2.14
部屋をノックしてみたが、出てこない。
その時、偶然通りかかった執事のクロードにトニー部屋を指さしながら目線を合わせると「先程出られました」と言われた。
おかしい。持っていくと言ったはずだ。
何故出かけたんだ。
せっかく作ったのに、そんなに日持ちもしない。
薬草を大切に扱わない奴は良い薬師にはなれないと言われいているのだ。
薬だけではない、道具も材料も全てを大切に扱ってこそ一人前である。
あんなに体調が悪そうなトニーを行かせたことも含めてお父様に直談判しなくてはならない。
父の執務室に向かった。
ノックをしてから許可と共に入る。
執事長のジョルジュが中に入れてくれた。
「なんだ、ステフ、珍しいな」
お父様はいつものように執務机に向かい、書類たちと格闘していた。
私が入ってきたことで仕事を中断してソファに席を移し私をそちらへと案内してくれた。
私は最初からもうすでに少し怒りを持っていたかもしれない。
父の顔が少し緊張して見えた。
「トニーが出かけたと聞きました。私が薬を作っても持っていくと言ったのに」
「あ、ああ、あいつも心配で、じっとしていることができなかったのさ」
「体調が悪そうでした」
「ああ、きっと不安なのだろう」
この父のなんでも分かっている感じが憤りに火をつける。
「全て知っている上で行かせているのであれば、お父様は管理者失格ではありませんか?」
「え」
「私はお父様をとっても尊敬していました。それは冷静に判断し、色々な人に気を配り、まとめ上げているからです。それなのに、体調も精神も良くないトニーをそのまま行かせるなんて信じられません!」
「いや!私は止めたんだよ、誤解だよ」
「見損ないなました!」
「待ってくれ!そこまで言わなくても」
「こうなったら私はトニーを追いかけます!」
「え、でも、遠いんだよ。道もそれほど良くないんだ。酔ってしまうかもしれないし、危ないことが起こるとも限らないんだ。やめておいた方がいいんじゃないかな」
「私は薬師見習いです。作った薬を無駄にするなんてできません!」
「いや、それなら他にも手がある。人を出せば済む話だ」
「いいえ、私の薬は、あの禁止薬なので私が直接処方します」
この宣言には流石に今までの優しそうな表情から厳しいいつもの顔に戻った。
「おい!なんで作ったんだ!駄目だろ!作らないと約束したはずだ!」
私もそんなことは知っている。分かっていてやったことだったので、引くことなどない。
「その約束を守るのと、トニーを守るのどっちが大切なんですか!人が助かるのに無駄なルールを律儀に守って救えないとか、馬鹿ではないですか!」
「うっ、いや、だがな、それはそれで手順があるだろ。ダメだろ、それを守らないのであれば、今後ステフの信用がなくなるんだ」
「私は自分の信用よりもこの地を守ることを重視します!ルールはこの地を守るためのものであって、無暗に行動を制限するためではないはずです!私の信用くらいで、救われるものがあるのならば、そうするべきでしょ!」
「いや、駄目だ。それでは秩序が崩れる。我らは秩序を守る側だ。我らが疎かにすると民も疎かにするようになっていくのだ。だから許可する訳にはいかない」
「分かりました。私を今回のことが終わり次第破門してください。死罪でも構いません。罰は受けます。だから今回のことが終わるまではどうか力を貸してください。辺境伯様」
「なんでそんなに開き直る。それでいい訳がないだろ」
「時間も惜しいし、私のことだけでより多くの事が解決するんです。簡単な判断ではないですか」
どこまで行っても、私が曲がることがないと伝わったのだろう。
父も肚が決まったようで、歯嚙みしていた態勢を緩めた。
「・・・・・・はあ、もう、分かった。今回だけだ、破門はしない。ただ次からは必ず私に許可を取りなさい。そうでなければ、私も責任を取ることができない。今回のことは私の責任でもあるのだから。本当は私が責任を持つのが筋だ。それなのにお前たちが代わりに責任を取ろうとする。本当はお前がルールを破ってまで行動する必要ないはずだったからな。私に迷惑をかけたくないと思っているのかもしれないが、それは私を軽視しているのと同じなのだぞ、全く。私にもお前たちの父親として行動させてくれ。・・・・という訳だ、ジョルジュ。支度を頼む」
