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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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人生に自由がない③



喫茶店は初めて入ったが、内装は少し薄暗く、一つ一つのテーブルに小さな花が飾られ、全体的に質感のいい布が使われていて、上品で落ち着ける雰囲気が特徴の店だった。店内に客は一人、少し裕福そうな男がいただけで、静かで、窓から見える海とキラキラと反射する光をお茶を飲み楽しむ、そんな店だった。


店のマスターと思しき人は執事のような出で立ちで、スッと足音を消したような身のこなしで近づいてきた。

「ロレンス・ログレス様、ご来店いただき、誠にありがとうございます」

初めての来店にも関わらず、自分のことを知っていることに驚いた。

ここ数年ログレス領に帰っておらず、成長期もありかなり変わったと思っていたから余計だ。


屋敷の皆からは変わったと言われていたので、初対面で分かる者はいないのではないかと思っていた。


そういえば、キャロルも気づいていたな。


彼女は屋敷に居た時近くで見ていたようだから、このマスターよりは近しいといえるのだろうが、どこか成長しても消せないモノが残っているのだなと思った。

「良く分かったな」

笑顔ではあるが、驚きと賞賛を籠めて伝えた。

「勿論でございます」

全く表情を読み取らせることない立ち居振る舞いや、無駄なことを一切発しない徹底ぶりは本物の執事を思わせた。

「連れが後からやってくるんだが、ここで少し込み入った話をしたいと思っている。頼めるか」

「畏まりました。それではこちらのお部屋をお使いください」

そういって開けてくれた扉の向こうには、一段と格式が高くなった部屋が広がっていた。

家具に彫り物が施され、優雅に部屋を彩っている。

部屋に入ると山脈が描かれた大きな絵画と逆側にはテラス窓があり、外には穏やかな海が煌めいていて、入ってくる風も和らな春の温かさがあり、気持ちのいい空間になっていた。

「ふむ、中々いい部屋だ。ありがとう」

「それではお連れ様が来るまで、こちらでお寛ぎくださいませ」

私は満足し、引いてくれた椅子に腰をかけ、足を組んで窓の景色を楽しんだ。


しばらくすると扉をノックする音がした。

私が頷くとドア傍に控えていたマスターが扉を開ける。


てっきり、ジュリアも一緒に入って来るのかと思っていたが、キャロルだけが入ってきた。


年頃の男女が密室に二人きりの場面はよろしくないというマナーも一瞬頭を過ったが、必要な情報を得るためにはそうすることが望ましいと思ったので、()()()()なら良いだろうと判断をした。一応マスターがいるところで、「ジュリアは一緒ではないのか?」と尋ね、二人きりの予定ではなかったということをアピールはした。

「はい、またあの時のことを思い出させるのは、お辛いのではないだろうか思いまして、離れに送ってから参りました」

「そうか」

確かに6歳か7歳の子供に親の亡くなった時を思い出させることは積極的にすることではないと思えた。ある程度納得できる話でもあったので、彼女に正面の席を薦め座るように声を掛けた。

その後、マスターに「お茶を出した後、しばらく下がっていてほしい」と伝えて、二人きりになって、話を聞いた。


「実は私は亡くなったという事実だけしか知らないのだ。それで、一応詳しい話を聞いておきたいと思っていたのだが、周りは口が重くてな。それだけ触れない方が良いことだとは思うのだが、隠し事をされているというのはどうにも落ち着かなくなる。分かるだろ?全く無関係を決め込むのもそれはそれで操り人形のようだし、知った上で整理をつけておきたいんだ。だからある程度どういう経緯(いきさつ)があったのか知っておきたいと思ったのだ。・・・彼女は何か病気だったのだろうか?」

「いいえ、彼女は自殺したのです」


道理で、屋敷の皆に箝口令を敷いたわけだ。


少し衝撃を受けたが、ある意味納得感のある答えだったともいえる。でも彼女が自殺を決行するまでの原因というのが見えてこない。

「あれはもう4年前になりましょうか。その冬の始めに彼女は自ら命を断ったのです」


それからキャロルが語るヴァネッサの話は二人の出会いから始まった。


キャロルはヴァネッサとの最初の出会いは、屋敷のメイドとして雇われた7歳の時にまでさかのぼる。

当時ヴァネッサは14歳で、キャロルの指導先輩メイドとして出会ったらしい。

「ヴァネッサはいつも穏やかで、優しく、独特のゆったりしたリズムを持つ人でした。とても丁寧に教えてくれて、私はほとんど怒られたこともないほどに、いつも笑顔で接してくれていたと思います」

