人生に自由がない②
アントニオ は予想通り、一年間で自領へと帰った。
それなりに仲良くなったが、なんというか自分とそもそもが違い過ぎて、悩みを共有しているのかどうかつかめなかった。
あいつは何でも突っ込み、とにかく力業で解決しようと試みて、達成できることもあれば、出来ないこともあり、その度に喜び、悲しみ、忙しい奴だった。
見ていると楽しいのだが、あれはあれで辛いに違いない。なぜ変えようとしないのか理解できなかった。
特にあいつはリズム感に乏しいのかダンスが壊滅的だった。それを何度も何度も練習すればうまくなれると思っているようで、とにかく練習に励んでいた。その練習自体正しいリズムではないのに。「もっと力を抜いて周りを見たりすればテンポが僅かに遅れたとしても合わせることは出来るだろ、運動神経は良いんだから」って伝えたんだが、「これで良いんだ、俺はこうすることで、俺の運命を愛しているんだ」と言って、哭いていた。
これは不器用というのだろうか、馬鹿というべきだろうか。
自分が辛くなっても、意見を変えない。信念とはすごく厄介なものだ。
それでも普通に過ごしていれば、こんな奴とは仲良くなることは無いと思える人間だったから、新鮮で良い経験ができたと思っている。
そんな奴と別れてから、自分も14歳になると一旦ログレス領に帰ることになった。
このまま王城に残る道もあるのだが、やはり私には公爵への道しか用意されていないのだ。
だから従騎士として王城で学ぶことよりも自領に戻って指揮官や領の政治について学ぶことの方を優先するように言われた。
面白い出会いがあっても、道はどこまでも同じ道しか歩めないようになっている。本当に私は自分の人生と呼べるものを生きているのか良く分からなくなる。
家に帰ってみると、出て行く時のようなギスギス感は無くなっていたが、あの愛人が亡くなったことで、それが解消されたのだと聞いた時、後味の悪い感覚を受け取った。
自分が悪い訳ではないが、自分は何にも行動したわけでもないのだが、それでも身近な人間が亡くなったことに対して何故と疑問に思ったり、自分がどんな行動をしていたかを振り返らない人間はいないだろう。
私の人生は全て決められている。
この考えを変える出来事ではないが、それでもギスギス感を嫌だと思っていた事実が、いなくなればいいとか、消し去りたいと願い、彼女を死にへと追い込んだような錯覚を抱かせていた。
とても口惜しい感覚が付き纏わり、今度はギスギス感よりも明確で不明瞭な重苦しい状態に変わった。
アントニオの言う「運命を受け入れ立ち向かう奴とそうでない奴」という言葉が脳裏をよぎった。
私が自分の運命から逃げたから、現状のより悪い物へと変わったのではないかと思えてきた。
だから私は彼女のことを調べることにした。今度は逃げずに立ち向かうために。
だが、あまり大ぴらに誰彼構わず聞き歩くと目立つ上にせっかく収まった物をひっくり返すことになりかねない。ことは秘密裏に慎重に進めた方が良いと思った。
手始めに執事見習いで私に付いてくれているジャンにそれとなく聞く。
ジャンは昔から私に付いてくれている5歳上の兄的な存在でもあったが、しばらく一緒にいなかったことや、大人っぽいしゃべり方になったこともあり、なんだか距離感をどうとったらいいかまだ掴み切れてはいない感じはしている。
「ジャン、帰ったばかりだから、今まで溜まっていた業務をこなすことから始めたい。父の愛人だったヴァネッサの冥福を祈るの為の花の用意も頼む。いなかったとはいえ、一回も花を添えないのはよろしくないだろうからさ」
「畏まりました」
「ジャンはヴァネッサの最後はどうだったか知っているか?」
「はい、それはこの屋敷の者は見た者も多いのですが、公爵閣下より箝口令がしかれております。私の口からは申し上げることができません」
「そうか、・・・すまない。ならばいいんだ」
