2.6
自然
言葉の意味としては、人が手を入れないもの、ありのままという意味もある。
植物や、動物も自然であるといえる。
では逆に、自然でないモノとは何だ?
それは人為的なもの。
人為的に何かしようとしている?
なるほど。私は考えて、イメージして、克服しようとして、何も手に入らないことをもどかしく思っていたのか。
今まで手に入れたという感覚を得られないから不安で心許なくて、怖かったのだ。
簡単に手に入れようとするなら誰かを殺すしかないが、それは自然ではない。
だから間違いだといえるのか。
アレクサの言わんとしていたことを少し掴み、不安だと思っていたことが軽くなった。
自然で生きるしかないのに、あれこれ考えすぎると毒になる。
そう思って、とりあえずこの問題からは離れることにした。
今までとは違う生き方をしようと肩肘張っていた。そんな自分が見えてきてた。
そもそも、そこまで力む必要が無い。
先程のアレクサの振りのように、力を入れれば入れるほど、動きは自然から遠ざかる。
今ある目の前の問題にそのままぶつかればいいと思い直した。
そして今ある問題は。
「うぷっ」
「おい、大丈夫か?」
「すいません、無理・・・。止め・・・。」
父上が馬車の御者に合図をして止めてくれた。
おろろろろろろろろろろ
この世界は旅行という事は全く流行っていない。
それは危険もあるし、馬の世話、旅費、通行税を含めて、とても余裕が無ければできないという事が大きな要因だ。
立場上、偉い人は管理するという意味で、出かけなければならないが、それは基本とても大変なことである。
この体で初めての旅行ではなく、視察なのだが、馬車の揺れが想像以上であり、ここまでひどいとは思っていなかった。
「ちょっと休んでいこう」
「はい、ありがとうございます」
「いや、構わんさ。トニーはこれから行く、ニューランドという村について何を知っているか?」
「えっと、・・・バース叔父さんが以前管理していた地域の村でしょうか」
「そうだ。ここは、お爺様、お前から見たら曾祖父に当たる方の代で我が領になった、新しい領地だ。だから、まだ伝統や慣習といった部分が、我らと同じではない。まだ上手くいかないことが多くて、不満も多い。その上、先日一つ商会を潰したことで、不安も大きくなっているのだろう。先日行ったんだが、なんだか私には話しにくいことも多いのではないかと感じた。だからお前に来てもらったんだ。まあ、気休めでも何かできればいいな程度だけどな」
「それなのに、体調が悪くて、申し訳ありません」
「ふふ、お前は、運動は得意と聞いていたから、意外だったな」
「私も初めてのことで、自分でもびっくりしています。近場に行く時にはこうはならないのですが」
乗っている時間もあるだろうが、道が整っていないところが多いから、余計乗り物酔いを起こしたのだろう。
「私もあまり気乗りしない視察だ。ゆっくり行っても構わん」
この世界は時間の流れが違うと感じる。
以前は人は一分一秒を争うように行動していた。
それを無駄にすると自分が取り返しのつかないことをしでかしたようにさえ感じた。
勿論時間は流れているのだが、こっちの人はその流れをあまり感じていないというか、気にしていないというか。メリハリが効いているのかなと思う。
父はいつも厳しい表情をしている。
だからこういうのんびりなことを嫌う傾向があるのではないかと思っていた。
しかし風に当たりながら空を見上げている姿は、仮面をつけていない、全く違う一面を見た気になった。
その表情はこれから向かうところの問題を憂鬱に思っているのが、見て取れた。
しばらくして、出発し、目的地に着いた。
そこは何かと新しく見えるが、こんなに整っているのに、なぜか活気がない。
コントラストがオカシイと感じるほどに、ちぐはぐに見えた。
まるで、ゴーストタウンのような雰囲気さえある。
父もこの街の雰囲気が気になるようだが、どうしたらいいか分からないようだ。
街並み自体は整った印象で建物も新しい。
道路にもレンガを敷き詰めかなり他の街から見ても最先端な感じさえする。
だがどこか物足りないと感じる。