それから馬車でトニーを追いかけてみたが、大きく遅れて出発したので、追いつくことができなかった。
ただ父と二人きりの馬車ではちょっと気まずい雰囲気があった。
馬車は揺れるので特に会話をすることは求められるわけではないのだが、先程の話でお父様は私の行動に違和感を感じたようで質問してきた。
「ステフはいつもこんなに覚悟を決めて行動しているのか?」
「・・・・・多分」
「ちなみに破門されていたら、どうやって生きていこうと思っていたんだ?」
「カミーラさんにお願いして薬師をやろうと思ってました」
「・・・・そうか。でもそれはカミーラに迷惑をかけることになるぞ。理由を考えれば、薬師はやっていける訳がないだろ」
「断られたら、別の道で、この地を守れる人間になります」
「・・・なんでそこまでこの地を守ろうとするんだ?」
「生まれたのがバーンベルク家だったからです」
「・・・それだけか」
「そうです」
「私を恨んだり、家を呪ったりは考えないのか?」
「しないと思います。私は納得した行動をしましたので、その結果がどうなろうが受け入れるだけです」
「周りを悲しませたら悪いとかは思わないのか?」
「思います。だからこれまで育ててくれたみんなには感謝し続けて生きます」
どんな質問にもほとんど迷うことなく答えていく姿が少し恐ろしく感じたのか、額に汗が見えた。
「・・・・お、お前、本当は何歳だ?」
「・・・4歳です。でもその前の記憶もあります」
「そうか」
どう考えても不審に思うタイミングだったと思うのだが、お父様は納得したように体から力が抜けていた。
「信じてくれるんですか?」
思わず自分でもこんな飛んでも話をすんなり信じてくれる気持ちが分からず、問い直してしまった。
「私はな、人が嘘をつくと分かるんだ」と少し柔らかな表情を作り、悪戯っぽく「これは秘密だぞ」と言って教えてくれた「誰もそれこそ、妻のエルサも知らないことだ。幼いころから人が嘘をつくとなんだか感じるんだ。視覚だったり、臭覚だったり、五感のどこかで感じているようで、ハッキリと分かるんだ」
それは父にとっては嫌な思い出だったようで、少し苦い顔に変わる。
「小さい時はそれこそ恐怖だった。世界が薄汚く歪んで見えた。誰も信用できないとさえ思っていた」
嘘だけ分かるのは辛いだろう。どこにそれが隠されているのか分からないのであれば、余計そうじゃないかな?どれほどの嘘なのか、知らないだけの本当もついて行っていいのか分からなくなる。
分かれば、分かるほど迷いが生まれてしまうだろう。
「辛くても、それでも死を選ぼうとは思わなかったのは、極偶にだが本当しか言わない人がいたからだ。父がそうだった。この人だけは全て本当のことしか言わなかったから、ついて行こうと思えたんだ。まあ、私の話はいいか。ステフはその記憶から続いた行動を取っているのか?」
「いいえ。私はこの世界に合わせる為に沢山本を読みました。その上で行動しているつもりです」
「そうか。間違いではないが、お前は正しすぎるかもしれないな。それでは上手くいかない、敵を作ることもあるから、気を付けなければいけないぞ」
これは前に王子にも言われた助言だ。以前の世界も含めて多くの人に言われてきた助言と言っていい。
「そうかもしれません。それでも、私は変わらないと思います。だって曲げて、うまく生きた道の末なんて見たくないですから」
「それでも取るに足らない小石もあるだろ?」
「そんなのぶつかるまでは分からない事じゃないですか。道を変える理由にはなりません」
「本当に凄いなお前は。ハハハ」
何とか馬車の中の雰囲気は良くすることができた。
それから到着して色々あったが、私の「真人間製造薬」略して『マヤク』はしっかりと効果を発揮した。
うんうん、マヤクは麻薬にも効く。
ハズい
脳内で一人ボケツッコミをしていたら、帰りの時間になった。
お父様は仕事を放り投げてきているのだから、長居なんてできっこない。
帰りはトニーも一緒だった。3人だけで過ごす時間は本当に稀で、もしかしたら初めてかもしれない。
「ここなら誰も聞くことは出来ないし、お前たちには伝えておこうと思う。今後のことだ」
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