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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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42/59

3.3


謝罪は受け入れたが、念のため言葉にしておく。

「我が家はあなた達のことに対して何にも思っていないのです。だからお互いそうしましょうと言っているだけです。もしまた危害を加える試みがあれば、たとえ、この領が地図上からなくなる大規模な戦いであろうと、他の領主から非難されようと我が家は止まらないと思った方が良いです。ただ、やりたいわけではなく、攻撃をされたら迎え撃つことをやるのが我がバーンベルクという貴族だというだけなのですよ。あなた達が正義だと思っているだろう利害損得や法律、ルールという物では止まらない埒外(らちがい)の存在なのです。だから私が言った言葉は裏も表もなく本心だけです」

「はい、重々承知しております」


ルカ商会長の平身低頭っぷりを見せている間に、息子のマルコは秘書や従業員に抱えられて退場した。


「ハーメルン商会の現状はあなたが築いたのですか?」

「はい。代々商家を続けておりましたが、私の代で神から愛されたのか、ここまで大きくなりました」

謙遜しながらではあったが、ハハハと笑い機嫌が良く答えた。

「そうですか、お子様は他にもいらっしゃるんでしょうか?」

「はい、他にも5人おります。ですので先程のマルコは次期会長から外して・・・」

「それなら、ハーメルン商会を分けて競わせた方が良いでしょう」


それまでにこやかな笑顔を(たた)えていたが、私の言葉でストンと抜け落ちた。


「へ・・・」

眼を(すが)めて、観察する表情が映る。


「まあ、それでも本気で争うか、裏で手を組むかはわかりませんが、あなたの理想はこの先必ず崩れてしまうと思いますよ」

「何を・・・」

「おそらくメルカンテ家は自分たちと取引相手と世間の皆が喜んで貰える、そんな商いをしてきたのだと思います」

「なぜそれを・・・」

今度は驚き唖然としながら、ソファーの肘掛に置いた手が震え出した。


「でも、その理想はここまで大きくなると都合が悪いところが見えてきていると思います」

「え?」

「我が家がハーメルン商会を拒否した理由が何かは知りませんが、このやり方はおそらく自分に都合の良い相手しかいないことにしているのではありませんか?」

「・・・・」

図星なのか、表情が苦虫を嚙み潰したように変わる。


「それは中にいれば理想の世界ではありますが、理想から外れた者も出るでしょうし、理想だと思えない存在だっている。自分の中の理想が世間の共通認識だと勘違いしたから生まれてしまうのです。ですからこんなに大きくしないで、自分の家だけでそのことを守っていけたら、理想に近づいたのかもしれません。実際、あなたの息子はあなたの理想を体現できずに殴られました。理想とは他人に強要するものではないはずですよ」

「・・・あ、いや、それは」

「ご自身でも気づいているのではありませんか?今までの中でも断り、見捨てた存在はあったでしょ。あなたの理想は本当は誰もが喜んで貰えることにあったはずです。ここまで大きくできたのは、大多数を(すく)い上げることができたからです。でも必ず漏れてしまうものは生まれてしまう。大きくなればなるほど、それが如実に分かるようになる。だからいつか問題となり、崩れ、無くなってしまうのです。本当ならあなたの考えは偉大な文化に向かうはずだったのに。歴史に残るはずだったのに。もったいないですよ、それは」

「・・・判ったような事をいうな‼」


大声で怒鳴られて、場がシーンとした。

ルカ商会長はふーふーと息を上げて、怒りを抑えているように見える。


もうこれ以上話しても聞いてもらえそうにありませんね。

私がしゃべるとこうなると分かっていましたが、どうやら味方にはできそうにないです。

諦めましょう。


私はさっさと切り替えて、次へと向かうことにした。

「怨念は断たれたので、私はこれで失礼します。出過ぎたことまで口を挟んでしまいました、お詫び申し上げます。それでは」


そう告げて私たちは退散した。





  §

何だったんだ、あいつらは!クソっ!


