2.11
使用者は海の方に小屋を建てて、そこで管理するように申し渡す。
おそらく体の不調は万能薬で治ると思うが、中毒、禁断症状に対しては効くことは無い。
中毒者はもうすでに中身が抜けたような、ただの動物に近い状態だ。
縛り上げてはいるが、力はリミッターが外れたのか、押さえつけるのは骨が折れた。
管理や世話はメイドのマーヤと騎士たちに頼んだ。
万能薬を使用したので、水などで様子を見て、禁断症状対して我慢をしてもらう外ない。
民衆の皆では、情がどうしても移ってしまうだろうから、頼むわけにはいかない。
これも管理者としても責務の内だ。
残ってもらう皆には大きな負担だろうが、申し訳なく思いながらも、託した。
一ヶ月であっという間に進んでしまう本当に恐ろしいほどの中毒性だった。
情けやちょっとした油断が本当に恐ろしい結果にしてしまう。
麻薬は軽い気持ちが招くには、あまりにも大きすぎる結果に至ってしまうのだ。
決断の気持ちの大きさと結果の悲惨さが見合わないモノが、麻薬と言われるものの恐ろしいところだと改めて感じた。
民衆の皆には中毒者の自宅の解体作業をお願いした。
くれぐれも換気に注意するように口を酸っぱくして説明した。
特にディックの家には薬物の臭いが染みついていて、あそこに居たら幻覚や気分が悪くなる奴も出るに違いない。
そうして私がようやくバーンベルクへと戻ると父から言われたのは意外な一言だった。
「もうお前はニューランドへは行くな」
最初訳が分からず、反論しようとしたが次の一言で、言葉を失った。
「もし、嫌だというのならば、お前を監禁する」
父の眼を見て、悟った。
父上も怒りを中に秘めていた。それでも抑えている。そんな眼であった。
今まで私が考えていた材料だけでは、戦争を仕掛けることは出来ないのだ。
民衆の、しかも僅か10人の為に、何万人も動員した戦争を仕掛けることはできないという事だ。
貴族という訳でもない。
国を揺るがすようなことでもない事で、いちいち動くような国では、程度が知れると思われるだけなのだ。
それでも理性は従っても、感情の方は解消することは出来ない。
「・・・分かりました。二つだけ聞かせてください」
「なんだ」
「いつならば、出て行けますか?」
「それは・・・おそらくもうすぐだ。だが、数年の時はかかると思え。まだはっきりとしたことは言えない」
「分かりました。その時は私は絶対に出ますから。必ず許可を下さい。お願いします」
頭を下げて、懇願した。
胸のモヤモヤは今ここで蠢いている。今できることを何かして解消させたい。
そんな思いで伝えた言葉だった。
「それまでの成長次第だ。もっと研鑽しろ。今のような感情に任せた行動を取ろうとするようでは戦略に支障を来たす」
「はい、わかりました」
最もなことだった。
感情で動くのは野蛮で馬鹿で、どうしようもなく低俗だと言われて仕方がない。
だが、それを無くすのは違うと学んでいた。
この獰猛さを無くし理性だけで動くようになったら、人間はふにゃけた中身のないモノに成り下がるともう前世で学んだのだ。
要は隠し、コントロールできるほど、自分を磨き鍛えろという事だ。
「あともう一点。街の皆に別れの挨拶だけはさせてください。絶対に無茶や自棄は起こしません。だから最後に礼儀だけは尽くさせてください。お願いします」
これには父も少し表情が苦いものに変わった。
「・・・・はぁ、許可する。だが、数日ここで過ごしてから行きなさい。・・・トニーは本当に優しいな。素直で正直で。だが、感情のまま走ると必ず周りに迷惑を押し付けることになる。お前はそれを望んではいないだろ。だから抑えることを学ばなければならない。我々は民と共に生きるが、民と一緒になってはではだめなのだ。民と我々を分けて考えることができるからこそ、導くことができるようになる。外から見る、全体を見渡せる心を置けるようにしなさい」
「どうやったら?」
「皆と距離を取れ。・・・・もしくは常に自分を監視できるもう一人を作ってみなさい」
「やってみます」
それから言われた通り、屋敷で2日過ごすことにした。
心配で、申し訳なくて、反省や後悔が頭の中をグルグルと巡り、あまり寝ることができないでいた。
