2.3
春の山菜採りにも慣れて、食卓が豊かになった頃、お母様から呼び出しを受けた。
忙しいお母様が私を呼び出すとは只事ではない予感がする。
少し足取り重く扉を叩いた。
すぐに返事があり、扉が開かれる。
侍女のナンシーが中に入れてくれた。
母は執務机に向かい書き物をしているが、入ってきた私を見てにっこりと笑みを深めた。
最近気づいたお母様のこのポーズは怒りゲージで表せば、中を指していると言っていい。
少し私は背筋を伸ばし、前にあるソファに座る。
「忙しいのにごめんね、ステフ」
そういった声はとても柔らかく、怒りは無かった。
自分の見立てよりも怒りゲージが低いのかもしれないと訂正した。
「あなたはいつも頑張ているわ。レオと比べたら素直だし、私は嬉しいのよ」
これは怒りゲージが高かったのは自分の責任ではないのではと考えた。
「ただね。ちょっと頑張り過ぎよ」
あれ、やっぱり駄目な奴か?
「山菜。たくさん取ってきてくれるのは良いのだけど、・・・それだけあなたが頑張っているといえるのだから駄目だとは言わないのだけれど・・・・、やり方を考えないとダメではなくて?」
背中になぜか寒さを感じる。
「私もね、厨房には言っておくから、大丈夫だと思うのだけれど、あなたは採ってきた山菜を厨房に持っていく時、しっかり伝えてね」
これは必ず言葉にしろという意味だろう。
「山菜ばかりが並んだ食事だと皆不満が溜まるみたいで、特にペイジとかスクワイアの子にはちょっと物足りないらしいの。そういうのを考えるのも私たちの役目なの。だからお願いね」
この「お願いね」には返事はYes以外には受け付けないという意思が乗っている。
私は頷き親指を立てて了承した。
今まで山菜を取ったら厨房のコックの人に渡して親指を立てていただけだったが、それでは駄目だという事が分かった。
カミーラは自分の分を少し取っているが、私はアレクサが背負ってくれる分も含めて沢山採ってきていた。
あれだけあれば、十分みんなで食べられるだろうと思っていたが、どうやら食事は山菜だけだとだめらしい。
話の流れ的に、肉や魚が欲しいという事だろう。
つまり、トレードして来いという事じゃないだろうか。
山菜を取ってきたら街で肉や魚と交換してきなさい。
これが母の言いたいことだ!
私は食べられるものならば、なんでもいいから、全然気づかなかった。
今日もカミーラと一緒に行く。
山菜の旬は短いし、おいしい時期が過ぎると固くて食べにくくなる。
そうはいっても食べられると私は思えるが、皆がそうでなければ、困るだろう。
だから旬を過ぎているモノは採らず旬なモノだけ採っている。
「今日もまだいけそうだね。ここんとこ2日に一遍は姫様と一緒に採っているから、もう私はそんなにいらないし、姫様は思う存分取りな」
「ばあちゃんはしっかし元気だね。俺ですら荷物担いで疲れるのに」
「疲れるだぁ?生言ってんじゃないよ。全く。こんなに気持ちのいい場所来て、逆に癒されるだろうに。あたしゃあんたくらいの時には毎日籠いっぱいにして3往復してたってのに」
「ハハハ、流石だね。あんたにゃ敵わんよ。でもそんなにいっぱい採って全部食ったのか?」
「そんなわけないだろ。お得意さんに渡したり、売りにも出したさ」
その話にピーンときて、ガバっと振り返った。
「・・・・姫も売りたいんか?」
あまり二人の会話に入らない私が反応したので、カミーラ婆さんも気づいてくれた。
「売るなら手伝うけど、辺境伯は許可したのかい?」
許可?知らない。無視するのは不味い気がする。
「・・・・許可はもらってないけど、食卓が山菜尽くしになると不満が出ると言われました。交換とかできませんか?」
「物々交換かい?うーん、確かにそれなら引っかからないのかな?・・・分かったそれじゃ知り合いに聞いてみようかね」
そしていつものように籠を満タンにして街に持って行く。
あれから何度か街には出ているが、基本脇目を振らずに行動するから、必要な場所しか知らない。
