3.13
朝一から説教をしたので時間はいつもより押していた。
それでも問題ないくらいなのだが、時間がズレたせいか、朝食時間にロレンスとぶつかった。
こんな遅い時間に朝食とはどういう事だろうと思ったが、偶然が重なったことかもしれない。
通常騎士は朝食を取るのならば、日の出よりも早いことが多い。
その後ぶっ続けで動き回ることが多いからだ。外に出たら満足なモノは無いのが当たり前である。
だから騎士見習いのスクワイアであれば、食事時間はかなり早いと相場が決まっているのだ。
そんな彼が今、朝食というのは、彼もいつもとは違う出来事が朝からあったか、今日は違う予定が入っているという事である。
どっちにしろこんな偶然が引き起こした出会いは何かいいことの兆しだと思い、話しかけた。
「おはようございます、ロレンス様」
「ああ、おはよう」
「今日は何か特別なご予定が入っているのですか?」
「まあ、そうだな。今日は貿易船の船団長との会合があるので、それに付き添う事になっている」
先日到着して、積み荷を降ろしていたのだから、中身の確認をして、本日商談に望むというところなのだろう。
異国情緒あふれる品が並ぶ商談は面白そうだし、未知の物に価値をどうつけるかというのも色々気になる。実に楽しそうな予定である。
「そうでしたか、なんだか楽しそうなご予定ですね」
「何言っているのだ、君も一緒に行くことになるだろ。母も行くのだから」
「あ、そうなのですね」
自分の予定は大体お義母様について回るという思いでいたので、細かな予定は全く頭に入れていなかった。服装もメイドがその日の予定に合わせて都合の良い物を用意してくれているのだからそれを着るだけであった。
どの道、「来たものには全力で」がモットーである。それで上手くいくのだが、細かいことには少し無頓着なところがあることが私の良くないところといえる。
「でしたら、今日は良い日になりそうですね」
「だといいんだが、毎年のことではあるが、これが中々骨が折れるのだ・・・」
そういうとため息を吐いた。
向こうも命懸けで運んできた商品たちだし、納得の取引をして良い物を持って帰りたいという思いもあるのだろう。
そういうバランスをどうとるかということを毎年揉めることになるのかもしれない。
前の世界でも貿易の不均衡はどこかで良くないことに結びついていた。
国レベルで物を考える必要があるのだから楽なわけがない。責任は重大だろう。
朝食を終えて、少し身形を整えてもらっていたら、馬車が入ってくるのが見えた。
おそらく貿易船の人たちと商品なのだろう。帆馬車から木箱をいくつも下ろしている。
これから行われるであろう商談が楽しみで仕方がない。どんな商品が並ぶのかワクワクする。
広めの応接間に4人で入ると、待機していた船団の代表者が挨拶を始めた。
「今年も無事お会いできる栄誉に与れましたこと、誠に嬉しく存じます」
「ハハハ、元気そうで何よりです。私もお会い出てき光栄です。サディク殿」
「閣下もご健勝で何よりです。私は本当にいつお迎えが来ても可笑しくありませんからな。今年も死ぬ気で海を越えてきましたよ」
二人は旧知の仲のように握手を交わしている。
見た目で言えば商会長は60~70歳。少し猫背で丸い眼鏡をかけた、笑っているのに目が座っている感じがする男性だった。綺麗に整った髭顔の風貌からは計算高い商人を感じさせるが、ただ内側には獰猛な猛獣がいるような目つきで如何にも、荒くれ者の船員をまとめ上げここへ来ているのだと分かる、そんな芯の強い目をしていた。
正直反社の方かな、と思った。
代表者だけだったらそこまで感じなかったかもしれないが、お伴の人達がそれを決定付けるモノを発していた。
武器は取り上げられているが、腕まくりをして肩まで剥き出しになったそれが、ゴツゴツしていて、肩幅も騎士のそれである。
バーンベルクの騎士と比べても遜色ないというか、むしろこちらの人達の方がより大きく見えるほどゴツい人が4人もいる。
護衛にしても相当なやり手なのだと想像がついた。
バーンベルクで教えを受けたためか、どうもまず出会い頭に相手の戦力分析に思考が持っていかれる傾向にあるかもしれないな。
訓練の賜物ではあるが、それで相手を格付けするのはやめようと頭を切り替えた。
そんなことを考えているとお義父様から紹介をされた。
「先日来たばかりだが、家の息子ロレンスの婚約者として来てくれたステファン・バーンベルク様だ」
「初めまして、ステファン・バーンベルクです。どうぞよろしく」
「ば、バーンベルクですか。これは驚いた。素晴らしいお家から婚約者をいただいたのですね。初めまして、わたくしバルバロッサ商会の商会長をしております、ジャファール・アル・サディクと申します。おい、アレを」
と言って小さな箱を出してきた。
「これはお近づきの印です、どうぞお受け取り下さい」
出されたものは絹で出来たハンカチだった。
「まあ、素敵な物をありがとうございます。では私の方からもこちらをどうぞ」
そう言って渡したのは私が以前作った万能薬だ。
取引の前に相手に何かを貰うのは、なんだか嫌だと思って何か出して来たら渡そうと思って持ってきていたのだ。
個人的な初対面の挨拶の際、何か添えるは貴族では当たり前だとお母様にはよく言われていた。
見た目もジャムビンのような物にラッピングしてリボンを付けただけだが、それなりに綺麗に見えるようにしていた。
この反応になんだか知らないが、鋭い目で一瞬睨まれた感じがした。
「これはご丁寧に、どうもありがとうございます。まさかこんな素晴らしい方だと思いませんでした、流石バーンベルクですね」
これは舐められていたという事だろうか?見直したのであれば、良かったのか。
結果は上々という事で受け止めて、「お褒めいただき、光栄です」と笑顔で返した。
それから商談が始まったのだが、なんだか思っていたより目新しいというモノは無かった。
私が以前の記憶を持っているという事もあるのだろうが、なんだかどれもこれも見たことがある、模倣品のように見える。
また、荒海を乗り越えるためにはあまり繊細な物を運べないという事もあるのだろう。布や絨毯のように壊れない物や陶器も厚手な感じの野暮ったい物がほとんどであった。
確かに素晴らしいものであるのだろうが、どれもこれも二番煎じというか、こっちにもあるような物が多くて、それほど欲しいと思えない感じがした。
それでもこっちにやってくるという事は、こっちから持って帰りたいものがあるのだろう。
つまり、貿易不均衡があるのではないかと思った。
「今回もどれも素晴らしい品ばかりですね」
とお義父様である公爵は言っているが、公爵もそれほど面白いと思った反応は無かったように感じた。
「ありがとうございます。ですがあまり目新しいものがなくて、申し訳なく思うのですが」
ハハハと笑っている。どこか覇気のない感じがしたが、こんな事で終わるのであれば、簡単な商談のように思う。
「これからお出しするのが、目玉の商品たちになります」
そう言って自信満々に出してきたのは絵画や彫刻達だった。
あのゴリゴリマッチョな護衛達が二人で一つずつ大切に並べていく。
これは商談が長引くな。
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