3.7
連れて来られたところは、かなりしっかりした店構えの宝石ショップだった。
品格があり、伝統があり、温もりを感じさせるお店だ。
シックに整えられた店内は少し薄暗い感じがするが落ち着きを感じさせ、足音が全く聞こえないほどの厚めの絨毯が一面を覆っている。特に展示はせずに、ソファーとテーブルがいくつかあり、そこに客が座り店員が対応するスタイルは中々の高級店だと感じた。
私たちはお店に入るとすぐに奥の部屋に案内されて、店長と思しき紳士がどのようなものを探しているのかとコンシェルジュのような立ち回りで提案をしてくれた。
「本日はどのような物をお探しでしょうか」
「こちらの女性を飾るものを見せてほしい」
すると色々なものが次から次へと出てくる。
イヤリングやブレスレット、ネックレスに指輪。
とめどなく出てくるので、私はなんだか申し訳ない気がしたので早めに止めた。
「あの、私が付けるものは動く時に邪魔にならないモノにしたいので、小さくて、軽くて、指とかに付けずに済ませられる物にしてください」
こういう要望が多くあるのか、すぐに紳士は心得ましたと頭を下げ、イヤリングや短めのネックレス、バングルを選び出してくれる。
これらであれば、確かに邪魔にはならないかもしれないなと思っていたが、どうも隣の男性は気に入らない様子である。
「どうしてこんなに小さく、ささやかな物にするんだ」
「せっかくいただくのであれば、毎日身に付けたいと思っています。大きければ、それだけ他の服とのバランスを考えないと変ではありませんか。それに邪魔になったり、傷つけてしまうことだってあるでしょう。なるべく大切に扱いますが、何があるかなんてわからないのが人生です。できるだけそういう事に配慮しておきたいのです」
「・・・そうか」
私の言い分に何か分かったような顔になり、引いてくれた。
「それではこれにいたします」
選んだものは彫金細工バングルで幅広だが、そこまで重さを感じない。
ちょっとやそっとでは壊れそうにない物だ。
これならヒラヒラした袖口が長い服の時も、腕をまくる時も、袖ををさえることに役立ってくれるだろう。
満足した物を手に入れることができたのだが、なんだかこれじゃないという顔をしているように感じた。
そしてそれが終わると彼は続いて、街を一望できるカフェに連れて行ってくれた。
お茶なら屋敷で飲んだ方が良いのに、なぜ外で飲まなければいけないのか分からない。
確かに経済を回すという意味でも、公爵は街にお金を落とした方が良いのだろうが、これでは優遇してしまうではないか。
もっと広く還元できるようにする方が人から信頼を集めることができるのに。
どうせなら、もっと違う大規模なインフラ工事とか、公園など人の役に立つものを作って還元した方が良いだろうに。
こういうことを考えて提案するのも私の仕事だろうかと、そんなことを思いながら席に着いた。
部屋には我々以外はいない。
注文などが一通り済み、お茶が運ばれてきて、給仕はマリーたちがする。
護衛は外を守り、使用人たちは給仕の後、壁で待機する。
テーブルに着くのは二人だけである。
窓から見える街並みは確かに美しいが、屋敷から見るのとそれほど変わらない。
「お前はつまらない女だな。他の奴ならば、もっとあれが欲しいこれが欲しいとねだり、もっとあれがしたい、これがしたいと言い出すものだ。なぜおまえは今の状況で満足する」
なんだか知らないが、自分の勝手な思い込みのくせに、こっちに非があると決めつける態度が見て取れる。婚約者なのだから、ある程度知ろうとしてくれているから出てくる質問だろうと前向きに捉えて、ハッキリと言葉にしてあげた方がいいだろう。ただ私も相手のペースにされるがままではいけない。関係は綱引きのように互いに同じくらいの力で引くことが重要である。言い返さなければ。
「随分と色々な人とお付き合いしているのですね。私がその人達と違うのは外見で分かるでしょうに」
「どういうことだ」
「簡単なことです。その人と同じ人間はいないという事。同じ反応が欲しいのであれば、同じ人と付き合うことをお勧めいたします。私からそれが出なくてもそういうものだとお考え下さい」
