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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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3.17

その後、ルアーナ王国一同と共に部屋を移し、晩餐会へと移行した。


話がまとまったことで両者とも足取り軽く移動していく。

空気が変わり、張りつめた雰囲気が無くなった解放感から晩餐の場は賑やかになった。

向こうの側近たちも口が軽くなったようにしゃべりだしている。

貿易関係で晩餐から参加した臣下たちもホットしている様である。皆笑顔で会話をしている。


晩餐は小さめの広間に料理を並べた立食形式で行われた。

そこまで大きいものではないが、4、50人くらいの集まりになっている。

皆緊張からの解放もあり、どことなく砕けた雰囲気の無礼講が許されていた。


ただし、無礼講とは失礼を許し、流してもらえるという意味ではない。

立場や礼儀、役割を守ることが前提であり、少しだけリラックスして話せるというニュアンスである。


つまり、護衛の人は壁沿いに待機し任務に当たり、メイドは主人やお客様の食事を取り分け、飲み物を運ぶことが当たり前だし、国王は王様として振舞うし、公爵は公爵として振舞う。私はロレンスの婚約者としてふさわしい行動を取る必要があるという事になる。


だから当然ロレンスは私をエスコートしてくれなければならないのだが、どうも彼は私をエスコートすることを忘れているようで、置き去りにされていた。

「・・・・」


でもこれは公の場である。

あからさまに相手を叱責したり、騒ぎ立てることは良くはない。

だから私は彼に付き従うように後ろを追従して歩く。


ロレンスが話している隣で笑顔を振りまき、聞かれれば応える。


貿易相手との関係を良好に保つには何かを教えたり、付け加えることよりも、誠実に対応し、相手について興味を持つことをやめない事が大切だ。


昔はこういう社交の場が苦手だったが、今では『コミュニケーションのさしすせそ』を多投してその場を切り抜けることができるようになっていた。


お母様は頭を抱えて溜息を吐いていたが、頬肉をピクピクさせて指摘しなかったから及第点という事だろう。

お父様も言っていた。「苦手なことは誰にでもある。誰かを困らせない程度にできれば、それでいい」と。

私は場の空気を壊さない程度に相槌を打てるようになっているのだ。文句は言わせぬ。


そうやって何とか切り抜けている時に、ロレンスが休憩したいと思ったのか廊下へと向かった。

丁度いい、休憩がてらちょっとお願いせねば。


廊下に出て、辺りが静まっていることを確認してから、声をかけた。

「あの、ロレンス様」

「なんだ、今から休憩するんだ。一人にさせてくれ」

なんだかムッとしている。どこか調子でも悪いのだろうか。

それでも役割を果たしてくれるよう頼むだけである。伝えるだけ伝えても問題ないだろうと思って言葉を出した。

「こういう場ではエスコートして頂かないと困まります」

「はぁ・・・この場は無礼講だし大丈夫だ」

「そうはいきません。お義母様や王妃様はしっかりエスコートされているのですから」

「・・・そのうちそれも砕けてくるさ。毎年そうだから。君も好きに動くといい。私は少し外すから」

「どこか調子が悪いのですか?」

「いや、ちょっと息が詰まるんだ。こういう場は。愛想笑いを続けるのは苦手だし」


これは良くない。

公爵家がこの晩餐会の主催者になる。その公爵家に連なる者としての振る舞いとしては、息が詰まる程度のことで会から抜け出すなどあってはならない。こんなことは常識の範囲内であろう。それでもやろうとしているのだ。何かもっと別の訳があると思った方が適切であるといえる。つまり私には伝えられない本当の理由があるのだ。きっと。

そこまで考えて受け入れることにした。

「・・・・了解しましたわ。ロレンス様の気持ちを汲んで、私が見事乗り切って見せましょう。取り敢えず小一時間乗り越えればよろしいでしょうか、それとももっと長めがいいでしょうか」

「・・・何を考えている?」

「急な腹痛では料理長の首が飛びかねませんので、緊張でお腹が緩くなり服を汚したから着替えてくるという事にしましょう。ですから戻ってくるときは着替えていらしてください。それとも不審な人影が屋敷に見えたので、騒ぎにならないように席を外したことにしましょうか。こっちの方は、騎士たちの管理不始末を伝えなければならないので、あまりお勧めいたしません。見間違いであれば、それはそれでロレンス様の頭を疑われますけど、どれにしましょうか」

「なぜ、そんなことまでしなければ・・・」

「どのような事情か知りませんが、今席を外すという事はかなり大きなことが無い限り、あってはなりませんもの。今までできたとしても、それは子供だからと馬鹿にされていることと引き換えで許されたのであって、良い事だったことは無かったはずです。それに今は私という婚約者がいるのです。私とあなたは一心同体です。あなたの不備は私が繕わなければならないという事です。こう見えても私は言い訳を考えるのは好きではないので、丁度いい落としどころは中々思いつきませんから、大事にしてしまうでしょう。でも大丈夫。それを含めてうまく治めますので。安心してください」

親指を立てて約束する。大船に乗った気持ちで任せて欲しい。

実際婚約者なのだから、同じ船には乗っていることになる。私だけ離脱などできる訳がない。

「どこに安心できる要素があった!」

それでも不満を表すとは彼は何だかまだ状況が分からないのだろうか。

「苦手なのですから大目に見てくださいませ。迷惑をかけない程度に治めますので」

「はぁ・・・、もういい。休憩したら、すぐに戻るから。適当にしてくれ」

「そうですか。分かりました。戻らないことも考えて、お腹からギュルギュルと音が聞こえていたと伝えておきましょう。もしよかったらズボンだけでも着替えてきてくださいませ」

