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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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3.12


翌日、早朝、マリーに言ってあったように玄関にメイドが全員整列している。


「皆さま、おはようございます」


「「おはようございます、若奥様」」


まずは笑顔で挨拶した。それは人間関係を築く上でとても大切で根底になるものだからだ。


「昨日は屋敷を綺麗にしてくれてありがとう」

そしてお礼も忘れてはならない。


彼女たちが仕事についてやる気を見せないのは、彼女たち自身にも問題があるが、主にも至らない点があったからだ。


それは彼女たちの仕事に感謝していると伝えること。

未熟な者は皆、賞賛が無いとモチベーションを保てないものだ。勿論どこかでそういう承認欲求というモノから離れることができる人もいるのだが、そこまで手助けしたり、円滑に仕事ができるようにすることが主の責務だといえる。

だから彼女たちの気持ちに応えるには、言動で返すことを忘れてはいけない。


特に今は最初だし、彼女たちはもうすでに打ちひしがれているのだから、そうしてあげないと立ち上がる者でも立ち上がってこないことが多い。残念ながら。



しかし、だからと言って、甘やかすことだけでは良くない。厳しさを崩してはならない。

主としての威厳というものを同時に発揮しなければ付き従う誘惑を与えることは出来ない。

要は飴と鞭である。


「ただなぜ、私が夕方に来た時に出迎えをしないのですか?あなた達はメイドをやめて、清掃員になったのでしょうか?」

「「・・・」」


はっとした顔は見せたものの、返す言葉は無いようで、黙っている。

一人一人の顔を見ても、少し俯いているだけだった。


「それならそれで、給金は変わります。それに宿舎も返していただきます。外からくることにしましょうか?」


メイドには給金の他に寮のようなところで暮らす権利を与えている。

これはメイドという仕事をするから与えられているものである。

庭師や厩舎などの作業員は外から通いで仕事をしている。清掃しかしない人であるのであれば、彼らと同じで十分だろう。


「「申し訳ございませんでした」」

これには流石に皆頭を下げた。

実際にここを追い出されたらすぐに住まうところは見つけにくいのだ。


この世界はかなり信用というものに比重がかかっている。

物を買うにも、特に値の張る物はお金があっても売ってもらえないことがある。


まあ、元の世界でも「一見さんお断り」はあったから珍しい訳ではないが、ここではそういうシステムが根底に根付いているいえる。

それは売る側にもブランドというモノを確立するためだったり、優越感を感じさせるためだったりと様々な利点がある。


元の世界のように資本主義ではないからこそ商人は己の目利きで人選をする権利が与えられているといえる。

この商家は誰々と取引している所であるという事がその家の誉れになるし、信用ある家であると言われる。


住まいも、実家に戻るというのは普通にはできない。

家族から厄介者のレッテルを貼られるだけではなく、街の中でも浮いた存在として扱われる。


公爵の治める地で、公爵から追い出されたのだから当たり前と言えば当たり前だが。


だから、賃貸自体も少し色を付けなければ借りることさえままならなくなる。

もう今までのような生活というよりは人生を送れなくなるのだから、なりふり構わず謝罪をしたのだろう。




でもそれでは困るのだ。


私は彼女たちにそんな程度の低い(こころざし)を持つことを期待しているのでは無いのだから。


「ログレス家は公爵です。あなた達はあまり公爵という品格を理解していないのかもしれませんが、王家に次ぐ品位が求められます。つまり、かなりハードルは高くなくてはなりません。だから昨日、主の為になることだけを考えなさいと言ったのです。私は同じことを何度も口にしたくはありません。次はありませんからそのつもりでいなさい」


腕組みをして少し彼女たちを睨み付け、威圧かける。


こんな基礎中の基礎の話を何度も繰り返すのは本当に馬鹿らしくなる。もう絶対にしたくないので、かなり強めに言い含めたつもりだ。


彼女たちも分かっているのだろうが、それでも今までの自分たちに何が欠けているのかを実感してはいないようだ。

おそらく本人たちは仕事をやっているつもりなのだから。

だから即席にやる気を起こさせるために飴が必要になる。


「私はあなた達の結婚も視野に入れて行動します。それは私に仕えてくれる人間に対して最後まで責任を持ちたいからです。だからあなた達は主の為になることだけを考え行動なさい。それができない者を私は紹介なんてとてもできませんから」


