幸福を求めて何が悪い(後編)
いつの間にかまた管理者とか言う奴が変わるという話になった。
なんと今度は子供だった。子供の貴族だった。
背がまだ俺の腰丈程度のチビだった。
馬鹿にしているのか?これはチャンスなのか?
もし馬鹿な小僧ならまた貴族から幸福を奪ってやろう。
そんなんことを考えていた。
最初は様子見をしていた。
そいつは新しい作物を植えると言い出した。
食料が増えるのは大歓迎だ。
幸福が増えないのは、分ける前の元の量が増えないからに他ならない。
分け合う元の量が増えれば、俺の取り分も増えるのは確実だった。
だから手伝った。
作業はそこまで辛くない。
女、子供もできる簡単なモノだったが、これを良くないという奴がいた。
そいつはあの時仲良くなった商人で、なんでも女、子供に働かせるのは可哀想だという事だった。
俺にはよく意味が分からなかったが、女や子供は働かずに男が働いて養うことが当たり前なのだそうだ。
確かに俺が子供の頃は別に働いたという記憶はない。
母親を手伝ったことはあったが、あれは働いたという事だったのだろうか?
そんな話を考えながら聞いていたところ、商人は酒をやるから、あの小僧を追い出そうという話を言い出した。
あいつは作物を増やすという意味で役に立ってくれたからいいが、もう作物はほとんど植えたのだ。
だったら他のことを言い出す前に居なくなってくれた方が良いのかもしれない。
貰った酒はまあ、美味かったし、手伝うことにした。
段取りは頭に入れたが、俺たちはそんなに頭は良くない。
だが、言われた通りにやって失敗しても、もう酒も食料ももらっているからどっちに転ぼうが俺の幸福は減ることは無い。
だから言われた通りやったんだが、小僧に逆に街から追い出されそうになったので、すぐにひっこめた。
俺の幸福が無くなるのならば、商人に協力することは出来ない。
当たり前のことだった。
ただそれは正解だった気がする。
あの小僧は物知りだった。
色々知っていて、追い出そうとした俺にもよく話しかけてきた。
そして何よりあいつは俺たちと同じものを食べていた。
貴族はもっと良い物を沢山食べていると思っていた。
だがあいつはほとんど毎日俺たちと同じものを一緒に食べていた。
別に特別多く食べるという事もない。
不思議だった。
聞いた話だと、貴族とは偉い奴のことだ。
偉い奴は大体幸福な奴のことだ。
それなのになぜ、俺たちとそんなに変わらない生活をしているのか。
何で不満を言わず、笑っていられるのか分からない。
だから俺は聞いたんだ。
なんでこんなことをするんだと。
そしたら「食い物なんて食えればそれだけでいいんだよ」だと。
俺は信じられなかった。
「勿論、作ってくれている人には感謝するし、アリガタイと思うけど、食べ物にこだわる必要ないだろ」
こんなことを当たり前の顔をして、何の感情もなく言い切ったことが堪らなくムカついた。
「旨い物食わないと幸福にならんだろうが、それは嘘だ!」
「はぁ?嘘じゃねぇし、今でも幸福だろうが」
「いいや!おれは幸福じゃない!嘘だ!」
俺があまりにも怒り心頭なのを見て、あいつは笑い出したんだ。
「ふふ、お前は確かに幸福そうじゃないな。なんつーか、お前は幸福を探してそうだもんな」
「何がオカシイ!みんなそうだろうが!みんな幸福を探し求めてんだよ!」
もう我慢ができず、テーブルをバシンバシンと何度も叩きながら、俺はあの偽善者ぶりを批判した。
「笑ってすまん、興奮すんなよ。じゃあ、代わりにお前に幸福になる方法を教えてやるよ」
「なんだと?」
こんな小僧が、幸福になる方法を知っている?そんなバカな。
到底信じられないが、なんだか当たり前の顔して言っているのが、気になった。
もしかしたら、貴族は小さい時からそれを教わっているから、貴族でいられるのかもしれない。
それなら話を聞いた方が良いに決まっている。
馬鹿な小僧が、貴族の秘密を俺にタダで教えてくれるのならば、こっちは幸福しか得るものはないのだから。
「幸福になるにはな、理想に向かって生きればいいんだよ」
「理想?」
「そう。幸福はそのおまけだ」
「おまけ?」
小僧はもったいぶることもなく教えてくれたが、その中身は雲をつかむような言葉に感じた。
理想ってなんだよ。幸福はそのおまけ?
