったことが無かったが、16歳の少女に人生相談なんてする人が現れるなんて思わなかった。

しかも初対面の相手にだ。普通もっと近しい人や相談を沢山受けている実績がある人にするものだろうに。


私が名前を名乗った時に態度が変わったことを考えると、バーンベルクという名前がそういう行動をさせたのだろうと思うが、この名前にはなんだかそういった魔力でもあるのではないかと疑いたくなる。

まあ、そういう事であるならば、あと少しで変わるのだからもうしばらくの我慢という事だろうが、決めつけると逆のことが当たるなんて変なジンクスを思い出しから深く追求するのはやめておこう。


自分がどう理解しようがそれは関係ない。なる様になるし、ならないなら諦めるだけでいい。

思い込みで捕まえて握りこんでいたものというのは、実は大切でもなんでもないもので、そんなものを放すと、意外と快適だったりするのだから。


私は信じることの本質というのは、これだと思っている。

つまり、信じるとは思いこむのではなく、手放すことだ。

雛鳥が巣立つように己の力を信じて、握りこんでいた安心という名の巣を思い切って放すことだ。


自分の部屋に帰ってくるとサリバンから声がかかった。

「とうとう開戦の時が満ちそうです」

「そうですか。・・・それは明日とか明後日とかですか?」

「いいえ。実際はおそらく来年の春から夏ごろかと」

「まだ時間がありますね。このことはお父様はご存じですか?」

「クラウディオ様が伝えていると思います」

「お爺様はお元気なのですね。ならば私は向こうのことについて心配する必要はありませんね。ここもお爺様が心配するほど緩み切っている訳ではない様に思います。ですが、それでもちょっと使命だとか生まれた意義などを考えることをやめた人が多いように感じます。これから少し引き締めた教育を施していった方が良いように思うのですが、どうしたらいいかしら。・・・人は幸福になるために生まれたのではないことを思い出させたいですね」

「何か、やりましょうか」

サリバンはようやく自分の番が回ってきたという眼で私を試すように見てきた。

「まずは信じることを強めるところからでしょうか」

「そうすると、つまり、信仰心を強めたいとお考えですか」

「なるほど。宗教とはそのためにあるのですね。忘れていました。信仰心を強める方法かぁ・・・。神はいつもそばにいるよと教えてあげることが良いのかもしれません。あとは、神はどんな時も見ているよと教えることも良いかもしれません。分かりやすい奇跡よりは神が見ている、見られている感覚を持たせることが良いと思うのですが・・・。要はより高尚により崇高に高みを目指すような生活になれば良いのですが・・・」

未だ考えがまとまらず、導きたい結論ばかりが頭に浮かぶ。そんな私の状況から急かす様にサリバンが口を挟んだ。

「それで具体的にはどうしますか?」


こっちに来てから今まで、出番が少なかったからか、どうもいつもよりもサリバンは口数が多い気がする。

こんなにやる気になっているが、できれば自分で解決できる方法を探りたい。


「貴族らしく流行を作り出しましょうか」

「流行ですか」

「そうです。流行(はや)り廃りに近い形になるかもしれませんが、戦争前の今の時期に流行っているという意味は十分価値があると思います」

「具体的には、どうなさるおつもりでしょうか」

「私が口癖のように何かにつけて神様を持ち出し、見られている、見てくださっている、と言って多くの人に印象付けるようにしましょうか」

「そんなことで広まりますでしょうか?」

「う、ちょっと他人任せ過ぎますかね」

へへへ、と愛想笑いを入れて思い付きを口に出す。

「メイド達や騎士たち、それからログレス家にもお願いして意識的にこの言葉を使わせましょうか。でもそうなると中心にいる人が一番信仰心が低いという状況になりそうだから、ちょっとした奇跡があった方が良いかしら」

「始まりは奇跡からが得策かと存じます」

この言葉を待っていたとばかりにサリバンは頷いた。

「えー、でも、派手過ぎると気味悪(きみわる)がられるのじゃないかしら?」

でもこれは最後の手段にしたいと私は他の方法がないか探りたいのだが、サリバンはもうそれしかありませんと太鼓判を押す。

「いいえ、これでもかというほどの見間違いなど考えられないほどの派手なモノが最初にあるからこそ、信仰心というのは芽生えるのです。ちょっとした誰もがすぐに忘れてしまうような、見落とすようなことでは一年中続く流行になる訳がございません。最初は派手が一番でございます」