蟠りを抱えながら、この地域の長といえる者の家へと向かう。
長といっても年齢は40歳。
名前はリンド。彼はもう二代にわたってここに住んでくれている。
「ようこそおいでくださいました。閣下」
と恭しくご夫婦で頭を下げて迎えてくれた。
やはり先日の一件以来畏れているのが分かる。
私としてはもっとフレンドリーになりましょうと言ってやりたいが、線引きや距離感は大切だ。
必ず超えさせてはならないところはあるのだから。
「あれから変わりないか」
「はい」
「・・・・そうか」
ステフのように多くを語らない姿勢に、距離の詰め方が分からない。
「ああ、遅れてすまない。私の息子次男だが、アントニオだ」
「初めまして、アントニオです。・・・リンドさんとお呼びしてもいいですか」
「いえ、リンドと呼び捨てで構いません、アントニオ様」
平身低頭の姿勢を崩さず、こんな子供にさえも距離を置く。
これは今まで街へ出ても感じなかった大きな溝だ。
そういうことを父も感じたのか、少し表情を柔らかくする。
「リンド、先日言った通り、我らは決してお前たちを力で支配したい訳ではない。ただ、法や信仰に背くと、我らは裁かなければならぬだけだ。何も悪いことをしていないならば、問題ないのだぞ」
「はい。存じ上げております。皆にも肝に銘じておけと伝えました」
開いた溝は容易には埋まりそうにない。
「そうだ!もう、種まきや植え付けは終わりましたか?」
「そうですね。やっている者もいれば、まだ始めていない者もいるかと思います」
「え?冬までに収穫はできるのですか?」
日本の農業のイメージが強いからかなり驚いた。
その驚きが、何か法に触れたのかと思い、またリンドが頭を下げ平伏した。
「申し訳ございません!言って聞かせますのでどうか、命だけは!」
恐怖に怯えた、嫌悪というか畏れを感じ、自分がヤ〇ザになったのかと思った。
もしかしたらこの人たちは今どこに地雷があるか分からずに過ごしているのかもしれない。
だったら面倒だと思わずに丁寧に説明することが必要だな。
「大丈夫ですよ。ここの流儀を知らなかった私が悪いのです。それよりも、ここでの作業や作物、どんな感じなのかを教えて下さい」
「はい、ここは気候が温かいので、皆それぞれの都合に合わせて植えています。小麦が多いですが、どうも実りは毎年そんなに良くなく。申し訳ありません」
「小麦以外は何を植えますか?」
「イモでしょうか。あれは簡単に育つので大変役立っています」
「なるほど」
「おそらく、海が近い為、だと思いますが、砂が多くて、土が良くないのだと思います。水が含まず、乾いてしまうのです」
別におかしなことを言ったわけではないが、少し父の機嫌が悪くなる。
「お前は、土の神に文句があるのか」
「いえ!そんなつもりではありません!いつも感謝しております!」
父の普段の厳しい表情に、溝の深さがとんでもないグランドキャニオンに変わるのが見えた。
「父上、彼が言いたいのは、神様は色々いるという事です。種類が変わっているという事ですよ、ね」
「!そ、そうです!水を含んでくれる土と、すぐ乾いてしまう土があると申し上げました。・・・良くないというのは言葉の綾なのです!」
これはリンドが地雷原を歩いている気分になるのも仕方ない。
「そうだ。父上も土の違いを実感できるように視察に出かけましょう」
「え」
「私も皆が作業しているところや、この地の風土を実際に感じて、これからに活かしていきたいので」
「そうだな。聞いているよりは見た方が早いな」
「は、はい。かしこまりました」
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
大変うれしく思います。
読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。
ちょっと中途半端なところですいません。
切りよいところまで、出来れば今日中にもう一つ上げたいと思います。
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どうぞよろしくお願い申し上げます。




