レオナルド③
元から出来が良い奴がさらに優秀な者へと育つのは納得がいくが、そうでなかった者が優秀な者へと育った時に人は二種類に分かれる。
認める者とそうでない者。
しかも今回はレオナルドという、自分が劣っていると評価した者が自分が課題だと思うモノを乗り越えた様子を見せずに、いつの間にか成長し、同期達を追い抜いていた。
バーンベルクは凄いと認めているものの、レオナルドは別カテゴリーにあった。
どうせ自分のところでは鳴かず飛ばずの人間で終わってもいいと思っていたのだ。
そういう思いがあっただけに、あまり手をかけるつもりはなかった。
だが少し目を離していたら成長していた。
それをすんなり納得できるようであれば、今までの自分の指示や教えは無駄なことであると言われている気にさえなった。
人は勝手に育つのであり、教えることは不要だとそういわれた気になったのだ。
こんなの認める訳にはいかなかった。
だから、ジョー・ボリスはレオナルドに試練を与えることにした。
勇気とは、上級者に立ち向かう事で立ち上がるものだと思っているからだ。
勇気とは、己の限界を超えようと努力し続けることで見れる輝きだと思っているからだ。
型ができた程度では上達はしても勇気など生まれようがないのだ。
だからあいつはまだ情けないライオンのはずであると思っていた。
もうすでに周りのペイジでは相手にならないために、スクワイアの人間から相手を探しあてがうことにした。
王都でスクワイアの修行をしている人間の多くは近衛騎士団へと入ることになる。
そうなることが許された優秀な人材といえる。
そしてそれらはほぼ100%自分が教え導いてきた者たちである。
だからこそ、レオナルドの相手として呼んだのだ。
どうにかして己の限界を見てほしいと願ってのことだった。
連れて来られたのは、家の格がそこまで高くなく、実力だけでここまで来た男。セイン君。
彼は騎士爵である為、自身が騎士になる為に人生の全てをかけて生きてきたといえる。
年齢は18でもう騎士となる一歩手前といえる体も出来上がった男である。
性格は獰猛であるが抑制も効いている理想的な戦士と言えた。
今いる中では自分が育てた最高の逸材といえた。
そんな彼に12歳の稽古相手をお願いした。
「セイン、相手はあのバーンベルクだ。絶対に気を抜くな。あいつはまだ己の限界を知らないのだ。可哀想だろ。自分の限界を見据えずに、戦いの場に出るなど早死にの元だ。そこで君が本気でやれば、あいつもそれが分かると思うのだ。頼んだぞ」
セインは普段は清廉潔白で、曲がったことが嫌いな人間だ。
今回の弱い者いじめのような訓練にはどうも気が乗らない。
だが、先生の頼みというものは、そんな自分の感情を押し殺してでも恩を返したいという思いから、引き受けることを決めていた。
「畏まりました。でも、いくら何でも逆に精神が折れちゃうんじゃないですかね?」
「それを乗り越えるからこそ、勇気が見れるんだ。気にすることは無い。思いっきりやってくれ」
「・・・・そうですか。分かりました」
「頼んだぞ」
セインが部屋を出て行った。
バタンと扉が閉じた後、ノックをして監督官のジーク・デオンがやって来た。
レオナルドについては、何度かボリスと話をしていたのだが、今回のことはボリスの独断で決めたことだった。
「これはうまくいきますかね」
「大丈夫だ。問題にはならん」
「問題は無いでしょうが、その、何か勇気ってものを捉え損ねている気がしてならないんですよ。私は」
「何が言いたい」
「私は勇気というものは、訓練では見せようがない、刃のようなものだと思っています。然るべき時、然るべき場所でのみ発動する、存在理由がそうさせるものだと思うのです。訓練とはいかに生き延びるか、いかに守り通せるかを学ぶ場であるべきです。訓練で命を懸けなければならない状況を作るなど、学びとしてはそれを作らないように立ち回らせることを教えるものだと思うのです。その状況を人為的に作ろうなどという事は、何か神への冒涜に感じてしまいます」
「それはやってみれば分かるはずだ」
「・・・・そうですか」
レオナルドは、今日の相手を聞かされた時に思ったのは
これって『いじめ』じゃない?