「お前は、どうしても私に恥をかかせたいのか」

「いやですわ。私はロレンス様のことを心配して言っているだけですよ。それにこれはある意味チャンスです。そんな方も私は愛せますと伝えるチャンスなのです。一緒になればお互い醜い所も見えるでしょう。飾った所だけではなくなることは当たり前ですから。どんなところがあっても大丈夫だと見せるチャンスと言えましょう」

「なんなんだ、そのやる気は、お客様もいるのだ、そんなことしないでいい」

「ではお早いお戻りをお待ちしております」


はあ、というため息が遠くの方で聞こえた。


どっちらかと言えば、こっちが出したい。なぜわざわざ迷惑をかけることをするのだ。


なんだかロレンスはまだ自分のことを好きではないのではないかと思えた。



とはいえ、彼が席を外していることは事実である。

勿論、休憩は大体の人が必要とする、生きていれば通らねばならぬことだ。時間が多少前後しても問題ないが、長くなるというのはそれなりに心証を悪くすることになる。呼ばれた宴席ならばまだしも、ホストの立場であるのだからなおさらである。

今まで許されているというのはそれはそれで、私が聞いていた話よりはおそらくロレンスの立場は表面的な能力部分と裏の部分では大きな乖離があるのではないかと思えた。


仕方がない。一芝居打つか。


私は会場に戻る前にいただいたバングルを外し、サリバンに預ける。

「戻ってきた時に彼に渡してください。これを探してくれていたという事にしましょう」

「畏まりました、お嬢様。でも良いのですか?これではお嬢様がいつも苦労する羽目になるのでは?」

「フ、苦労なら別に構わないわ。望むところよ。評価が下がっても大丈夫。そのうち取り戻せるようにしますから。あの人だって成長するはずです。立場や経験、ふとした瞬間にだって変わるのが人間です。その時がくれば一瞬で。だから大丈夫でしょう。私がそう決めたのです」

「そういうものですか。出過ぎたことを言いました」

「じゃあ、よろしくね」


でも、こういうのは苦手なんだよな、私は。



会場に戻ると予想していた通り、少しだけ空気が淀んだ。

空気が淀んでいると感じる時は今まで流れていた空気が変わったことを示す。真逆の流れに変えようとするのであれば、感じることなど造作もない簡単なことだ。

人の噂など、当たり前だが本人の前ではしないものだ。よくない噂であればなおのこと。


心の中で溜息を吐きながら、それでも私はホスト側であり、婚約者の役割を演じる。これも私が決めたことだからだ。

全てを受け入れ全力を尽くすことが私のスタイルである。


来たばかりという事もあり、私は色々な人から声をかけられる。

自分から声を掛けに行かずとも来てくれるのは有難い。まだ顔と名前が一致していないのだから余計にそうだといえる。

幸い、衣装からログレス領の貴族と、ルアーナ王国の人の違いは分かりやすい。


大体が初めての挨拶とこちらでの暮らしに慣れたかの確認だったりする。


これはロレンスとの間柄に対してあなたはどう思っていますかという事を遠回しに聞いているのだろうと分かりながら、それには敢えて言及しないように言葉を交わす。

いつも私は率直に答えることの方が多いから敢えて聞かれた内容だけと来るまでの道中が長くて大変でしたという言葉で濁した。

ここで建て前を言えばこの場は治まるが、簡便的に言えば、信用が1ポイント落ちるのだ。乙女ゲームでいうところの好感度と一緒考えてもいいかもしれない。


この世界は本当に信用というモノを大切にしているからこそ、人柄や言動、振る舞いで人生が左右しかねない。

それだけ物や金銭という現実に見える物でないところに価値を感じているのだ。普段の振る舞いから見えてくる本性のようなものを誰もが見極める能力があると言った方が分かりやすいのかもしれない。特殊能力のように感じるが、以前の世界でも言語化できないだけで伝わっていることが割とあるはずだ。特別ではない。気にするか分からないと目を瞑るかの違いで、必ずあるのだから。


話すときの視線、会話の調子、手振りの動き、力の入り具合、表情筋の動き、体温、体臭や口臭など様々な事から総合的に判断するから、その人の心理状態は分かる。

授業で教わるような学問的なものにできないだけで、絶対に知っているし、伝わっていることはある。

私はそういったものを見極めることがいつの間にかできるようになっていた。


だからこそ、先程のロレンスの言動は良くないように感じたのだ。


そこに漸くロレンスが帰ってきた。

私は帰ってくるのを見逃さずにすぐに扉の方に駆け寄り「申し訳ございません。ありましたか?」と声を掛ける。

すると「ああ、あったぞ。次は失くすなよ」と言ってバングルを返してくれる。

「はぁ~よかった」と安心して見せながら、「失くさない様にいたします」と笑顔で応える。

すると周りの反応はそういう事かと納得してくれる。

言っている言葉が聞こえなくても、この雰囲気だけで人は判断できるのだ。


語らない方が信用は得られるのだから。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

精鋭の読者のお陰で続けられています。

本当にありがとうございます。


喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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