そんな彼女はいつも我が家の為に働いてくれるメイドの鏡のような精神で、純粋に忠誠を尽くしてくれていたらしい。

他の使用人との関係も良好で、ヴァネッサは伯爵令嬢という事もあり、伝統も品格も備えた正に臣下として仕えてくれていた。

「私も子爵令嬢ではあったのですが、やはり伯爵家の方が育ちが良いのでしょうね。彼女には気品を感じました」

その後すぐに母上が妊娠したことが分かり、ヴァネッサと共に母上に仕えていたらしい。

「ロレンス様がお生まれになって、奥様がほっとなさっていたころに、私たちは今度公爵様の身の回りをお世話させていただくことになりまして、それから少しずつお二人は惹かれ合っていったように思います」

「そうだったのか」

「はい、とはいえ、奥様もどこか二人の仲を認めてくださっている感じもあり、問題は無かったように思います。愛人を作るのは旦那様の()()ですし、屋敷の皆も見て見ぬふりをしていることも多くございました。旦那様とヴァネッサは節度も守っているとはいえ、二人きりの時間も多くございました。それが当然のようになっていきましたから、誰もが認めていたといえるでしょう」

そして数年の月日が流れ、ジュリアを授かったことが分かった時に、ヴァネッサは流石に動揺したらしい。

「あの時はヴァネッサは泣いてしまって、私が(なぐさ)めるのも大変でした」

「どうして泣いていたんだ」

「奥様になんと申し上げればいいか分からないと言っていました。私は彼女を励まして奥様の所へ行くように促したのです」

黙っていることは出来ない上、仕事にも支障をきたす恐れがあるので、様々な言葉を尽くし何とか報告に行かせたそうだ。

「私はその場にはいませんでしたので、奥様がなんと答えたのかまでは存じませんが、ジュリアを生むことの許可が出たようで、ヴァネッサは嬉しそうに帰ってきました」


その時キャロルは、その当時のことを思い出したのか、眉を寄せて苦い顔を一瞬見せた。


それからヴァネッサはメイドを辞め、(めかけ)として、離れに居を移した。

しばらくすると子供も無事生まれ、支障なく母と子で離れで暮らすことができていた。

父上も週に1、2回は二人の前に顔を出し、様子を見たり、ジュリアと戯れる為に時間を作っていたそうだ。

何の問題もなく、ただただ幸せそうに暮らし、ジュリアも特に大きな病気もなく育っていったそうだ。


本当に幸福な愛人の生活を送っていたはずだったのだが、いきなりヴァネッサが豹変したのだとか。


「私にはよくわかりませんが、おそらく、彼女は今まではもっと長く旦那様が近くにいたのに、その時間が少なくなったことを逆恨みでもしていたのかもしれません。あと、ジュリアの今後を思うと不憫に思って、生きているのが辛くなったのかもしれません」

ある冬の夜に本館まで出て行き、父上の書斎で自分の腹に刃物を突き刺したそうだ。


腹の傷は深く、薬や止血ではどうすることもできず、その後息を引き取ったそうだ。


なんとも急展開な話ではあったが、彼女から見た事実はそういう事だったのだろう。


「そうか、話を聞かせてくれてありがとう」

「あの、このことは、どうか・・・」

「分かっているさ。箝口令を敷いていることは知っているからな」

「ありがとうございます」

彼女は頭を下げて、部屋を出て行った。


紳士としては送ってあげたり、エスコートした方が良いのだが、一緒にいるところを見られるのはお互いに避けた方が良いと納得してもらい先に見送った。


頭を整理しながら、少しその場で時間を潰した。

冷めてしまったお茶を入れ替えてもらい、ヴァネッサのことを思い返す。

彼女にとって、父上や母上はどういう存在だったのか、ジュリアについてどう考えていたのか。

そういったことを踏まえ、自分は今後どう行動したらいいのか。


少しは自分の周りに付き纏っていた嫌なモノが取り払われて行くのを感じた。





最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

大変うれしく思います。

読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。

これからドロドロした展開になっていきます。

ご了承ください。


面白ければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

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