その時ステフに会ったが、お互い酷い顔をしていた。
「どうしたんだ。酷い顔だぞ」
「・・・・しゃべると薬草の名前がこぼれちゃう」
口を押え、出さないようにしているが、少しステフは変わった気がした。
「ふふ、そりゃ大変だな、じゃあな」
私が去ろうとしたらステフがしゃべった。
「トニー、薬あるけど使う?たくさん作った」
「いや、それじゃあ駄目なんだ。心に効く薬が欲しいよ」
「分かった。作ったら持っていく」
「ああ、頼んだ」
ステフと話したことで、少し心が軽くなった。
こんな何気ない会話でも、どこか落ち着くことができるのだなと不思議な感じがした。
数日後、馬車でニューランドへと戻ってきた。
皆に詫びや別れの挨拶をしないなんて、耐えられないと思ったから。
「みんな、ごめん。全て私の責任だ」
広場に集まった皆に深々と頭を下げてまずは謝罪した。
「あれは国でも一般人の使用は禁止されている、大変危険な薬物だ。それを持ち込ませてしまった。全て私の監視の目が行き届かない結果だ。すまない。」
実際あれは国の法で専門家以外は取り扱うことが許されていないものだ。
「みんなと共に生きるとか言っていたが、それもできなくなった。本当にごめん」
少し皆がザワザワしてきた。不安なのかもしれない。
「しっかりと引き継ぎができるように、後任やリンドには伝えておくから、心配はいらない。今まで通り生活できるはずだ。だから、安心して、皆、達者で暮らしてくれ」
そう伝えたら、皆黙って鼻をすする音やうぅとかいう声が聞こえた。
もう私はみんなの方を見ることができず、皆に背を向けて壇上を降りた。
眼にはいれば、涙が止まらなくなってしまうから。
それでも壇から降り、ふとした拍子に目には入ってしまうもので、そこからは、涙が止まらなくなり、眼を真っ赤にはらしながら、立ち去るという最後に何とも情けないものを見せてしまった。
そしてあの10人が押し込められた掘っ立て小屋に行く。
マーヤが面倒を見てくれているとは言え、酷い状態だった。
軽度の7人はある意味一緒にされて迷惑だったかもしれないが、自分たちの行き着く末路のようなものを見て、立ち直ろうとしてくれるのであれば、それでいい。
問題は中毒者3人だった。
寒い寒いとしきりに言って、火の中に手を突っ込み、火傷してみたり、火の煙の臭いに、あの薬物の残り香がある気になって、煤で真っ黒になりながらも煙を吸おうとしていたらしい。
途中からもう手が付けられないと騎士が縛り上げ、全裸で転がされていた。
周囲に糞尿をまき散らし、ながらもあーとかうーとか涎を垂らし酷いありさまだった。
人手も少ない上に、私が無理をお願いしたので、文句はない。
理性というか、考えることをやめた動物といえる行動をしているさまを見て、自分の失態のあまりの大きさを痛感した。
その中のディックを見つけて、声をかけてみる。
話は分かるのかどうか怪しいが、それでも心から呼びかけ、別れを告げなかければ、不義理だと思うのだ。
「ディック、お前はいつも俺を助けてくれた。今回も俺が気づくのが遅れただけで、お前はいつも叫んでいたんだな。みっともない真似をさせてしまって済まない。大丈夫。きっとよくなるから」
話を聞いている様には見えないが、それでも話しかけることはやめない。
「お前が飲みたがっていた、酒は俺が必ず作って持ってくる。約束する。だからそれまでに戻ってこい。取り戻してきてくれ。お前はこの世界で初めての俺の親友なんだから。頼むから、一緒に飲むために戻ってきてくれよ」
自然と目に熱いものがこみ上げたが、これを聞いたディックは少し、静かになった程度で、奇跡は特に起こらなかった。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
精鋭の読者のお陰で続けられています。
本当にありがとうございます。
今回は鬱な終わり方になりましたが、番外編をはさみ、後一話でアントニオ編は終わる予定です。
宜しくお願い致します。
喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。




