3.1
「ステフ。準備は出来ましたか?」
「はい、お母様」
積み込みをしている馬車から家族に向き直る。
「本当に娘が嫁ぐってあっという間ね」
「結婚はまだだ!」
お父様はどうやらまだ決心が揺らいでいるようだ。
「それでも婚約者のところに行くんだから、ほとんど一緒よ」
「・・・16歳か。早いよ」
「あなたは意外に女々しいのね」
「うるさい!ステフなんだから。特別寂しいに決まっている」
我が領から数年前にエミリヤも嫁に出しているが、実の娘という意味では特別に感じる様だ。
「ステフ、可愛がられるためにも対話は大事だからな。ちゃんとしろよ」
「レオナルドの言う通り。公爵だし、都会だし、こことは違うんだからな。誰も庇えないんだからな」
兄たちに言われて神妙に頷く。
「「「「・・・・」」」」
「行って参ります」
「あいつは本当にわかってるのだろうか」
結局私は予定通りログレス公爵の息子と婚約した。
名前はロレンス様。
お父様調べでいえば、眉目秀麗、頭脳明晰で、とても優しい人だとか。
婚約者としては、なんともありがたい話であるが、どうやら周辺状況は以前に増して胡散臭い方へと向かっているらしい。
今世は結婚できるのか~と思ったが、それには数年間の内に、向こうのお義母様に気に入られる必要もある。
おそらくやらなくてはならないことは多いのだろう。
今から楽しみで仕方がない。
ログレス領は王都を挟んで向こう側にあるからかなり遠い。
馬車でも約一月かかると言われた。
ついてきてくれた侍女は2人。
サリバンと歳が近いマリーである。
マリーは前世の私と同じ名前の響きがあるという以外にもシンパシーを感じるものがあった。
マリーの見た目は黒髪ロングのポニーテール、無表情だが、喜怒哀楽は分かりやすい。
性格は曲がったことが嫌いであり、様々なことを突き詰める心意気がある。
私に仕えてくれる人には必須の資質といえる。
だからついてきてくれることになった時には運命的なものを感じた。
御者二人は家の人間だから、御者兼護衛といえる者である。
元騎士で、名前はレオンとライオネス。
一ヶ月の旅路は相当長い。
街経由で行くのでそこまで危ない旅路という訳ではないが、暇はできる。
暇つぶしは必要だ。暇つぶしという意味で私が選んだものはレース編み。
兎に角集中できて、無言で出来て、誰かの役に立てる。
こんな素晴らしいことは他にはない。
侍女二人もこういうことが得意のようだ。
色々な色の糸を大量に持ってきている。
到着までに大作を完成させる予定である。
王都までは特段のイベントはなかったのだが。
そう、無かった。
王都を過ぎると、街道であっても何故か盗賊が出てきた。
治安が良くない街が多いのかもしれない。
ライオネスの話では、「家の家紋を見て襲ってくるのは、殺し屋だと思います」というように、大抵は気配を感じた時点で、二人が我々はバーンベルクだと大声を上げるだけで、逃げていくらしい。
流石である。
それでも逃げていかない者には弓を射かけて牽制するらしい。
それで実力のほどは分かるだろう。
弓はちょっとやそっと練習したくらいで、遠くまで真っ直ぐ飛ばすことは出来ないものだ。
武芸を嗜む者かどうかがすぐに分かる。
それであっても襲ってくるのは間違いなく、超が付くほどの大馬鹿者か、ガチの奴のいずれかだ。
そしてそのガチの奴にログレス領手前で襲撃を受ける。
それは真昼の移動中に起こった。
二人がいつものように牽制までやっても立ち去る気配がなく、中に合図がきた。
我々を襲うという事はもうすでに囲まれ、しかも人数が多いことを意味している。
同数では勝てるとは限らない。少なく見積もっても倍はいるだろう。
それでもこんなところで恥を晒す訳にはいかない。
襲ってくるというのであれば、迎え撃つのがバーンベルク流である。
場所は開けている街道ではあるが、両脇は草原が広がっている。
その奥に森があるが、100m位遠くである。
その森に気配があるという事だろう。
場所も迎え撃つには悪くない。
馬車を止め、覚悟を決める。
相手もおそらく覚悟を決めて襲ってくるのだ。こちらも相応の覚悟で応じることが礼儀だ。
馬車の中で弓とナイフを装備し、侍女のマリーも剣を装備して外に出る。
こういうことを想定した訓練を徹底的にやってきた。
お母様からは嫁入りにはそぐわないと言われたが、マリーからは「王家では一応訓練はやりますよ」といったのだ。ならばやることが道理だろう。
バーンベルクの騎士団相手に、ある程度の人数相手の撃退訓練をして、相手の無力化まで対策を練っている。
前世の聞きかじりではあるが、トニーとも話して特殊部隊のような速やかな行動が瞬時にできるほどの鍛え方をして来たのだ。
目視で見えた相手に痺れ薬を仕込んだ矢を射かける。
