3.5
そして目的地のログレス家に到着した。
もはや屋敷を超えて、王宮に思えた。
街が見渡せる大きな丘の上にそびえたっているが、馬車で向かうのに苦労することもないことを考えると、下に見える街が低い位置にあるのだと分かる。
公爵の成り立ちから言っても、王族の傍系になるのだから、王宮に似せて作ったとしてもおかしい訳ではない。
ログレス家が王族の傍系としてできたのはかなり昔で、お父様調べでいえば、29代続いているらしい。
公爵家にはとても厳しい制度がある。
それは直系の子供に男子がいなければ、爵位を返さなければならない決まりだ。
その決まりの上での29代である。
養子をとることも許されていないのだから、結構奇跡的な確立になるのは他の公爵家と比べたらすぐにわかる。
そのほとんどが5代も持たないで爵位を返し、王家が治めるようになってしまうのだから。
まあ、第二王子というのもがいるから、公爵が絶えて、またできるという繰り返しが実情なので、上手い循環が産まれているのだから、別に困るとか問題と騒ぐことは無い。
しかし、それだけに長く続いていると、ログレス公爵夫人の不要な期待が半端ないといわれているのである。
野球でいうところの、負けている状態の9回のツーアウトで回ってくる最後のバッターになりたくないという心境と同じかもしれない。
こういう事があるから、いくら港町の貿易港を抱えた裕福な公爵のところだからと言っても、嫁ぎたがる令嬢はいないと言われている。貴族の噂としてババ引き婚なんて揶揄されることもあるらしい。
「順番的に回ってきたのだ」とお父様は言っていたが。
私の性格上、そんなことに気を使って生きるのなんて人生の無駄であると割り切って、出来なかったら仕方がないと思う事にしているからどうという事もない。
だから全ては丁度良く順番が来たのだといえる。流石、神の采配である。
そんな事情を抱えているからか、ログレス家の出迎えはとても盛大に歓迎されているのが良く分かる光景になっていた。
門の入り口からずらりと騎士や使用人が均等に並び、玄関のところに公爵自らが直立不動で待ち構えていた。
え⁉これっていつからやっているの?怖いよ。
馬車を引いてくれている馬たちも気後れしているのだろうと思えるほど、ゆっくりと門をくぐり玄関まで来た。
「ようこそ!ログレスへ。遠い道のりで大変でしたでしょう。私がログレス家当主アンドレア・ログレスだ」
「ようこそ。ステファン様、初めまして私がイザベラ・ログレス公爵夫人です。宜しければ、ベラと呼んでちょうだい」
「初めまして、ステファン・バーンベルクです。これからどうぞよろしくお願い致します。私のことはステフで構いません。・・・大勢での出迎えに、ちょっと驚きましたわ」
「ははは、まあ、私たちの嬉しい気持ちを表しているのだと思ってもらえれば。伝わっていれば嬉しいな」
「そうです。心を見せることは中々できませんからね。伝わっていたら嬉しいわ」
「ありがとうございます。でも私が来る知らせはしておりませんでしたので、・・・ちなみに、これはいつから・・・」
「フフフ、実は昨日もやっていたのよ。一日潰してしまったわ」
おおおおお、マジですか!?あいが、愛が、深いいいい!
「良いんだ、大切な人を思って待つんだ。一瞬の出来事だったよ」
「そうね。取るに足らない事よ」
ウフフフフ・・・と笑いあっている。
これは、家とは違った意味でヤバいところに来たわね。きっと。
「それじゃあ、中に入ろう」
そういって中を案内される。
我が家も上品であったが、ログレス家も上品でありながら、美術に対しての造詣が深いことをうかがわせるものが多かった。
壁の絵画もそうだし、彫刻が置いてあったりという事もあるが、なんといっても、家具だ。
一つ一つが丁寧に彫り込まれた装飾が部屋を優雅に飾っている。
バーンベルクの屋敷ではこういう彫り物をした家具というのはほとんど見なかった。
それはそれで機能美を追及しているので美しさはあるが、繊細なこちらの物はとてもエレガントで高貴な心持にさせてくれる。
流石は公爵である。
「ステフのお部屋はこちらよ」
日当たりも良く、庭を一望できる二階の部屋だ。
家具も全てが、統一感ある丁寧な作品であり、華美でありながら、癒しもある。
なんだかもうすでに気に入られている様だ。
「ご準備下さりありがとうございます。ところでロレンス様はどちらに?」
この言葉に二人はビクッとした。
「え、ああ、あいつは今出かけていてね。申し訳ない」
「そ、そうね。きっと夕飯には戻るはずだから、その時挨拶させるわね」
なんだか怪しいが、こちらも旅の片づけもしなければならない。
分かりましたと応じた。
