2.15
「お前の婚約者が決まった。マリーナ第二王女殿下だ」
「どうぇえええ!」
「どうした?嫌か?」
「い、いえ。いきなりだったもので」
いつもの真剣な眼差しで、眉間に皺を作っている。
ちょっと怖い顔で言いだすから、もっと悪いことが起こったのかと思ったが、そうではないのか?
イヤ、王家の人を家に入れるというのは、それはそれで権力的に何かあるのだろうか。
分からん。父上の考えはホントいつも分からんのよ。
「年齢も15だそんなに違わない。約一年後家に迎える。それの為の準備を任せる。自分の嫁の為の準備だ。エルサも手伝ってくれるだろうが、お前が中心で準備をしなさい」
「あの~、これってもう決定、ですよね」
「何が言いたい」
「なんと言いますか、会ったことない相手であって、ちょっとどう反応して、行ったらいいか、分からなくて」
貴族の結婚話は読んだことがあるが、それは大体女性目線の話が多かった。
よく考えれば女性があったこともない人と結婚するのに、男性だけ知っているなんてありえない。
大体お互い様だったのだ。
『会ったこともない相手と勝手に決めるなんて酷い!』とか思っていたが、貴族では当たり前なのかもしれない。
以前ステフに言った言葉が自分に返ってきたのをちらりと思い出し、ブーメラン‼と心で叫んだ。
「フン、お前らしい反応だな。いいか。下らんことを考える必要はない。相手を大切にできるように尽くせばいいだけだ。覚悟を決めれば、どんなことでも乗り越えられるんだ。お前は経験したんだろ」
確かに全てを忘れ、一から学んできたし、全てのことに厭わずに挑戦してきた。
だがしかし!それを嫁に対しても同じようにやれと言われて「はいそうですか」と、即応できるほどまだ自分は至っていないのだ!と反論したいが、話はそれだけではなかった。
「お前は来年もまだペイジとして修業が必要だと聞いている。来年は王妃より合格を貰えるようにしなさい」
「え、では、どうやって準備を進めろというのですか?」
「今の内だ。だから急ぎ伝えたんだ」
ええええええええええええぇぇぇ
空耳かレオナルドの叫び声が聞こえたが、お爺様が蟄居してからもう少しで一年である。
そして今年はお父様に代替わりをした後の初めての報告会になる。
これは試練であり、チャンスであり、色々な意味で重要なイベントになってくる。
話は少し遡り、馬車で父とアントニオの三人で交わした会話の時のこと。
「お前たちには伝えておこうと思う。今後のことだ」
改まって、しかも人が他に聞き耳を立てていない状況を望んで話すことだ。
何が飛び出すのかと二人して身構えた。
「アントニオには話したが、いずれは訪れる戦争に対して準備をしてほしい」
アントニオは拳に力がこもり、私は息をのんだ。
「おそらくだが、向こうは余裕が出てきているのだ。商人が敢えてニューランドまで来ることができるほどに。これは今帝国の政権が安定していることを意味する。そしてそれは必ず、陰りを見せる」
「え?安定しているのになぜ?」
「帝国は今は帝国となっているが、元は色々な王が治めていた地域が合併して、皇帝を立てたのだ。その皇帝はただ多くの王が下に付いただけであり、半数とはいかないまでも、何人もが皇帝に対して不服従の気持ちを持っている。つまり、反皇帝派はいつでも反乱を起こす機会を狙っている。皇帝もそれを分かって舵取りをしている。だがな、必ずそれはどこかで失速する。ずっと続くことは自然の摂理、つまりは神の摂理に反するからだ」
お父様はそれが確実であると考え疑わない。
「そうなった時に皇帝が一番先に目を向けるのは反乱を起こさせないようにする事、つまり外国に喧嘩を売って、反乱勢力に行かせることになる。民も自分たちの生活が苦しくなってきたと実感したならば、皇帝を降ろそうとするかもしれない。その前に戦争を仕掛けることで、全ては外国の責任だと擦り付けることができる。つまり、あいつらにとって戦争とは下降気味の時期に丁度ぶつかるように仕掛ける、回り巡ってくるイベントごとのような位置付けになっているのだろう。それがいつあるかは分からないが、今回の麻薬の件を見ても、今潤っている状態だと分かる。あれが流行るのは、歴史的にも経済が良い時だ。苦しい時にあんなものは流行らない。暇や余裕があるから流行るのだ。しかもあれは、人が使い物にならなくなっていく。つまりは経済が回らなくなる破壊行為だ。今どの程度出回っているか知らんが、それは必ず、悪い方向に向かう。だから必ず近く戦争が起きるのだ」
