3.4
今日は襲撃もあり、突発的な商会訪問もありと予定通りの移動は出来なかった。
今から出発して旅程を辿ると、様々な問題が生まれることが予想されたので、このハーメルン商会が牛耳る街で宿を取ることにした。
宿の食堂で皆で集まって食事をする。
「まさか本当に訓練が役に立つとは思っていませんでした」
それをこぼしたのはレオンだった。
「流石お嬢ですね。予知能力でもあるんじゃないですかね」
ライオネスも同意して私を褒めてくれる。
別に予知したわけではなく、私の周りの人が傷ついて欲しくないからやっていただけである。
せっかく私に付いてきてくれると分かったのだから、それを守るのは私の責任の内だ。
だからやったのだ。無駄になった方がよかったことでもある。
「私は鍛錬したことが役に立つと分かったので、嬉しかったですね」
マリーは嬉しそうだが、実戦なんていうものは経験しないで終わっても困りはしないのだ。
「マリー、気持ちは分かりますが、そこに喜びを求めるようになってはいけませんよ。血に飢えた猛獣になってしまいますから」
「そうですね、気を付けます」
こんな話をしていると、宿の人が私に手紙を手渡した。
その内容は先程の商会長ルカ・メルカンテからの面談依頼だった。
まあ、明日の朝少しくらいならば時間をとっても問題ないという事で、それでよければと返事を返した。
「昨日は暴言を吐いてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
出会い頭に、深々と頭を下げて、謝罪をされた。
自分よりも大分年上に頭を下げられると、どうしていいのか分からなくなり、とりあえず許してしまうのが人情だろう。
私も多分に漏れない。
「私が差し出がましいことを言ってしまったのです。頭を上げてください」
「いえ、私の不徳を気づかせようとして下さった言葉に、逆恨みをしたようなものです。本当にありがとうございました。お陰様で目が覚めました」
昨日とは別人のように晴れやかに元気が良くなっていた。
「そうですか、それは良かった」
私も笑顔と共に親指を立てた。
「今まで『バーンベルクの女性は聖女である』という言葉を、荒れ狂う男を治めてくれるからだと思っておりましたが、私にとってもステファン様は正に聖女でした。わっははは・・・」
「・・・」
え、何それ聞いたことないんだけど。
引きつった笑顔で応えることしかできない。
「ハハ、こんな事言われても戸惑わせてしまうだけですね。でも本当に腐りそうになっていた人生を救っていただいたことは事実なんです。このまま自然に任せていたら、私はきっと安心して、幸福になって、楽になって、堕落して、ゆっくりと腐り果てて死んでいくところでした。今まで築いた物も全て腐らせ、失くしていたやもしれません。それを救ってくださった恩は言葉では言い尽くせません。ステファン様がおっしゃりたかったことはそういう事ですよね」
頷き、肯定しながらしゃべる。
「私はずっと我がバーンベルクはどうしてこんなにも長い間続いているのかと考え続けています。それに答えが見つかったわけではありませんが、その中で感じたことと、今この状況を見比べて、オカシイと思ったところを伝えたのです。お役に立てたのならば、嬉しく思います」
「いやー、本当に流石としか、言葉がありません。ご兄弟に負けず劣らずの才女ですな」
それからも感謝の言葉をいただきながら、次のところへ向かわなければならなくなり、別れを告げた。
今回のお詫びも兼ねて、宿代や旅費の足しにと資金援助までしてくれた。とてもいいおじさんだった。
これがパパ活と言う奴だろうか。
とりあえず味方といえるくらいには仲良くなれたことに胸をなでおろした。
ただ、くれると言われたから貰ってしまったが、これは良かったのかと判断に迷っているとそれに気づいたのかマリーが声をかけてくれた。
「お嬢様、大丈夫です、あの方も喜んでいましたし、遅れても問題ありません」
ちょっと私の気持ちとはズレた言葉であるが、励ましてくれた。
これに対してサリバンも頷いて、肯定してくれる。
「まあ、終わったことですから、考えるのはやめましょう。それよりも、もうそろそろログレス領に到着するのではなかったかしら」
「そうですね。旅程から言えば、近いとは思うのですが」
そういって、小窓を叩き、マリーがライオネスにどのくらいかかるか問う。
「もうログレス領には入っています。遠くに海が見えてきましたので、明日には街に到着できると思いますよ」
この言葉にマリーがやる気になった。
「明日には着くと言っていましたので、本日は気合を入れてお手入れしないといけませんね」
「大丈夫よ。特別なことはする必要ないわ。今から気合を入れたら、これから毎日気を張り続けることになってしまいますよ。それじゃあ、あなたが倒れてしまいます。これからずっといるところになるのだから、気負わずに暮らせるようにならなければね」
「それは分かっておりますが、初めは肝心なんです!美しいお嬢様をより美しくするのが私の仕事ですから」
「ふふ、ならば任せます」
マリーが分かっているのであれば、無理に諫めるのはやめましょう。
予定通り宿に泊まり、マリーの言われるがままに付き合って、ぐっすりと眠ることができた。
そして次の日ようやくログレスの街に着いた。
そこは一目見てエーゲ海の白い街並みと重なって見えた。
蒼い海と青い空、オレンジの屋根に白い壁の家。
照り付ける太陽はそれらをキラキラと輝かせてくれていた。
一度も行ったことは無かったが、写真で見るそれらと重なって見えるほどに近いと思った。
海には大きな船が3隻停泊していて、港も活気があるように見える。
街は人も多く、色とりどりの思い思いの服を着ていて、白い壁とのコントラストでとても華やいで見える。服の露出も少し高く、開放的な地域という印象が強い。
ここの人たちは服などは流行の最先端を行こうとしているのかもね。
私は気軽に窓を見ていたが、マリーは刺激を受けたのか、自分たちは飛んでもない所まで来てしまったというような表情で少し青ざめていた。
「お、おお、お嬢様!なんだか別世界です!」
「そうね、別の街に来たのだから、こういう事もあります」
「な、なんでお嬢様はそんなに落ち着いていられるんですか、こんなに眩しくてキラキラした世界に来たのに!」
「マリー落ち着きなさい。人なんて皆同じよ。起きて、食べて、寝る。誰もこれから逃れることは無いのよ。だからあなたも一週間もすれば、普通に思えるようになるわよ」
「・・・・確かにそうかもしれませんが・・・。申し訳ございません。取り乱しました」
「ただ、持ってきた服が少し役に立たなくなりそうだわ。気候を考えると、新たに作った方が良いかもしれないわね」
「あっ!そうですね。向こうに着いたらお店やテーラーを聞かなければなりませんね」
「向こうの出方を見てそれに沿わせるように動きましょう」
「かしこまりました」
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大変うれしく思います。
読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。
季節の変わり目で体調を崩してしまった家族がいて、明日はお休みになりそうです。すいません。
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