弓は余程当たり所が良くないとガチの人を止めることは出来ない武器だ。だから薬に頼っている。
これならどこに当たったとしても問題ない。
身構えられるよりも速く迅速に次々とやらなければ、騎士を止めることは出来なかった。
マリーは私に狙撃の矢が飛んでこないように私を近くで護衛にはいる。
私ももう10年くらい本気で練習したのだ。それなりの腕前にはなっている。
草原に出てきた者から順に倒れていった。
それでも向かってくるガチ勢がいる。
レオンとライオネスは最初は馬を守る。
一番狙われやすいからだ。
ただ馬も財産になるから無暗に傷つけることはしないだろうと言われたが、それでもガチの人ならば、相手を拘束する意味でも、狙ってくるだろうと聞いている。
先に馬車を止めたので、馬を狙わなかったのか、それとも狙撃手がいないのかは知らないが、矢が飛んでこないと分かったので、馬車の屋根に上がり、草原に出てくる者を倒していく。
ほとんど近寄らせることもなく第一波が終わる。
3人で15人ほど倒したと思う。
街道の中では一番森が近い場所であっただけに、ここに大量に仕込んでいるのだろう。
まだ森の中には気配を感じる。
しばらく睨み合いの展開になりそうだ。
こちらも矢を補充したり、警戒を強める。
おそらく決心がついたのだろう。
右からヒューっと音が鳴る。
鏑矢が飛ばされた。
次の瞬間、「うぅおおおおおおおぉぉぉぉ」と雄叫びを上げた吶喊ガチ勢が一同に襲って来た。
左右それぞれに7、8人。
これは訓練通りだ。
「お嬢!お願いします!」
この掛け声で、私は睡眠薬が入った炸裂弾を相手に投げ込む。
その後生き残りを弓で攻撃し、それでも近づいた者はマリーが排除した。
反対側もレオンとライオネスが二人で迎撃して事無きを得た。
2対8でなんとかできるのは流石元騎士である。
総勢30人の大所帯だったが、見事返り討ちにして、バーンベルクの名に傷をつけることは無かった。
死者は出ていない。
危なそうな人は何人かいたが、縛り上げた後、万能薬で治療を施した。
彼らは犯罪者として突き出したとしても、おそらく出て来れる人たちであろう。
ガチ勢を雇う、依頼するという人はそういう立場の人間なのだから。
私としては、こういうことをやる輩に対し、詰め将棋のようなやり方や、回りくどいやり方や、言い訳がましい言葉に付き合いって時間を取られることを避けたい。
そんなことに時間を取られるよりも、もっと大切な物に時間を取りたいのだ。
だから始末してしまった方が簡単だが、そんなことをするよりも、もっといい方法を私は手に入れている。
そう、「真人間製造薬」略してマヤクである。
これを飲ませて、野に放とう。
真面目に生きてくれ。
このマヤクはあくまでもバーンベルク領での禁止薬という話だ。
中世と同じで、領主法という領独自の法が施行されている。
他の領では、使ってはならないと言われていないのだから全く問題ない。
領主が薬の存在を知るまで、禁止にしようがないと思うが、それはそれだ。
むしろ、身の安全を守る為であれば、形振り構うなというのがお父様の教えである。
禁止されるまでガンガン使おうと思っている。
彼らから依頼人を聞いたところで、本人ではなく人伝であろうし、嘘を教えられているかもしれない。
こういうつまらないことをする人間は大体、生きるという本質が見えていない奴がすることだ。
関りを持たないことが一番である。
というのが私の意見なわけだが、家の元騎士としてはそういう訳にはいかないらしく、尋問を始めた。
「どこの手先だ!所属を言え!」
「俺たちは雇われただけです。金が良いから、集まったんだ」
「その雇い主は誰だ!」
「ハーメルン商会です。あそこはバーンベルクに何度か叩かれているからそのせいでしょう」
これって、恨みを募らせた仕返しでしょうか。
我が家の因縁であれば、仕方ないですね。私が引き受けるのが筋ですね。
「分かりました。ハーメルン商会へ行きましょう」
「「え!」」
レオンとライオネスが驚いているが、それが筋だろう。
確かにそこも誰かから雇われている可能性もあるが、それでも我が家の因縁があったから商会が動いたのだ。
「これから私はこちらで暮らすのだから、度々問題を起こそうとしてくる前に綺麗に清算した方が暮らしやすいでしょ」
「・・・そうですけど、流石にこの人数で行くのは・・・」
「確かに不安ですが、武力でどうにかするつもりはないんですよ」
「「え?」」
二人とも驚き過ぎです。私はそんな好戦的な人間ではないのだ。本当に。
ただ力ない正義は何もなせないと思っているだけだ。
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