「・・・・」


奇跡とは何か。

それは不可能と思えることが可能になった時に人が勝手に感じる現象だ。

つまり理屈が分からない手品も奇跡に見えるし、ちょっとした光も場合によっては奇跡に見える。

そんなちょっとしたことを理由が分からず、神様という全能の存在の現れだと確定させることが奇跡と思わせることにつながる。


この思わせることが信じるに変わり、信じることが決めることの土台となる。

土台がしっかりすれば、歩き出す道が作られたという事になっていく。


この道は自分以外の他人は関係ない。

しかし、道の交わりという繋がった縁が神の働きに感じられ、他者を大切にもする。大切にするが引っ張られない、そういうバランスを身に付けることが重要だといえる。


この国の神は偶像崇拝されていない。

だからだと思うが、物質的な物の発達は抑えられている。そして精神的な部分はこの世界では強い。

しかし精神的な部分は見えないこともあり、忘れらえてしまうことになりやすい。時が進めば進むほどにそうなる。

だから日々実践的に意識するか、忘れ去られそうな時に思い出すようにしてあげる必要がある。


信じる力が人間の力を強める働きがあるのだから。


信じることは大切だが、それは土台である。

土台を見ている時は信じ切れていないことを意味する。だから見ることをやめた時に本当に信じることができたことになる。それは歩き出すことで示されるのだ。止まっている人は信じられないからといえる。


今日の彼女は他人に引っ張られる傾向が強かった。

つまり土台があやふやだからだ。物を欲しがったり、他人を嫉妬するのはそういう人の特徴だ。だからそれは神を忘れてしまっているのだろうと思った。

他人と比べて自分はと思う事を止めて、自分に集中することを薦めた。

自分の世界の良さを見つけることで自分に集中できるようになる。世界が魅力的だと思えれば、もうそれだけで人生は輝くようになっているのだ。


この領の人は新しいものが目に入る環境だから、どうしても物に吸い寄せられるのだろう。

それは文明が進みやすいことを意味するが、同時に神を忘れやすいともいえる。

逆にバーンベルク領は文明を停滞させていたとしても、精神の強さが良く分かる領だった。


対称的な環境を経験したからこそ、ここの足りていない部分が良く分かる。

何事もバランスが重要だが、自分がどっちに傾いているかなんて普通に過ごしているだけでは分かることは無い。

意識してみなければわからないモノであるのだ。


先程から神という表現をしているが、神様という概念に預けると説明しやすいだけで、信念とか信じるべきものであれば何でもいい。それが本当に自分の目指すところ、守りたいもの、向かいたい大切なモノであることが重要なのだ。理想の自分、尊敬する完璧な人でもいい。

到達は出来そうにないモノであれば、なんでもいい。

それと自分の行動を見比べて生きることが、素晴らしい人生の歩み方につながる。

神に到達できる人はいないから神という概念で説明すると分かりやすいだけだ。


だからまずはそれぞれの信じる力を伸ばしてほしい。


そんな思いで、考えた奇跡大作戦は大勢の人に見てもらう方が効果的だろう。


そしておあつらえ向きに、ここでは夏に大規模な祭りが開かれることになっている。


これは毎年、貿易船が来た後に開催される貴族も民衆も一緒になって歓迎、お祝いする行事である。

外国の人たちにとって、この街の印象を良くする意味もあるが、元は民衆はこれから向かう実りの秋の前に行う楽しい予祝行事(よしゅくぎょうじ)であり、商人の書き入れ時でもある。つまり多くの人がこの行事に合わせてここに来ることになっている。


だから至る所で数日前から準備が進められて、街は賑やかになる。

それを見ながら私は、ここで奇跡を披露するのかと少し胃のあたりが重くなるのを感じる。


奇跡は分かっていては誰も奇跡だと思わない。


だからサリバン以外には誰にも相談することができないし、リハーサルやチェックなどもできない。

勿論反応の予想もできない。


準備が進むにつれ、少しやつれてしまった。



最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

精鋭の読者のお陰で続けられています。

本当にありがとうございます。

宗教の話が出ても、別に宗教を勧誘すること、おススメすることはありませんので、悪しからず、読んでいただけると嬉しいです。


喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