2.16
なんだかお父様が遠い目をしている中、少しモジモジしながらトニーが手を挙げた。
「あのー、ところで私はどなたと婚約しているんでしょうか?」
「え、全く決まってないぞ」
トニーの方からピアノの鍵盤をたたいたようなガーンという音が鳴った気がした。
妹に先を越された気にでもなったのだろうか。
自分で探せと放り出された気になったのだろうか。
ひとりはひとりでいいと思うのだが、トニーにとっては違うらしい。
「では、私の婚約者はどんな人ですか?」
「まだ婚約者ではない!」
きっぱりと言い切った感じで黙ろうとしていたが、私の眼力に負けたのか話を続けてくれた。
「・・・ただそうだな。今7歳で、とても利発な子だと噂に聞く程度は知っている。・・・でも我が家と縁づきたい家は他にもあるんだよ。無理してそいつにすることは無いよ」
まあ、確かに10年はそれなりの時間だ。その人がどう成長するかなんてわからない。
情勢だって変わるとも限らない。
今から気にしても意味がないだろう。
今は今できることを。
目標に向かってやっていくしかない。
「我が家の情報網というのは姻戚関係で増やしていったという事でしょうか」
「そればかりではないが、結婚は一番太いパイプ作りといえるだろう。あと、商家を使った情報収集が主だな」
「それは裏切りや二重スパイのようなことにはならないのですか?」
「流石トニー、鋭いな。それは一番懸念しなければならない。ただな。あいつらも悪い奴ではない、自分たちの立ち回り上、どうすることがいいかと考えて、情報を出している。つまり両者共に倒れてしまう事は避けるという事だ。秩序が無くなった場所では商売はできない。仮にやっても次の領主に大部分没収されるか潰されるのが落ちだ。信用や顧客も失うから嘘はほとんどない。どちらか一方を勝たせるように仕向けることはあるからそれを見つけ次第潰すことをすればいい。いつの間にか我が家に歯向かう商家は無くなる。そうやって我が家の今がある」
圧倒的力の理論。
日本人だった感覚ではついて行けないが、確かに歴史は強いものが作っているのは知っている。
それに逆らったものは消えてしまうのは分かる。
でも、実は我が家は恨みを買っているのではないかと心配に思った。
「だがな、お前たちと話していて、少し私も考えを改めようと思った。より良く生きる為には力の行使の前に十分議論すべきだと思えてきた」
お父様はこれまでの歴史や我が家の振る舞いを研究して、理想の当主像を構築したのかもしれない。
そこに少しでも変化を加えることを、考えさせることができたのは私たちの生まれた意味なのかもしれない。
「最初におっしゃった話からそれましたが、私たちに戦争の準備というと何をしたらいいんでしょうか」
「ああ、まず戦力の増強、薬の備蓄が主になる。相手の情報を精度高く入手できるようになれば、それを分析、解析していく必要もある。我が国の大前提はこの地を守り貫く事である。その上で我ら貴族はそれぞれのできる範囲を決めて戦略を立てる。バーンベルクは基本騎士団以下を指揮し、早期終結を目指すことだ」
私が再度、眼力を強めて、次を促す。
「・・・ステフが気になっているようだから教えるが、ログレス家は騎士の派遣と後方支援が主な役割だ。ただ先程も言ったようにここが機能しないことがあるかもしれないと考えると自前の備蓄をしておいた方が良いのかもしれないと考えている。お前たちも知っている通り作物は基本恵みであり、無暗に増やしても良いことは無いのだ。今回の戦争を前もって備える為に少しずつ増やそうと考えているのだ」
だから数年先を見越して行動をしろと言っているのか。
以前の庶民感覚が抜けないから長期戦略の見方、立て方が全く分からなくて同じ視点に立ていない。
社長やCEO、COOってやっぱり高い給料もらうだけのことをしていたのかな?人に由るか。
「分かりました。私は戦力の強化を担いたいと思います」
「薬を沢山作ります」
「そうだな。私の方で作物を作る範囲を少しずつ増やすように指示を出そうと思う。大ぴらにやると皆が緊張状態になったり、不安に思ったりする。それを感づかせることなくやっていくことが、お前たちの課題だぞ。家の中でピリピリするのは嫌だろ。それを学んでいきなさい」
「常在戦場ですね。分かりました」
「トニーは難しい言葉を知っているな。まあ、そうだ。今ならトニーの雰囲気が変わったとしてもそれほど気にする奴はいないから、丁度いいんじゃないか」
「そうですね。思いっきりやってやりましょう。ただあの商人に直接手を下すことができないことが少し心残りです」
「薬の売人?」
「そうだ。あのにやけた面に一発入れてやりたかった」
「トニー、あまり深追いするな。我らは山であるべきだ。それが動くと大事になる。それにあんなのは大方すぐに破滅するものだ。世界はそうなっているんだ。信じなさい」
「そうでしょうか」
「それにそういう奴を思うこと自体が似たような奴を引き寄せてしまうことになる。忘れることが一番だが、無理なら違うことに専念した方が良いぞ」
「分かりました」
そして報告会の会場向かう。
また私たち子供の成長をお披露目するステージに上がるのだ。
今年は色々なことがあった。
話すことは沢山ある。
事前に話す内容はしっかり考えた。
眩しい会場に入るとあの時と変わらない凄まじい万雷の拍手で出迎えてくれた。
お父様の統制はひとまず上手くいっている証であった。
未来はまだ決まっていないが、少しでも良い方向に向かうために日々生きるしかない。
理想は達成できずとも向かうことに意味がある。
誰かがそうしてくれるとか、皆がやるからではない。
自分がそれに向かうだけだ。他人は関係ない。
お父様の未来予想図が少しでもよくなる理想図に書き変わるよう邁進するのが私の生きる意味だ。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
精鋭の読者のお陰で続けられています。
本当にありがとうございます。
今日はちょっと短いですが、第二章完ってことで許してください。
ここまで読んでくれている人がいてくれるだけで本当にうれしいです。
第三章に入る前にショートストーリーを入れます。
引き続きよろしくお願い致します。
喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。