これは最低限の話である。

仕事を全うできる人間が次へと向かう権利が与えられる。


己の仕事に対して一生懸命になれない者が様々な人との関係だけは別に一生懸命になれるなんてことはあり得ない。


そんな中途半端な人間を紹介するのは私の名を汚し、周りに迷惑をかける行為になる。

誰にとっても良くない事だ。

だからまず、職務に本気で立ち向かう志を要求したのだ。


「デイジー。あなた、私の考えることが分かりますか」

「・・・・分かりません」


「ジーナは?」

「分かりません」


「ナンシー、シーラ、ララ、ラウラ、誰か分かる者は?」

「「・・・・」」

皆私の考えることが分からないので、しょぼんとした顔で俯く。


自分たちの至らなさを感じているのかもしれない。


だが私の言いたいことはそれではない。


「マリーあなたはどう?」

隣に並ぶマリーに尋ねる。

「分かりません」

彼女は澄ました顔で、悪びれもせずにはっきりと応えてくれた。



「ふふ、そう、誰もが分からないの。それでいいのです」

と皆が前を向けるように高らかに宣言した。


実際に心を読める人には会ったことが無いから分からないが、それはそれで大変な人生を課されているのだろう。

お父様のアレは嘘が感知できるだけで考えが分かるというモノではない。


ほとんどの人は他人の考えていることは分からないのだ。

大抵の人はそうなっている。だがそれでいいのだといえる。


「そうでなければ、大切なことを分かるようにはなりません。愛を、愛について」


分からないから考える。考え続ける。ここに最大の意義があるのだ。

相手のことを思い、考え、身を捧げる。それが愛というモノだ。


ただ彼女たちは私が何を言っているのか理解不能と目を見開き「は?」という顔をしている。

「あなた達が結婚できない理由の一つです。それは愛が分からないということです。勿論結婚できている人たちが必ずしも知っているものではありませんが、少なくとも私に仕える人間にはそれを理解しようと努力してほしいのです。ログレス家に仕えるという品格を理解しようとしない者は、愛とは何かなど一生分かることはありません。そんな中途半端な人間をログレス家の者として外に出して紹介したいとは思いません。つまり結婚できるチャンスすら与えられないという事です。紹介するには家に対して忠誠心を真に理解しようと努めている人でなければなりません。それができて初めて愛について思い至るのですから。そういう人になれるように努力しなさい。主のことを常に考え、分かろうと努力する。分からないものを常に分かろうと努力することで忠誠心も愛も見えてくるのです。その愛が結婚生活には欠かせないものだと分かるはずです」


目に見えないモノに対して、理解ができないことに対して、目を(つむ)り、耳を(ふさ)ぎ、(うずくま)ることをしていたら、なぜか解決しているなんてのは何回起こっても何のプラスの働きも無い。

もがき苦しむことで、何かを見つけようと試行錯誤することで見えてくる、分かってくることがある。

それは言葉にはできないかもしれないし、霧を掴んだようなあやふやなことかもしれないが、それが世界を動かしていることだってあるのだ。



「あなた達はまだ仕事と作業の区別もなければ、己の仕事にさえ心を砕くことが無かったように思います。仕事とは仕える事です。仕えるとは己を賭して捧げることにあります。騎士もメイドもそこに本質があるのです」


騎士もメイドも、いや、ほとんどの仕事がそうだが、己の人生という時間を賭けたものになる。

それに対しておざなりになる人間がまっとうな家庭を持てるはずがない。

たった一つの目の前のことをおざなりにした人間が、これから来るかもしれない事には本気になろうなどと妄想することは端から見ればすぐ分かる。これこそ滑稽というモノであろう。


他人ごとになれば誰でもわかるが、いざ自分に落とし込むと目をそらしている現実があることはザラにある。


「今までの己の行動を思い返してみなさい。主に対して分かろうと努力したことはありましたか?主の為にどんな行動をしましたか?ただ作業の見た目だけを真似て、できたと勘違いしているのではないですか?根本的なその気持ちが無ければ、いつまでたっても成長もなければ、次の展開もないと知りなさい」



実際私が結婚相手を紹介することができても、仕える、(つか)え合うことができない者たちに結婚生活は無い。

結婚には互いに仕え合って、何を考えているのか心配したり、何を思っているのかを察したりと、その努力が必要になる。

そういう事ができる人間が幸せな結婚という名の関係に至ることができるのだ。


オスとメスがくっつくだけの法律上の契約だけのものは私は結婚とは思えない。

自分が楽になりたいから結婚するとか、結婚した私が幸せになるはずだと思い込んでいるのは大体エゴイズムでしかない。

相手に寄りかかる頼り心でやるのだから、相手が負担に思い、疲れて共倒れするのは目に見えている。

そんなものは倒れなかったとしても気まぐれや不運な偶然だ。実際それは不幸の始まりになるのだから。

少なくとも私が送り出す人間はそんな不幸を味わってほしいとは思わない。

交際期間なんてもので測ることも意味がない。必要なのはそれじゃないからだ。


「どうあがいても、人には死が必ず訪れます。その時に今のあなた達には何にも残るモノは無いでしょう。それは畜生(ちくしょう)と同じ(せい)だったという事です。死ぬときは服もなければ、アクセサリーもない、お金も持たない、生まれた時と同じ状態になりますから。だからその時までにましなモノになったと思える忠誠心や愛を持っていけるように悩み続け、行動するのです。それは己が捧げるから入ってくるモノに気づけるのです。今までもらったものに気づけるようになるのです。気づけないといつまでも人間にはなれないと知りなさい」


結構厳しめに話をし、決まったと思って顔を彼女たちに向けた。

だが、伝わったのは「あなた達の結婚も視野に入れて行動します」という事だけだったようだ。

おそらくそこで思考が停止したのだろう。


ただそれでも彼女たちのやる気は出た。

結果は良いのだが、釈然としない。


残念。力及ばず。やはり言葉ではだめなのだろう。らしくないことをした。


少し後悔しながら、それでも彼女たちがキャッキャッと嬉しそうにはしゃいでいるのは少しこちらも嬉しくなる。


今まであまり褒められもせず、不貞腐れていたように見えていたから。


この世界では行き遅れといわれるが、実際彼女たちはまだ25歳くらいだ。あきらめるのは早すぎる年齢であると思っている。


平均寿命は短めだし、子供を考えると早く結婚したい気持ちも分からない訳ではないが、歳を重ねたとしても結婚はできるのだから嘘にならないように私も責任を果たそうと思う。


だって今日の話は今は理解されていなくとも、伝わっている何かはあるかもしれないから。





その後指示を出し、ジュリアにも今日の分の課題を伝えて、本館へと戻った。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

精鋭の読者のお陰で続けられています。

本当にありがとうございます。


喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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