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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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25/59

2.10

注意:ちょっぴり卑猥な表現もあります。

ご了承ください。

それはある晩にアレクサから受けた報告からだった。

「・・・・と、以上が今日の騎士団の出動状況だったのですが、気になる事が・・・」

「どうかしたの?」

「それが・・・どうやら以前来たのあの帝国の商人がまたこちらに来ているようなのです。なんだか胸騒ぎがしますが、どうしますか?」

「え?なんで?なんで来たの?」

「秋の収穫を聞きつけたのか、時期的にそろそろと思って来たのか、こちらに来て商品と作物を交換をしている様なのですが・・・」

「なるほど、それでどんな商品を持ってきたの?」

「それが、・・・・分からないのです。馬でやってきたとのことですが・・・、商品らしい商品を持ってはいないように見えたと報告にありました。多少馬には荷がつけられていたと聞いてはおりますが・・・なんだか不審なことが多すぎるように思います。今のところ取引で農民が少量の作物を差し出しているのを見ております。大っぴらな(あきな)いはありませんでした」

「そうか」


大した商品を持っていないのであれば、問題ないと思っているが、なぜあんな形で終わったのに、また来たのかが気になる。


この世界では貿易は自由と定められている。

商人は危険を冒してまで運んでくる。

だから敢えて税を取ることはしないことになっていた。

入ることに制限をかけたりすることは物流を妨げ、本来の自然からの恩恵の行渡(ゆきわた)りを(さまた)げる行為という事で通常禁止されている。

情報も輸送手段も安定していないからそれで文句は出ていない。


それだけ商人というのは高貴で高い志を持った人が築き上げた信頼と責任を果たしてきた証なのである。


とりあえず、気に留めながら緩い監視はしてくれと頼んだ。


それからしばらくすると、あのディックの様子が変わった。

生あくびが増えて、関節を(さす)る様子を何度も見た。


農業の繁忙期(はんぼうき)は終わってきたので、少しくらいだらけていても問題ないのだが、時折なんだかチョコレートの腐ったような、気持ち悪い甘い匂いを感じた。


元々いい匂いがする奴ではないから、気にしすぎるとなんだか悪い気になるので、努めて気にしないことにしていた。

どこか引っかかる感じはするものの、すぐに忘れてしまった。


警戒はしているものの、目立った行動はなく、街の治安は保たれていたので、それであれば問題ないとあまり厳しく関与することは避けようと思い始めていたのだが、ある時それが発覚した。