歳は確かに6歳だ。大きくなれば、大した歳の差ではない。
だが今は身長も体重も明らかに違う。
相手はもうすでに完全な大人であり、自分と比べても体の厚みが違った。
これは『負けイベ』だな。
ただ今までと違い、本気で打っていいという事でもあった。
先生は自分が本気で打っている姿を見たいという事なのかもしれない。
そう理解した時に、覚悟が決まった。
ルームメイトでもなければ、同期でもない。いわば見ず知らずの誰かでしかなかった。
情をかけることもないと肚を決めた。
レオナルドは対面したときに相手と自分の違いを改めて感じた。
場所はいつもの訓練場。
この試合を見るために30人の同期と数人のスクワイアが外縁で見守っていた。
セインはそれだけ敬意を払われた存在だった。
ボリスが声をかける。
「鈍らの剣を使っているが、まともに入ればケガするからな。お互い気を付けるように」
厚手のキルティング生地を使った服を着て、その上に皮の防具を着ている。訓練着は大体これであった。
手には盾といえる木製の物も身に付けている。
両者同じ条件での勝負だ。
「はじめ‼」
「はあああああぁぁぁ!」
開始の合図とともに、セインの振り降ろしが襲って来た。
バシンという音と共にまた距離をとる。
盾で弾いたわけだが、その威力に容赦のなさを感じた。
次はレオナルドも仕掛けようと思うが、相手の方が間合いが大きい。
腕の長さはいかんともしがたい。
一歩半歩と距離を測りながら相手の攻撃範囲を探っていく。
ギリギリに近づこうとしていると相手は大きく動き襲い掛かってくる。
それを盾を使い相手の動きに合わせ、円を描くようにつかず離れずの防戦を強いられていった。
セインは焦っていた。
まず自分の初撃に対応されたことに対して素直に驚いた。
スクワイアの並みの者であればそれで終わるからだ。
自分の本気の打ち下ろしであれば盾の上からでも、押し潰すことができるのだ。
それを上手くいなし衝撃を逃がすことができただけで、相手は相当できるやつだと思った。
だから上級者の部類に入るのだと予想を上方修正した。
そして次に打ち合おうとせず、距離を付かず離れずで様子を見ている。
その姿が途轍もなく落ち着きを持って状況判断ができるやつだと感じ、嫌な予感がしてきていた。
これは自分が正攻法で打ち合おうとしたらしっぺ返しを食らうのではないかとそんなことが頭を過った。
だからこちらから奇襲をかけた。
まず盾を前に出し、真正面から突進する。
レオナルドは勢いよく近づく相手に距離を取ろうと、盾に剣で牽制するつもりで突きを放つ。
その突きに合わせ、体を半身で躱し、勢いそのままに、回し蹴りを入れた。
「がはっ」
相手が小さい分、クリーンヒットすることができなかったが、手ごたえはあった。
レオナルドは剣を持つ右からの攻撃に、対応できず吹き飛ばされそうになりながら、踏ん張り耐え、間合いを詰めることができたこの機会を逃すまいと剣を振る。
まさかこの奇襲に反応してすぐさま反撃をしてくるとは思っていなかったセインは驚きながらも盾で防ぎ距離を取る。
見るからにまだ気力がある。
セインは面倒だな、と思いながら、相手の様子を伺った。
相手はどうやら少しはダメージがあったようで、盾を構えてこちらを見据えていた。
守るのならばこちらは攻めると切り替えて、盾の上からでもお構いなしに剣で叩き続ける。
レオナルドはもう剣でどうにか反撃すると考えるよりは、凌ぐことに重点を置き、盾を両手で持ち、何とか衝撃に耐えていた。
しかし、耐えるだけで捌き切れるものではない。ダムが決壊するように小さな綻びから大きな一撃が入った。
それは盾で衝撃を抑えきれないようになった時に起こった。
盾が流れ、隙ができた。そこに打ち下ろしが襲い、まともに入った。
バキっという音がレオナルドの全身に響いた。
その中で力はないが、レオナルドは剣を振るい、セインの頬をかすめた。
ただそれが最後で倒れた。
意識はあるが、とにかく痛い。確実に鎖骨や肩の骨は折れている。
セインもしっかりと一撃を入れたことで、ふーふーと息を上げながらも、手は止めた。
試合は止められ、観客がレオナルドを医務室に運んで行った。
それを見送ったボリスは思った。
こんなはずではなかった。
もっと無謀な挑戦に大声を張り上げ、自分を奮い立たせながら挑んでいく姿が見たかったのだ。
こんな途中からただただ嬲られるような事態から生まれた、それこそ暴力を振るわれる戦いが見たかった訳ではなかった。
私の考えは間違っているのか。
生徒を引き上げようとするのは間違いなのか。
自分のやっていることが正しかったのか分からなくなった。
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