父上が詳細なことを皆が口にしないようにするのは、当たり前だろう。決して良いことではないのだから。どんな噂にしても転がれば転がるほどに色々な尾鰭、胸鰭がくっついていくに決まっている。公爵として正しい判断だ。だが困ったな。父上、母上に直接聞くのは最後の手段にしたい。箱をひっくり返さないためにも。
「じゃあ、あの子、えーっと、ジュリアだったか?あの子は今どうしている?」
「はい、ジュリアでしたら、西の離れに乳母たちと共に暮らしております」
「そうか、暮らし向きはどう?何か聞いているか?」
「申し訳ございません。あまりそちらには行かないので、情報は・・・」
「分かった、ならば私が顔を出そう。一応彼女も我が公爵家の人間であるという事には変わりないからな」
「情報はありませんが、あそこは奥様がメイドなどを送っておりますので、心配はないかと思いますよ」
あまり行かない方が良いという事か。
「分かったよ。でも心配しないでくれ。母上のいない時を見計らって、誰にも見つからない様に行動するよ。私だって、今の状況を壊したいわけじゃないんだから」
「・・・畏まりました」
自分の生活環境を整えて、用意してもらった花を持って墓地へと足を運ぶ。
ヴァネッサとは顔を会わせることなど数えるほどしかなかったのだが、色彩が薄く、どことなく儚げな人だったと記憶している。
健康に問題があったとかは聞いたことが無いのだが、それでも30歳前後で亡くなったのだ。若い方ではある。
運命論でいえば、産まれ落ちた時に決められた年数がそうだっただけで、短いとか長いとかで良い悪いが決まる訳ではない。
そうアントニオは言っていたと思う。
それよりも何を成したか、何にどう取り組んだかが重要で、その人の功績を自分たちはどう生かすかが残っている人の役目であると言っていた。
そういう意味でいえば、ヴァネッサはジュリアという子を授かり、残したのだ。
これをどう捉え、どう生かすかは、自分たちの役割ということか。
アントニオの話は勢いだけかと思ったが、今まで出会ったもので考えてみると、一応筋は通るのだ。一つ年上とは言え、あいつの話が的を射ているのはなんだか気に食わないが、認めている所でもある。
墓地で花を添えて手を合わせ帰ろうとした時に、向こうから親子と思われる女性二人が歩いてきた。
大切な人を無くされたのだろうかと思っていると向こうから声がかかった。
「若様、ごきげんよう」
一瞬誰だったかと記憶を探っているが、分からず、足を止めた。
「私、ジュリア様の乳母をしています、キャロルと申します。以前は本館の方にもいたので何度かお会いしているのですが、今は制服も着ておりませんから、気づきにくいかもしれませんね。こちらが、ジュリア様でございます」
「初めまして」
ジュリアはキャロルのスカートに隠れながら顔だけ出して挨拶した。人見知りをしているのか、キャロルから「しっかり挨拶しなければ、ダメですよ」と言われているが、中々直そうとはしなかった。
丁度いい。
「すまない。全く気付けなかった。君らはヴァネッサの為に今日も来たのか?」
「はい、度々ジュリア様がぐずるので、ここへ来て落ち着かせることが多いのです。ここでお別れしたので、ここにはまだお母様がいると思うのでしょう」
「そうか、私は帰ってきたばかりだから、ヴァネッサの最後についてよく知らないのだ。もし良かったら、どこかで教えてくれないか?屋敷では、父上が箝口令を引いたので分からないことが多くてな。出会った人がどんな最後を迎えたのか知らないのはなんだか気持ち悪いんだ」
「勿論、構いませんわ。向こうの喫茶店でいかがでしょう」
「分かった、ならばそちらへ一足先に行っている、二人は挨拶して来ると良い」
「では、後ほど」と言って頭を下げて行った。
都合よく二人に会うことができたことに満足して、喫茶店へと向かった。
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