それは偶々だった。

リンドの家に向かう途中の出来事だ。

通りの近くの家から女性が、虚ろな眼で窓から顔を出した。

上半身裸で、おそらく全裸なのだろう。小刻みに揺れていた。


昼間から発情している光景が広がるのは、もしかしたら食料が手元に増えて、安心したためだろうかと、思った。


そしてその窓から不思議な形をしたタバコのキセルを使って煙を吸っている様子が見えた。

そこから漂ってきた香り。

ここで、はっと気づいた瞬間、怒りに火が付いた。


タバコを吸っている奴の手からそれらを奪い取り、すぐに拘束した。

隣に控えていたアレクサと数人の騎士見習いに叫ぶ。

「アレクサ!町中のタバコを吸っている奴、全員捕まえろ!それからあの商人だ!絶対に逃がすな!」

「はい!」

「リンド!リンドに広場に全員を集めろと伝えろ!至急だ!急げ!」


広場に集まった人から順に、臭いと瞳を確認していく。

そして一応面談で確認もする。


あれは、あの匂いはアヘンだ。

この世界でも薬草学を学んだときに、一応聞いた。

異世界の麻薬であるが、その恐ろしさは元の世界で聞いた話よりも深刻なモノであると思った。

中毒性が異常に高く、精神がおかしくなり、体もボロボロになる。

下痢(げり)嘔吐(おうと)で脱水状態になる上、幻覚が現れ、最後には人間の理性は無くなり、動物のようになると聞いている。

またやめたとしても、禁断症状に苦しみ、似たようなものを探し求め、とんでもない奇行をするとか。

例としては、火に飛び込むとか、煙を浴び続けて煤で真っ黒になるらしい。

フラッシュバックの類なのか、一度現物が現れると、凶暴性を発揮し、手が付けられないこともあるらしい。

また部屋や家に着いた臭いも長期間浴びることによって、徐々に周囲にも伝搬すると聞いた。



このことを急ぎ、民衆全員に伝えたが、その恐ろしさまでははっきり伝わっているのか分からない。


自分の判断の遅さが招いた明らかなミスだった。

いや、あの商人に対してとった態度がそもそも悪かったのかもしれない。

自分の行いすべてに報いがやってきているのだと己を呪わずにはいられなかった。


幸い、多くの人はそれには手を出さなかった。


ただ、一度それを体験した奴や、周りに居た者も、タガが外れやすくなる。

常習的にしないと気がすまなくなっていく。

私が見たように人目を気にすることもなく、やっているのはもう手遅れの域だ。


この世界には万能薬と言われるものが存在する。

確かに体の不調を治すことはそれでできるのだが、精神までは勿論無理だ。

精神とは己で鍛えようと思わなければ、強くなることがない。

何もしなければ、何処までも低いところに流されることになる。


薬学を教わった時に言われた。

中毒者は治せませんと。自分で立ち直ってもらう外ないと。

ただ中毒者はそもそもそれをしようと思えない状態の人だから不可能に近いと言われた。


私はそれを知っていると片づけていたが、こんなこと予想していなかった。


後悔と自分の愚かさと、どうにもできない現状にイライラが募った。


軽度も含めて、人数は10人だった。少なくて済んだといえる。

ただそのうち中毒といえる状態の者は3人。

ディックもその中にいた。


約半年と短いようだが、濃密な時間だっただけに自分には皆との思い出は全て大切なモノだった。

そこに大きな穴や消えない墨汁をぶちまけられたような無残な心境になった。


そんな中さらに、あの商人を取り逃がしたという知らせを受け、怒りに任せて机を殴ると、机に穴が開いた。


この体は先祖からの引き継いだ特別製なのだろう。周りの人と比べても明らかに頑丈だった。


私の周りの家臣たちにも自分の怒りが伝わり委縮したように緊張した面持ちに変わった。

まずはそれを鎮めるために深呼吸をした。


「ごめん。取り乱した。皆は迅速に動いてくれた。悪くない。悪いのは私だ。対応が悪かった。遅れた。しくじった。指示が遅かった。すぐに思い出せなかった。学んだはずなのに。それを生かすことができなかったんだ」

言葉にすると本当に情けなくなる。

涙がこぼれ、見つめていた拳が濡れる。


「アントニオ様はよくやっています。我らが至りませんでした」

「はい、もっと情報を集めておく必要がありました。アントニオ様のように民ともっと仲良くしておけば、もっと早く気づけたと思います」

メイドのマーヤ、執事のジャンも後悔を口にするが、これからのことを考えなければならない。


「これはバーンベルクへの宣戦布告と受け取り、これから帝国と戦争を開始する」

「そ、それなら一度、辺境伯様に報告をした方が良いです!とてもこの人数だけで戦う事は出来ません!」

「私もそのように思います、今から出るなど流石に軽率です!準備は必要ですよ!」

私が言葉と共に、壁にある剣を取り、歩き出したから、二人とも急いで止めてきた。


深呼吸をしたからと怒りは収まらない。まだ頭がチンチンに熱せられたままだ。

二人のいう事はもっともだ。

準備をせずに行って無駄死(むだじに)など笑えない。


歯を食いしばり、もう一度深呼吸をする。

「分かった。父上に報告をしよう。補給部隊は必要だし」


伝書鳩で報告を上げると、すぐに帰還しろと命令が(くだ)った。

ハッキリと命令だと書かれている、これに違反したら、親子喧嘩では済まない。

渋々、バーンベルクに戻ることにした。

最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

大変うれしく思います。

読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。

このアントニオ編ももう少しで終わりになります。

ついてきてくださる稀少な読者の皆様を支えに書き続けたいと思います。


喜怒哀楽、★評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

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