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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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人生に自由がない①

私の人生は全て、生まれた時に決められている。


それに気づいたのは5歳だったか6歳だったか定かではないが、確信した。


私はログレス家という公爵の家に生まれた時に、全てが決定されてしまっていた。


勉強しても、体を鍛えても、乗馬が上手くなっても、何も変わらない。逆にできない事や苦手なことがあったとしても、変わることは無かった。できたらもっと上手に、出来なければ、できるまでやらされるだけである。

産まれ落ちた時にありとあらゆる事柄が決定されて、そこから外れると戻される、そういう人生になっていると感じた。


だから、自分の人生は生まれたその時に全て決まったのだと確信した。


家の窓から街を見下ろすと、他の家の子供たちがとても楽しそうに笑い、走り回っているのが見えた。

あんなに楽しそうに自分が笑ったことはいつだったか思い出せない。

自分とあの子の違いは、生まれた家の違いだけのはずなのに、どうしてこんなにも羨ましく思うのだろうか。


産まれ落ちた土地や時代がほとんど変わらないのに、生まれた家が違うという事はこんなにも差ができてしまうのだ。


私はこのまま死んでいくのだな。


これは貴族の宿命だと分かった時に、自分は前世で何か神に恨まれたのではないかと思った。


それは自分と見下ろした先のあの子供とが違うのは何故だと家庭教師に尋ねた時に、「ロレンス様は公爵家に生まれたのですから、違って当たり前です」と返ってきた。

家庭教師は

「ロレンス様はいずれ公爵となり、ここの領主となるのですから、今からそれに向けて行動することが一番なのです」

「民衆はロレンス様の為に尽くします。ロレンス様も民衆の為に行動しなくてはなりません」

「ロレンス様もお父上の様に立派になれるため、努力していきましょう」

ともうすでに全てが固定されていた。


私以外、誰も代われる者はいないらしい。


こんな固定化された人生を与えられるのは、絶対に神からの罰に違いない。


きっと私は前世でとても悪いことをした罰が今与えられているのだ。だから笑うことさえ決められているのだ。

全てが決められて雁字搦(がんじがら)めに縛り上げられた人生をただ観るだけなのだと思うと、世界のすべてがくすんで見えた。


年齢を重ねると、貴族は上位者の所に預けられる。

貴族の序列をしっかりと身に付ける為と言われているが、実際は王様や上位者が下の者を駒として使いやすくするためだ。


公爵家に預けられている人間もいるから分かる。

自分の立場を理解させ、役割を理解させ、そうやって皆固定化された人生に変えられていくのだ。

それが、この仕組みだ。


私は7歳の時に王城に預けられた。

丁度愛人の子が生まれ、家庭環境がギスギスしだしていたので私としては有難かった。

普段は平穏なのだが、意見の対立があるとどこか棘のあるというか、少し喧嘩腰の声のトーンになるのが、胸に突き刺さる感じがしていたのだ。全ては私がここに生まれたから、決められた事であるのだが、これ以上嫌な気分を感じ続けるのは避けたいと思っていた。

だから親の元を離れられるのはとても都合がよかった。


王城に行くと、それはそれで大変なところであるのだが、なんでも自分でやるように言われたのだ。


朝起きることも、食事の給仕をすることも、水を汲むことだって自分でやることができたのだ。

何というか街を見ていた時に子供たちがやっていたことをようやく自分でもさせてもらえたという感覚で、嬉しく感じた。


ただ何年もこれをしていると気づかされる、これも私が『公爵家に生まれたから』というところからは出られていないのではないかという事に。

私が公爵家に生まれたから、朝起き、食事し、仕事をし、寝ているのだ。


今まで思っていたことと変わりない。


全ては決められていた事といって、全くおかしくない。


そう思うとなんだか絶望した。


私は私がやりたいように生きるという事は無いのだろう。自分がこの人生を生きているという実感を持つことが無いのだ。どこまで行っても、生まれた時にすべてが決まってしまったという結論から微動だにしない。


しかし、私が生まれについてこんなに絶望しているのに、周りの奴らはこれに全く気付くことなく生活しているように感じた。

さも当たり前のようにそれについて考えることもなく、楽しそうに生きていることが不思議だった。


私もついこの間までは初めてやることの喜びを感じて、続けていたのだからおかしい事ではないのだが、気づくと不気味に感じられて、なんだか気持ちの悪い感じがし、世界がくすんで見えるようになった。