バーンベルクに関わると(ろく)なことにはならない。


今回のことは息子のマルコが独断で仕掛けたとはいえ、あいつらに関わると碌なことにならないのだ、いつも。


私は部屋に帰り、椅子に体を預け、あのクソ生意気なメスガキに言われた言葉を思い返した。

「あなたの理想は本当は誰もが喜んで貰えることにあったはずです」


他では漏らしたことが無い我が家の家訓。

『利益は自分たちだけのものではない。顧客、世間に認められる事こそが利益となる』


あの小娘はなぜこれを言い当てられたのか分からんが、腹が立つ。


私はこの教えだけを信じ、しっかりと守って生きてきた。

守っていたら、力がついてきたのだ。


その中で、皆に分かりやすいように色々なルールも整備していった。

多くの人が良い物を安く買えるように、利益を様々なところに寄付をする、そういう仕組みを作ってきたのだ。


そういった中で我らがハーメルン商会はこの地で認められ、規模も大きくすることができた。

代々伝えられていたメルカンテ家の家訓は正しかったと喜んだ。


しかし、あいつが言ったように、認めてもらえない、こぼれ落ちてしまった連中も出てきたのは確かだった。


仕入先で、「これは買い取れない」と断った事。

販売所で、「お金が無ければ売れない」と断った事。

周りの人間も、「もうついて行けない」と言い出した事。


いつの間にか自分の周りは、私に反論するものは消え、皆、追従してくれる人間ばかりになっていた。

それは居心地は良かったのだが、なんだか続けることの張り合いが分からなくなり、もうどうでもいいものになっていったように思った。


だから年齢を理由に家督を譲ることを考え始めていたのだ。


自分はこれだけ大きくしたのだ。もう十分だ、十分頑張ったのだと思った。

精一杯やったのだから、もう楽をしてもいいのだと自分を納得させようとしていた。


「本当ならあなたの考えは偉大な文化に向かうはずだったのに。歴史に残るはずだったのに。もったいないですよ」


またあのメスガキの言葉が浮かび上がった。


何故私はそんなことを言われないといけないのだ!

頑張ったはずだ。やり遂げたはずだ。何にも恥ずかしいことは無いはずだ!


そう思うと、あの断ったことや、別れた仲間の顔が頭にチラつく。


あいつが言っていた『偉大な文化』とは何だ。



バーンベルクの家訓はよく知られていた。

『この地を守ること』


それは絶対的な強さのなせる業であるが、あいつらの守るモノの中身は全てが含まれていた。

住まう人だけではない。植物や水、自由や権利。

有形、無形問わず、全て含まれている。


しかし、それは必ずできることでは無い。

相反する存在や奪い合いになるところはどこにでも必ずあるのだから。


それをあいつらは己の裁量で線引きする。

それがバーンベルクのやり方だ。


私となにも変わらないじゃないか!と思った瞬間、違和感に気づいた。


あいつらは切り捨ててはいないのか?


あいつらはもしかしたら、切り捨てず、ずっと苛まれ続けているのかもしれない。


私が仕方がない、しょうがないと切り捨てることを決めたあれは、本当は助けられるものではないだろうか。


出来が悪いから買い取れないと断った、あれと、金がないと言っていたあいつは結びつけることが本当は出来たのではないか?

それこそが私の理想だったのではないか?



こんなこと計算しなくても分かる。

人件費や輸送コストすべてで赤字になる。

何一つ利益が無い。これでは商売にならない。


でも我がメルカンテ家の家訓は

『利益は自分たちだけのものではない。顧客、世間に認められる事こそ利益となる』


私は、利益を我が家のものだと、利益を上げることだけが商会の意味だと勘違いしていたのではないだろうか。

『利益は自分たちだけのものでは無い』

ハッキリそういわれているのに、少しだけでも利益にならなければ、価値がないと思いこんでいたのだ。


しかも現状、我が家はこれだけ大きくなり、肥え太っている。


これは我が家のものにし過ぎている証である。


「クソ!」

バンと椅子の肘掛を叩き、怒りをあらわにして、発散させた。


この歳で始める新たな商売は上手くいくだろうか。


怒りが抜けると自然とこの考えが頭に浮かぶ。


イヤ、関係ない。

己がやりたいと心から思える仕事だ。


年齢や体力、資金を計算し始めたら、いつでも不十分という答えしか出ないことを私は知っている。

もう何十年もやってきていることだ。


若い時は無理をし、年とっても無理をし、これからも無理をする。

そうやるしか人生は上手くいかないようになっているのだ。


それに分かったのだ。私の使命が。


あの、断った二人を結びつけることが私の使命だ。


商人とは、出会えない人たちを結びつける、そこに価値があるのだ。


「ふふ、これは世間が気が狂ったと騒ぐかもしれんな」


面白いじゃないか!いいじゃないか!これが私の使命だと分かったのだから。

大赤字覚悟で、商売をする。

馬鹿だと言われようが、筋が通っていれば、気にすることなんて何にもない!


『あなたの理想は本当は誰もが喜んで貰えることにあったはずです』


そうだ!その通りだ!それが私が商人でいる一番の理由だ!何が悪い!

理想が夢が大きくて何が悪い!


「私は死ぬまで現役でいられそうだな。ハハハハ・・・」


久しぶりに大笑いして、活力が湧いてきた。



最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

精鋭の読者のお陰で続けられています。

本当にありがとうございます。


本編では触れられませんでしたが、

商家は商人の家の名前で、商会は会社の名前というイメージで書いています。

わかりにくいかもしれませんが、これで書いております。


喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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