2.13
時は少し遡り、まだ夏だった頃のこと。
シェルと一緒に色々な野草の実物を見ながら、名前当てゲームをしていた。
「これは」「ドクダミ」「これは」「ツユクサ」「これは」「ヒルガオ」
「おお、全部正解!」
「むふー」
立てた親指もいつものより長くなっている気がした。
「流石姫様、いやー早いなぁ。花が無くても葉っぱと茎だけでももういけるって凄くない?」
ここは辺境伯管理の草原で、偶に薬草も生えるらしい。
今日は無いみたいだ。
ここにはシェルの他にあの女性騎士のエルの3人で来ていた。
「そういえば、姫様はこの領の成り立ちをご存じですか?」
この領の成り立ちは聞いたことが無い。
国の成り立ちは精霊と初代国王が・・・と聞いたが、領については文献として見たことは無かった。
だから首を振り、首をかしげるとシェルはふふふと笑い教えてくれた。
「これは言い伝えの噂レベルの話なんですが、初代国王の弟がこの領を治めたところから始まるそうですよ。つまり、一番初めにできた領なんです。国王は開拓するためにどんどん東へと開拓していきますから、ここで他からの侵入を許さないようにしていた王弟殿下が初代領主になります。だから王家に並ぶ長い伝統がこの領にはあるんです。あと気になりませんか?554代しか当主がいないのに、3万年も歴史があるって秘密」
あれ?以前私は60歳くらい生きると仮定して、3万3千年って予想したけど違うの?
「当主って大体20年くらいしか継続できませんよね。だから普通1万1千年くらいって計算になるじゃないですか」
そうか!親と子の年齢差くらいしか任期がないんだ!寿命で考えていた!
ハズイ!恥ずかしすぎる!
おそらく顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
「これには昔の人は長生きだった説と今のような子に継がせるのではなく、世代を飛び越えさせることをしていた説があるんです。姫様は何か知っていますか」
私が顔が赤くなったことを誤魔化すために一生懸命首を振る様子を見て、何か言えない秘密があるのかな?とこの話を追求するのをやめてくれた。
「お、これは猛毒の奴だ。名前はトリカブト、根っこには特に強い毒がありますよ。あ、ところで、姫様は、どうして万能薬は全ての毒に解毒する作用があるかご存じですか?」
それは異世界のスペシャル薬草だから?
と半ば思考停止をすんなり受け入れる馬鹿正直さを答えようかと思ったが踏みとどまり、分からなかったから、首を傾げた。
「それはですね、なんとあの万能薬は体に効くと同時に毒を分解しているんです。不思議でしょう」
何でも、体の異常を元に戻す働きと、毒成分を無毒に変えるという二つの働きを持っているらしい。
「一つの薬が二つを同時にできるまさにスペシャル薬草です」
な!口にしなかったことが大正解じゃん!
「普通一つの作用を持って回復させるんですが、体のことも、解毒のことも全てやってくれるなんてどうなってんですかね?色々調べたのに、分からないのです。持っていなかったはずの成分をいつの間にか作り、それで解毒してくれるんですよ。調べれば調べるほどにわかなくなる」
「そのまま受け入れちゃダメなんですか?」
「うーん、実は、妻にもそういわれたんでだよ、エル。女性はこういう探求心ってわかってくれないのかな?」
「あはは・・それは、・・・人に由るんじゃないかと・・・ね、姫様」
こっちに振るな。
取り敢えず頷いておく。
「私は万能薬は作れないだろ。だけどそれの実験をしたいのに、付き合ってくれなんだよ。私が自分で作れれば、一人でずっと実験できるのに!・・・ってことで姫様は手伝ってくれますか?」
シェル先生が期待に目を輝かせてみてくる。
これはやるべきか?やらざるべきか?
私はこういうどっちでもいいと思う事で迷う時は、必ずこれで決める。
ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り・・・・
やるか。
親指を立てて、頷いて見せた。
「うっほおぉ!流石です!姫様は話が分かる!」
それからシェルの思うままに研究三昧だった。
でもこれは私にとっても色々学べた充実した時間だった。
稀少な薬の作り方も習えたし、実用的な薬の調合方法まで色々教えてもらえたから。
また色々な実験とは、様々な患者との出会いでもあった。
基本病気は万能薬で治ってしまう。
だけど、病気にならないように気を付ける人が増えなければ、根本的に良い社会循環にはならない。
だから薬とは高価で簡単には手に入らないくらいが丁度いい。
しかし、それでも助けを願う人が生まれてしまうのは自然の摂理である。
色々な理由があるのだろう。
以前の世界では、病気になる人は、なることで得られる気づきの為だとか言う人もいた。
だから簡単に治すのはその人の為にならないのだと。
例えば、姿勢が悪い人が腰痛に悩むのは薬で治したからと言って、もう腰痛にならないなんてことは無い。
根本といえるところを治さないと体は十全になることはない。
だから私は考えた。
十全になるような薬を作ってしまえばいいのだと。
そしてできたのがこれ。
名付けて「真人間製造薬」
はずい。
様々な植物知識と異世界特有の不自然なオーバーテクノロジー。そして地道な実験の結果生まれた。
勿論患者の協力があってこそである。
調合自体も複雑だが、慣れてしまえば、一人で出来ないこともない。
性格や癖も治ると言われている。
だから禁薬と指定された。
「これはもう無暗に与えては駄目だ」
お父様にそう宣言された。
確かに人の癖までなくなるというのは人が変わると言っていい。
習慣から生まれたモノが癖である。
様々な習慣が集まって生き方となる。
生き方はそれこそ、人それぞれ、己で決めるものであるはずだ。
だから無害で、副作用がなくできるからと言って、やっていい訳ではない。
以前の世界ならば全体主義なんて言われて非難されたのだろう。
でもそれまでに様々な知識も経験もさせてもらえたのだ。
素晴らしい時間だったといえるので、私は満足だ。
それからも色々な実験や調合を繰り返し、季節の変わり目に出てくる分厚い本との格闘も追加でやった。
それなりに充実した忙しい毎日を送っていた。
ある日久しぶりにトニー会った。
それまで何人もの患者と出会っていたから、一目見て彼の不調が分かる。
そしてトニーが言った「心に効く薬が欲しい」と。
なんだか心がボロボロな状態だった。
事情を知っているであろう、アレクサに話を聞きに行った。
端的に言えば、自分の失敗が原因だった。
過去を変える薬はない。
失敗の代償として支払ったものを治せばいいのだと切り替え話を聞くと、麻薬で病んだ人が出たのだと。
これはあの禁薬の出番ではなかろうか。
禁止など、患者の前では偽善に過ぎない。
肉親のトニーの為ならば駄目なはずがないと判断した。
私は急ぎ「真人間製造薬」を作り、トニーの部屋へと向かった。
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