でもこれだけ皆が感じていないのだから、そんなことを感じている自分はそもそもおかしな奴なのではないかとも思えてきた。


自分がオカシイのかもしれないが、目の前の世界が色がくすみ古ぼけているかのように見えるのだから仕方がない。それを気のせいとするには無理があった。

こんな悩み、今まで一緒に生活していた奴に改めて聞くこともなんだか勇気がいる。

変な奴だとか、おかしなことを言いだしたとか思われるのは、嫌だと思ったからだ。


そこで新たに来る人に聞いてみようと思った。

残念ながらタイミングよく人が入ってくることは無く、数年待つことになったが、入ってきた人はあのバーンベルクの人間だった。


彼もある意味特殊な家の生まれである。

もしかしたら自分と同じ悩みを感じていていも可笑しくない。

それに彼はきっとすぐに領に帰るだろうし。あそこはいつもそういうところだと有名だった。変に思われても大したことは無い。

そう思ったから気兼ねなく相談することができた。


彼と二人きりで話せるタイミングを見計らって、食堂の一角で話すことにした。

夕食後という事もあり、私たちの他は誰もいない。

「あの、アントニオ様はバーンベルクの方ですよね、アントニオ様は、・・・この人生って生まれた時に全部決められているって思ったことありませんか?」

何と言って伝えたらいいか迷ったが、思い切って言ってみると、相手は諸手を挙げて喜んでくれた。

「おお、お前も運命論者か!いいねぇ。こういう話はあんまり誰彼(だれかれ)とできないんだよな。わかる。わかるぞ」


運命論者?なんだか知らないが、嬉しそうだ。


「運命論っていうのはさ、全てが与えられているという考えからきているんだ」

「あ、そう、多分それに近いです。私が思っていたのは。だからすべてが決まっていて、なんだか怖いというか、操られているというか、もう見ているだけしかできないというか。これって嫌じゃないですか?」

「なるほどな。そう考えたか。でもな、これって考え方を変えると、凄く尊いんだ。すべての人は全員決められた運命を持っているってことだ。それはお前だけじゃない。俺も含めて全員だ。これは分かるだろ?」

自分以外の人間も生まれた時にすべてが決まっている、自分だけが決められている訳ではない。これは分かる。そう考えた方が自然だ。

「はい」

「じゃあ、ここで食事をしていても楽しそうにしている奴とつまらなそうにしている奴がいる、それはどこに違いがあると思う?」

「生まれた場所や時間が違うからだと思っています」

「確かにそれもある。でもそれだけじゃない。今自分に来ている運命を受け入れている奴とそれを嫌がる奴との違いだ。受け入れ立ち向かう奴は、歴史に名を残す人になったり、そこまでいかずとも大業を成す奴になる。そうならないとだめだと言っている訳ではないが、嫌がっている奴は必ず小さな生き方をするんだ。お前がどう感じていても、お前に与えられた運命は、お前にしかできないモノだ。そんなたった一つの、とっても貴重で、とっても尊いモノを貰ってんだから、受け入れるしかないと思わないか」


この人は自分と違い、固定化された人生を前向きに受け取っているのだと分かった。


確かに自分に来ている運命を嫌って怖がって遠ざけても、変わらないのだ。前向きに捉えた方が良いという考えは分かる。だがそれで自分の人生がよくなると言い切れる自信をどうして持てるのか分からなかった。


「なんでそんなこと、えーっと、運命を受け入れている人が大業を成したと言い切れるのか、聞いてもいいかな」

「それはな、大業を成すには自分を完全に捨てる覚悟がいるからだ」

腕組みをしながら、真っ直ぐ自分を見つめる眼に真剣さがあった。

「自分を捨てる覚悟」

「そうだ。自分の幸福を求めたり、自分が楽したいと思ったりしている奴に、国を動かし、人を動かし、世界を動かせると思うか?どうしてそんな奴のいう事を聞かなきゃいけないんだって、みんな思うに決まっている。だから大業を成したって人は、自分以外の人の為に自分を投げ捨てる行動をしたってことだ。そのことに皆が感動し名前を忘れないようになるんだ。自分に課せられた運命を受け入れ、愛することができなければ、自分を捨てるなんてことは出来ないに決まっているんだよ」


何の根拠らしい根拠は無かったが、説得力はあった。心理的にそうなるだろうと確かに思った。


この人は確かな信念を持っているのだ。自分にはそこまで何かを信じることはまだできそうにない。


「うん、なんとなく伝わったよ、ありがとう」

「そうか、よかった。お前名前はなんていうんだ?」


こいつ、私の名前を知らずに話していたのか。流石バーンベルク。


頭の思考回路が私と違うのだとそこではっきりと分かった。

「ロレンスだ。ログレス公爵家の長男だ」

「そうか。俺はアントニオだ。よろしくな」


知っているよ。


「ああ、よろしく」

と苦笑いをしながら握手したが、アントニオは頭の思考回路だけでなく、体全体が普通の人のそれではないようで、あいつだけ騎士の訓練メニューをやる様になった。

訓練では人の3倍の重さの荷物を持って走り、剣術では同世代が相手にならないだけでなく、5対1でさえ難なく打ち勝つ。

教官も剣術訓練メニューの教えを請い、騎士も話を聞きに来ている。


あれが普通なのがバーンベルクなのだろう。恐るべし。


何処の誰であろうと、バーンベルクが異常だという認識を持っているが、これだけ違いがあれば、文句の出ようがないだろう。


またある時

「ロレンスってさ、俺の妹と婚約する話、聞いているか?」

「なんだかそんな話になりそうだとは聞いたよ」

「そうか、あいつは俺よりも凄い奴だから、よろしくな」


は?もっと筋道をハッキリさせてしゃべってくれないかな。


「な、・・・・そうなんだ。ちなみに何が凄いんだい?」

「ここだよ」と言ってドンと胸を叩いた。

「へー、それは」


なんて返せばいいか分からないことを言うのはやめてくれ。


胸が凄いって、どう反応すればいいのさ。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

大変うれしく思います。

読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。


面白ければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

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