これも山菜、もとい薬草と同じだな。
色々なところを覚えるようにしないと私の中の知恵が育たない。
自分の欠点をまた一つ見つけ嬉しくなる。
そしてやってきたのは野菜が並んでいる市場?のようなところだ。
そこでカミーラが「ちょっと皆!来ておくれ!」と声をかければ、店の人が集まる。
「これを見ておくれ。今日採ってきたばかりの山菜だよ。しかも辺境伯の山から採ってきたんだ。こっちの姫様がね。それで悪いんだけど、物々交換をお願いできないかね」
「本当かい⁈そりゃいい!うちの小松菜と交換でどうかな」
「いやうちのジャガイモと交換しようじゃない」
「玉ねぎでいかが」
「姫様が採ったのなら、おまけしよう」
「おうおう、いいじゃないか。沢山あるからね。少しずつ皆と交換しようか」
私はとりあえず笑っておこう。
肉と魚は無くても山菜尽くしから脱出が目的なのだから。
そう思っていたが半分ほど残して次のところへと向かう。
干し肉を扱っているお店が並んでいる。
ここでもカミーラが一声かければ皆が集まる。
色々な干し肉、ハム、ソーセージと交換することができた。
この世界は冷蔵庫というものが無いのだろう。
精肉はないが、問題ないだろう。
色々なところに行けたし、沢山もらえた。
山菜が凄い量の食料になり、運んでくれるアレクサはちょっと護衛の仕事ができそうにないように見える。
まあ、街中だし大丈夫だろう。
そして家の厨房にいつものように顔を出す。
しっかり伝えなければならない。
コックが出てきたので
「今日の戦利品」
と言って親指を立てた。
いつものコックはウィンクをしながら「素晴らしいです!」と言って親指を立て返してくれた。
完璧と思っていた翌日、再度お母様に呼び出された。
もうすでにお母様の怒りはゲージ突破を示す頬肉ピクピクを発動している
「昨日沢山食材を持って帰ってきたらしいけど、あれは何ですか」
「戦利品」
恐々伝えたのだが、声が小さかったせいか、もう一度聞かれる
「あれは何?」
「山菜と交換した戦利品」
ふーっと息を吐きだし、一呼吸整えた後、腕を組み、目を見開いた。
「誰がそんなことをしろと?」
「食卓を改善しろって、・・・違うモノを届けました」
はぁとため息の後、目線を合わせてくれる。
「・・・・ステフ、あれはね。厨房にどう使ってもいいですよと許可を出しなさいという意味です。あなたは誰かに命令する立場に慣れなければ駄目よ。あなたは全部自分でどうにかしようとするんだから。お陰で厨房から食材が予想以上に入ってくると置き場所に困るという連絡を貰いましたよ。あなたは山菜を厨房の人がどう使っても良いと許可を出すことで、厨房が必要な食材と交換しに行けるのです。使うかどうかも分からないのに食材だけ持ってこられたら、料理長も困るでしょ。・・・私もハッキリ言うべきでした。ごめんね」
「うぅ・・・ごめんなさい」
確かに私は何でも自分で何とかしてしまおうとする癖がある。
そっちの方が早いとか、効率的だとか決めつけている。
これは逆に周りを信用していない、役立たずだと思っているという事になってしまう。そう伝わってしまう。
それはおそらく誰も気にしない程度の薄い膜のような観念を自らに貼り付け、纏っていくようなものになるのだろう。
そしていつか誰かが気づいて言い出すのだ。
『あの人は誰も信用しない』と。
「最近、わたくしも、自分の力の大きさに戸惑っています。辺境伯夫人という立場はそれだけ周りに影響力があるのよ。ちょっとした頷きでさえ、皆が見ているのです。あなたも、辺境伯の令嬢としての力の大きさにはなれていく必要があります。自分だけで動くと、その力が使えないどころか、小さくしてしまう。逆にあなたが周りを頼れば、それは大きな力に変わるのです。少しずつ慣れていきましょうね」
「・・・はぁい」
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