それから荷解きをしたり、旅の汚れを落としたりと様々なことをして晩餐に望む。
「まぁ、素敵」
お義母様が食堂に行くとすぐに褒めてくれた。
「旅装から見違えたね」
お義父様も褒めてくれたのだが、肝心の旦那様の姿は見当たらない。
せっかくマリーが気合いを入れて準備してくれたのに。
「ロレンス様はまだお戻りではありませんのね」
「ああ、あの子は今日は遅くなるだろう。先に食べ始めようか」
「そうなの、ごめんなさいね」
「分かりました」
到着するのは大体しかわからないのだから、こういう事もあるだろう。
昨日出迎えの為に一日無駄にさせてしまったのだから、こんなことで文句を言うのは我儘だ。
マリーごめんよ。
そんなこんなでその日は無事に終わった。
結局彼はその日には帰ってくることが無かった。
次の日の昼頃ようやく彼が帰ってきた。
帰宅の知らせが入ったので、私は出迎える為にエントランスにお義母様と一緒に向かった。
「お帰りなさいませ。若様」
使用人が先に出迎えていたが、遅れて私たちも声をかけた。
「お帰りなさい、ロレンス。昨日いらしたステファン・バーンベルク様よ」
「お初にお目にかかります。ロレンス様。私がステファン・バーンベルクです。これからどうぞよろしくお願い致します」
見た目は確かに眉目秀麗だ。
ダークブラウンの髪が短く整えられていて、肌は日に焼け少し浅黒く、雰囲気があるワイルド系男子だ。
瞳の色が海のようなブルーが印象的である。
体格は痩せているように見えるが、筋肉質な感じが服の上からでも分かった。
彼が私を一瞥し、つまらなそうにそっぽを向いた。
「バーンベルクからくると聞いたからどんな猛獣が来るのかと思ったが、大したことないな。王都で見た令嬢たちの方が色白で、女性らしいと思ったが、まあ、仕方ない」
そういうと自分の部屋へと向かった。
ほ~ん。性格の方は中々ですね。
「ちょっと、ロレンス待ちなさい!」
とお義母様が声を荒げたが、聞く耳は持っていないようで、そのまま行ってしまった。
「お義母様、野外活動されていたようですし、また改めてご挨拶させていただきますわ」
「そう?ごめんなさいね。あの子にもちゃんと挨拶させるからね」
話を聞くに何と彼は狩りに出かけていたのだそうだ。
お付きのスクワイアや騎士と共に、ログレス家の広大な敷地の森で狩りをしていたらしい。
ログレス家は海が有名ではあるものの森も近くにある。
バーンベルクとは違い、騎士の人数は少なく、管理する敷地面積を考えると大変な仕事になるだろう。
そういうことが分かると責めることもできないなと受け入れられる。
ただ、先程の言葉に関しては別である。
皆は知らないだろうが、私は負けず嫌いなのだ。
言われっぱなしで済ますことは出来ない。
どんな令嬢を見て思ったのか知らんが、私の女性らしさを見せつけるしかない!
ここでの行動方針が決まった。
私の女性らしさを認めさせるのだ。
女性らしさというものを少し考えると、迷路に迷い込む。
前世ならば、共感力の高さ、情緒の豊かさ、母性的なセンサー、はたまた、か弱さなどが一般的なのだろうが、この世界の女性らしさとは何か。
祖母、母、エミリヤを思い出す。
貴族女性として私が参考にするべき人たちであるはずだ。
私もペイジの時に王宮で仕えたが、私の場合、一年で終わらせてしまったからあまり周りを気にしていなかった。
まあ、彼女たちの行動をあまり記憶に残っていないだけで、あの子たちが私を見て引いていたこと、怯えていたことは覚えてはいる。
どの道目指す姿としては、相応しいのは前者の人たちだろう。
大体できていると思うのだけど・・・。
何が足りないのか自分では分からない。分からないのならば聞くしかない。
「マリー。私はお母様やエミリヤと比べて女性らしさで何が足りないかしら」
「お嬢様が足りないものですか?・・・胸でしょうか」
は!確かに見た目で女性らしさを評価されたのだから、私に不足を感じたとしたら、それだ!
あまりに的確だった指摘に、なぜ自分では気づかなかったのだとショックを受けた私を見て、マリーが慌てて言葉を足す。
「で、でもそんなに違わないと思いますよ。現状の比較であって、同じ年齢の時であれば、きっとそんなに違いは無かったのではないかと・・・」
「・・・」
私は知っているのだ。前世の世界でもそうだった。
大きい子はもうすでにこの年齢で大きくなっているのだ。
どの道今すぐギャフンと言わせることは難しいようだと気づいた。
逆にギャフンと言わされた気分だった。
ちくしょー
巨乳好きに呪いあれ!呪いあれ!呪いあれ!
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