2.7
という訳で早速視察に出かける。
街中の道路整備はしたが、畑まで全て舗装道路にしている訳ではない。
我々は馬に乗り、案内してもらう。
もう仕事を終えたのか、畑の方から帰ってくる人たちもいる。
しかし、我々の姿を見つけるや否や蜘蛛の子を散らすように思い思いに走り去っていく。
これは不敬というよりか、もう悲しくなってくる。
リンドさんが連れてきてくれたのは、海がもう少しで見えるというくらい近い場所だった。
波の音が聞こえ、時折カモメの声が薄っすら聞こえる。
日本では車の音、電車の音、様々な生活音が邪魔で聞こえないが、長閑なすごく懐かしい感じが蘇った。
「このあたりの土は川の水をすぐに吸い込みます」
地面を見ると砂がかぶさっているのがすぐに分かる。
水をかけると広がらず、染み込み消えてなくなった。
「なるほど、確かにこれでは農地としては不向きだな」
「そうですね。植えるものを変える方が良いと思います」
「「!」」
二人がなぜか驚く。
え、普通だよな
「え、あ、あんまり水分が無くても育つ作物もありますよね」
「そうなのか?」
「え、いや、わ、私はそんな作物存じません!本当です!」
嘘を吐いていません!という事を命乞いするかのように叫ぶ。
ごめん。リンドさん。あなたに被害が出るとは思わなかったんです。
「父上、この方が知っているかどうかは置いておきましょう。知らないのであれば教え、導くのが我らの役目でしょ」
「お前は分かるのか?本当に?」
「え、えーっと、はい、大丈夫です」
「何を植えればいいのでしょうか」
「サツマイモです」
この世界にもサツマイモがある。というか大体日本で作られていたものはあると思う。
実際サツマイモは食べていた。だからどこで採れたかは知らないが、作れるはずである。
「ほう、そうか、あれなら確かに食料としては申し分ないな」
「あと果物の樹はいけると思います」
「果物ですか?」
「果物は水分が少ないと甘くなると聞きました。こういった土地を好んでいると思いますよ」
「トニーは博識だな。どこでそんなことを?」
「え。・・・どこで聞いたかはちょっと覚えてなくて・・・」
嘘ではない。以前の知識ではあるが、どこで聞いたかまでは定かではないのだから。
「そうか、ふむ。どの道今の状態にしておくよりはいいと思うが、どうだ?人手はあるか?」
「え、あ、はい、何なりとお申し付けください」
「リンド。私は、お前と相談して決めたいのだ。前も言ったようにやるのはお前たちだ。無理強いして何かを進めてもどこかで不和が生じるからな。今まで通りやりながら、ここまで手は回りそうか?」
漸く、父の優しさに触れたのだろう。リンドの眼が変わった。
「はい、皆でやればそんなに問題ないと思います」
「そうか。では手配しよう」
「父上、どうせなら海と畑の間に背が高くなる木も植えましょう。そうすれば、砂がこっちまで飛んでこなくなると思うのです」
「・・・壁を作るより木を植える方が良いと思う理由は?」
「壁では高さと風通しの問題もありますが、そっちの方が見ていて綺麗じゃないですか」
「・・・なるほど、そうだな。ありがとう。トニー。お前を連れてきて良かった」
少しは役に立てたことに満足したが、なんだか気になる。
それを聞くために私は夕食後父の部屋を訪ねた。
「ここはなんだか開発が歪です。必要なモノを差し置いて、それ以外の部分にお金をかけすぎていると思えるのです。まるで土台を無視したような・・・」
「気づいたか」
「はい。こんな人が少ないところ、そもそも、道路はともかく、家や建物を新しくする前に、作物を取れる環境を整えたり、もっと生活に無くてはならない物を作る方が先ではないでしょうか」
「お前のいう事はもっともだ。だがな、それを決めたのは住民だ。あいつらは自分たちの住む場所が悪いから、仕事ができないと文句を言っていたのだ。バースは何度も説得してみたが、その前に自分たちの住処を新しくしないと安心できないと言い張ったらしい。当たり前だが、家が新しくなろうが、作物が育つわけではない。自分たちが仕事の仕方を変えることが無ければ、変わるはずがないのだ。そんな開発が続いたところを商人がつけこんだのだ。資材などが増えれば、出入りする商会も一つでは回らなくなる。そうやってどんどん無駄に自分たちが楽できるように変えていった末が、この気味の悪い街を作ったのだ。おそらく私が、お前と同じ提案をしても、中々受け入れなかったか、受けたふりをして働かず、私のやり方に問題があったと責任転嫁するだろう。」
なんだか父はここの人たちに対して棘を持っている感じがした。
「お前に今伝わるか分からないが、人はな、実は支配されたいと思っている」
衝撃とまでは言わないが、理解が追い付いていないのを読み取り、分かりやすく言葉を変える。
「そういう欲があると、分かってはいない。ただ、責任は取りたくない。未来を考え、深い思考をするのは面倒だ。また権威に任せることに安心を覚える。そういう感覚を持っていると言えばいいか。また逆に強制が強すぎると反発し、従わなくなる。自分の欲求に対して、制限が、強い束縛を感じるとか、自分が考えた限界を超えた要求に対し、それを無くそうと行動するのだ。つまりそういう正反対の欲の間で、右往左往しているのが奴らだ。つまり、我らは奴らの欲を上手く使いながら、管理することが必要になる」
これは帝王学と言われるものだろうか
「今回はお前の提案に対して、リンドはやってみたいと思った。あいつの『やりたい』を引き出したのだ。そこには食べ物が育ち、食料が増えるという利益を見せることができたからだろう。私が言えばただただ命令であり、この間の一件も含めて、力による強制と受け取り、『やりたい』よりも『やらされている』が強くなり、能率も落ちることになっただろう」
支配者はこんなことをいつも考えているのか
「奴らはいつも自分勝手だ。成功したら自分たちの実績だと誇り、失敗すれば我らのせいだと責任を問おうとする。今回はお前の提案だと分かっているから無暗に私に責任を持ってこようとはしないだろうが、意図的にではなくとも、結果が悪ければ初心を忘れ、豹変するものだ。人とは醜く汚い生き物である。それを忘れてはならない」
父には何か、自分が見ている世界とは違うモノが見えている気がした。
「・・・・分かりました。それならここには管理者が必要ですね」
「そうだ。・・・・どうだ?トニーやってみないか?」
「え?」
「誰もやりたがらないが、必要ではある。ここで暮らせるように人は送ろう。それにな、色々問題もあった土地だ、また何か良からぬことが起こるとも限らん。お前には私にここで起こった情報を正確に教えてほしいと思っている。私にはまだ心が本当に許せる家臣は多くないのが正直なところだ。だからお前がやってくれると助かる。勿論お前もペイジにふさわしい年齢になれば王都に行ってもらうが、それまでの期間でいいんだ。どうだ?」
父の頼みはかなり無茶に感じる。こんな8歳の子供に問題を起こした領地を任せるなど。
だが、それだけ父が困っているという事でもある。
それに、自分が変わりたいと望むのならば、こういう来たモノに挑戦しないなんてもったいない。
「分かりました、お引き受けいたします」
「そうか、助かる。あまり根を詰めずやってみなさい。どうせぶら下がっていた連中だ。どうなろうが構わん」
「ははは、やるからには全力です。父上を喜ばせて見せます!」
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