あいつには俺の欲しいと思っている幸福がそんな取るに足らないものだと言っているような気がして来た。
もしかしたら、俺が思っている幸福と、あいつの考えている幸福は同じではないんじゃないか?
そんな気すらした。
でもなんだかそうなのかもしれないと思った。
なぜならば、あいつは俺に嘘をついたことは無かったから。
だからそうなのかもしれないと信じることができた。
理想。
理想ってなんだ?
そもそも理想が分からなかった。どこを探せば見つかるのかさえ分からなかった。
だからまたある時、聞いてみた。
「理想が分からない?」
「おう、どこを目指したらいいのか分からないんだ」
こんな小僧に手取り足取り教えられるのはなんだか癪だが、俺には幸福が必要だった。
俺には幸福以外欲しいものはなかったから。
「それは自分で決めないと何とも・・・」
「そんなこといわず、頼む、なんかヒントくれよ」
「んー、憧れとか、格好いいと思った人とかいないかな?」
そういえば、小さい時は親父を格好いいと思っていた。
だが何をしたらいいのか分からない。
「いたら、その人になれるように行動すればいいのか?」
「そうだな、それ以上になるために努力したらいいんじゃないか」
「そうか、簡単だな」
「簡単?憧れの人を超えることがか?そんな簡単な人を本当に憧れているのか?」
「そういわれると、簡単じゃないかもしれない」
「だよな。でもこれだけは覚えておいてほしい。理想は目指し続けなければ、意味がないんだ。途中で諦めたり、逃げんじゃねぇぞ。幸福が見えたからってやめんなよ。それだけはダメだからな」
「どうしてだ?」
「それは幻想だからだ。ニセモノ。嘘、偽りの虚像だからだよ」
「そうか、気を付ける」
なんとなく俺の目指すところが分かった気がした。
それからは真面目に親父を超えるようになろうと行動した。
とは言えもうそんなに親父のことを覚えていないが、超えることが必要なんだから、細かいところを気にする必要はない。
全ての面で上回ればいいだけだ。
親父が持っていたもの全てとそれ以外をちょっと持つだけで、俺は親父を超えた証明になる。
これに気づいた時に足が止まった。
あれ、これって、俺が否定していたことをやらないといけないんじゃないか?
つまり、結婚も、子育ても全てをやる必要があるという事だ。
今まで避けていたことが、否定して馬鹿だと蔑んでいたことが必要だという事だ。
これに気づくとこれからは考え方を真逆にしなければいけないのだと分かった。
今までやっていたことは全て間違いだったという事じゃないか。
俺は本当にこれで幸福になれるのか?
迷いが生じた。
その時、偶々あの知り合いの商人に出会った。
いつものようにニヤニヤしてやって来た。
「いや~久しぶりだな、今年はなんだか違う作物が採れて潤っているって聞いたぞ」
「あ、ああ、そうだな」
「どうした?浮かない顔だな?」
「幸福って何か分からなくて」
俺は本当にこれでいいのだろうかと迷っていたことを正直に話しただけだ。
それを聞いて商人は丁度いいとばかりに手を叩いた。
「おお!俺、今その幸福に簡単になれる薬を持ってんだよ!安くしてやるから一つどうだ?」
「幸福になる薬?」
そんな簡単なものがあったのか。
知らなかった。誰も教えてくれない薬というものにちょっと興味がわいた。
「そうそう、誰でも幸福になれる薬だよ。チョー簡単に」
「ならひとつだけ」
その後はどうなったかな、なんだか考えられなくなってどうでもよくなった。
本当に考えがまとまらない。
もうべつにこうふくにならなくてもいいか。
なんでこうふくなんかになろうとしていたのかもわからなくなった。
もうどうでもいい。
めんどうくさい。
かんがえることはやめだ。
あるとき、すごくさわやかな木陰のような気持ち良い、清水が体を廻り巡って行渡っていくのを感じた。
気づいたときには、目の前に知らない子供がいた。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
大変うれしく思います。
読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。
面白ければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。