「そうではない。お前は自分をもっと高めることや様々な事に興味が薄いのではないかという事を言いたいのだ」
「ふふ、何をおっしゃいますか。私ほど自己探求が好きな人がどこにいるでしょうか。ペイジの時でも私ほど己を高めることに貪欲な人間はいませんでしたよ」
実際に楽器の演奏や手芸も誰よりも貪欲に真剣に練習をした。若干引かれたが。
「ではなぜ宝石や服などをねだらないのだ?女は自分をより美しく飾り立てる事が好きだろうに。そうしないのはなぜだ?」
「ふふ、それは己に自信がない女性がやる行動だと思います。花や星が己の美しさを出すために、何かを求めることなどないでしょ。それにその人がそれらを欲しがる本当の理由は、人にもよりますが、・・・おそらく試しているのですよ、きっと。自分の為ではありません」
「なんだと?」
「どんなことまで許されるのか、あなたの度量を測っているのです。小さければ、残念なものをとし、どこまでも許すならば、馬鹿な奴と判断しているのです」
「それでは何が正解だというんだ」
「・・・上手く手綱を取ってくれることでしょうか」
「なんだと」
「簡単に言えば、自分の機嫌を上手く取って自分を導いて欲しいという事でしょう。でも女性は全員そういう人ばかりではありませんから。偏った女性遍歴をお持ちなだけだと思いますよ」
「フン。変な誤解はするな。別に女性遍歴などではない。妹の行動から述べただけだ」
ええ⁉妹さんがいたの?まだ一度も紹介されていないよ?
私とも義姉妹になる人がいたのかと驚く。こんな話は事前調査には何も書かれていなかったはずだ。
内心焦りはしたが、心当たりはあるのだ。心を鎮めながら質問を返した。
「えっと。ちなみに何人いるのですか?まだ紹介を受けたことがなく、私全くその方を存じ上げないのですが」
「父上が愛人に産ませた子は一人だけだ。他にはいないから安心しろ」
このニーデル王国では一夫一妻制を基本としている。
ただ愛人を作ってはいけないという法はないが、倫理的、人情的、精神的に良くないとされている。
だから一般的ではないし、そういうものを隠すことが多いのではあるが、ここでは愛人という存在について公然の秘密として認めているところがある。
これは公爵という特殊な事情から性欲と奥様の心の負担との関係で認知されるようになったものといわれている。
ちなみに愛人の子には男子が産まれようが女子が産まれようが、正当な相続継承権は無いので叙爵はされることはない。
旦那が元気なうちはいいが、そうでなくなれば捨てられることが多いとされている。
それでも全く普通に生活するには困らない物が贈られるのだが、人間は覚えた贅沢から落ちることができないのだろう。大体が良くない結果を生んでいる。
こういう事があるから、私の性格とここの風土が合わないとお父様は危惧していたのだろう。
「その娘はどこで何をしているのかしら。全く見たことが無いのですが」
「屋敷の近くに住んでいる。今度紹介しよう」
「ちなみに、ロレンス様はその娘に対してどう思っていますか?」
「・・・・正直あまり好い気はしない。どうも母上を蔑ろにしている感じがする上、あいつは我儘が過ぎるのが気に食わない。あれはあれで気の毒な身の上だと理解はしているのだが・・・」
「なるほど。そういう事であれば、私が排除いたしましょう」
「は、排除?排除なんて望んでいないぞ」
「分かっています。言葉の綾です。穏便に平和に、そして後腐れなく、幸福になってもらい、姿が見えなくなるようにしますので。ご心配なく」
「本当だろうな。具体的にどうしようと思っているんだ」
「それは・・・・」
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
精鋭の読者のお陰で続けられています。
本当にありがとうございます。
喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。