なんだか説得力のある言葉に感じた。
でも麻薬が流行らない可能性もあるのではと思うのだが、まだ理由があった。
「それにな、出所は言わなくても分かると思うが、帝国から知らせが来ている。所謂スパイを入れているのだ。国としても行かせているだろうが、我が領にも独自の情報網が存在する。その筋からの情報によれば、皇帝への不満は少なからず、もうすでに噴出している様だ。まあ、まだ確信とまではいかないがな。だが長くて20年、短ければ数年で起こると予想している」
結構ガバガバの未来予想に聞こえるが、この世界ではそれをもうすでに起こるものとして備えるのが一般的になのだろうか。
「では、城壁や堀を作って守りを厳重にした方が良いのではないですか?早くに教えてくだされば・・・」
「いや、・・・そうだな。だがな、これはある意味向こうから見たら人を減らすための口実だ。歴史的に考えれば分かる。向こうの誰一人我らに勝てたためしがない。それでも我が身可愛さに戦争に打って出るのはそれだけ多くの戦死者を出して、口減らしや抵抗勢力を減らしたいという考えからだ。だから我らが無傷で終わると分かるようなものを作っておくことは世界のバランス的に良くないのだ。これはまだお前でも分からないかもな。この世界はこういう悲しみの上に今の平和があるのだ」
「我が国以外に攻める可能性は無いのですか?」
「限りなく少ない。山を越える、海を渡る、とそれを大勢で出来ることが条件になるからだ」
「負けないとはいえ、こちらにも被害は出ますよね。いいのですか?それを放置して」
「以前は私は仕方がないと思っていたが、トニーやステフを見て私も少し変わったのかもな。今では被害を最小限にしたいと思っている。どうやるのがいいのか、まだ道筋が見えないのだよ。ははは。こんな迷っている姿は部下に見せる訳にはいかないな」
「まだ数年時間が残されているのであれば、十分間に合いますよ、な、ステフ」
トニーに振られ、頷くことは簡単だが、戦争の準備より、起こさせないようにはできないものかを考えたい。確かに外国の政治をこちらでどうにかするのは難しいのだが、何か策をめぐらせるわけにはいかないのだろうか。そう思ってピーンと来たのだ。
「私が政略結婚相手で向こうに行きましょう。それで戦争が起こらないようにします」
「「は?」」
「ダメでしょか?」
「いやいやいや、えー?それでも必ず起こるだろうし、向こうが受け入れてくれるかどうかわからないよ」
「身分と器量が足りませんか?」
「いや、そういう意味では・・・、本当に行く気?少なくとも年齢がまだ適齢ではないのだから、話を持っていくにしても、まだ駄目だよ。それに流石に国王に話を通さないと私の一存で出来る範囲を超えているさ。普通、王女がやる仕事だからね、それ」
「そうですか・・・」
残念だ。年齢と身分はどうしようもない。
「実はステフはもうどこに嫁ぐかは大体決まっているんだ」
「「え」」
「辺境伯を叙爵した時にレオナルドの嫁として第二王女を貰うことが決まったのだ。そしてステフはログレス公爵家へと行く話が内々で決まった」
先約があるんですか、残念。
「でも正直乗り気ではない婚約ではある。あそこは唯一の貿易漁港を抱えている。治安や秩序も我が領から見ると緩い。ステフの肌には合わない気がする上、父も気にしていた。何かあるかもしれない。だから断ろうと思っていたのだが・・・」
「私が行きます!そこで得た情報をお父様にもたらせばいいのですね。ワクワクします」
今までの情報でなぜ我が子がここまで目を輝かせているのか理解できなさそうに顔が引きつっていた。
「ま、まあ、少なくとも10年は後にならんと決められない。それまでに何か起こるかもしれないし。まだ何とも」小声で「それに私の気持ちも整理できない。これを決めるのはまだ早すぎる・・・」とつぶやいていた。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
大変うれしく思います。
読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。
面白ければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。




