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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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2.2

季節が巡り、春めいてきた。

最近温かな日が増え、街の雪も消えたころ、外へと行く機会が増えてきた。

なぜならば、薬草を覚える必要があるからだ。


このバーンベルク辺境伯は外敵と害獣に日々警戒している。

その為、治療に使う薬の在庫は大変重要である。


傷の治りで九死に一生を得る場合があるのだ。

だから、薬学、薬草の研究が発達してきたと聞く。

そして、バーンベルク辺境伯出身の女性は特に、これらの習得を期待されているのだ。

他の領地も特産の知識を勉強し、その習得具合で嫁の貰い手が変わると言われているくらいだ。


バーンベルクの場合、薬草学という事である。

他の領では裁縫とか、花、音楽、歌に踊り、絵画などであるところから見ると、大分実用的なモノに重きを置いているというのは実にこの領らしい特色である。


そしてまずはじめというか一番時間がかかるのが、薬草の見分け方であり、薬草の採取、保管管理である。

なんせ季節でとれる種類が変わるので、基本その季節を逃すと一年待たなければならなくなるのだから。

しかも本来はお婆様が担当してくれるはずだったのだが、そのお婆様が蟄居してしまった。

お母様は領主の館の女主人になったばかりという事もあり、忙しい。


それで代わりに教えてくれるのは、街で薬屋を営んでいるカミーラさん。御年67歳。

かなりな高齢なのだが、とても元気である。

そして護衛にアレクサ(55)が付いてくれる。


先日4歳になったばかりの私と三人で出かけている。


ちなみに街の薬屋は息子夫婦がいるので、終日出かけていても問題ないらしい。

アレクサも結構気さくで、カミーラさんとは昔馴染みというか子供の頃から知られているので頭が上がらない様子であった。


向かう場所は我が家が管理している山の麓の森である。

「ほら、ここにフキノトウが出てきているよ」

「フキノトウは小さいつぼみの頃と、少し花が咲いてくる頃と味が変わるからね」

「ここにぜんまいもあるよ。こっちはコゴミだね。ワラビはもう終わりかね」

「・・・・」


なぜか山菜を取りに来た感じになってきた。


「ばあちゃん、山菜ばっかりじゃねぇか、薬草の話はどうしたよ」

「あるものを今教えているだろ、せっかちだね、昔からあんたは」

「いや、話がそれてしまっているんじゃないかと不安で」

「薬草は逃げないんだよ、それに色々知識をつけるのが重要なんだ。何でもかんでもそれだけに絞った教えはいざという時に役に立たないんだから。木の枝のように色々伸ばしていって、大きくした方が立派な知恵という大木になってくれるんだ。最近はなんでも一部しか知らない奴が多くていけない。一部に詳しくなっても全体像が分からなければ、色々なことが繋がらないで実際には役に立たなくなる。隣にある植物も知らないで、それだけしか見ないなんてもったいないだろ。無駄で意味ないものが隣で生えているとでも思ってんかい。すべてちゃんと理由があるのさ。植物たちの中ではそういう決まりごとがあるんだよ。それを一気に全部教えるなんて無理だろうが。身近なところを入り口に、その隣のモノへと広げていく。それが良いんだよ。」

「ああ、もう、分かったよ、しっかり教えてくれるならいいんだ」

「あ、うっひょょうううう!こっちにもコゴミがあるね。大量だ!こんばんはおひたしにしようかね」

「「・・・・」」

今の季節は薬草よりも山菜が旬なのだ。



    §

「はあ・・・・」

せっかくお嬢の護衛になったのに、役に立てているのか分からない。


本当は先日の騒動で、私もフェルマー騎士団長と一緒に逝くはずだった。

歳周りから言っても、私が参加してもおかしくなかったのに、団長から「お前はダメだ」と言われてしまった。


「私だって、殿に忠誠を誓っていますよ!だから・・・」

「いや、お前はコロコロ変えるだろ」

「そうそう、若にも、あのレオナルドやアントニオにすら光るものがあると言っていたではないか」

「あんなに飽きっぽい、信念が感じられん奴らの何処が良いんだ。全く分からん」

「第一、商会一つ潰すのに4人いれば、十分だ。アレクサまで居なくなったら、殿は恥をさらして生きねばならんのだから、淋しいだろ」

「それとこれとは違いますよ!」

「それにお前はあの子たちの教育係を任されているではないか。殿の命に逆らうのか?」

「それは・・・」

「あと、俺たちはもう体に無理が出てきたのだ。だからこの機会はまさに神の導きだ」

「そういうことだ。神はしっかり俺たちの花向けに死に場所を作ってくれたのだ」

「ははは、本当に話の分かる神だ。毎日拝んでいた甲斐がある」

「だから、お前はあの子たちを立派に育てることだけ考えろ。それが殿の願いだ、その心に寄り添え」

「それに、お前が我らの心をあの子たちに届けてくれなければ、殿も含めて皆が無駄死になるやもしれん。そんな大役を任せられるのは、我らと幼い時より一緒だったお前しかおらん。そうだろ?」


そういわれれば、もう何一つ言い返せなかった。


多分皆の中で一番年下だったという事もあるだろうが、私もバーンベルク家の為に死ねるのならばそっちの方が良かった。

大役とあの願いを言われたら、私はもう無理について行くことは出来なくなった。

そして4人との別れの時に手を合わせながら誓った。

必ずや皆が愛したこの地を守り、繋ぐことを。


ただ私は本当に3人に、いや、4人に光るもの感じていた。

ニック、ダン、カークの3人が、二の若のバースを推す中、私は若のクリートを推していた。

騎士団長は立場上もあって、中立だったが、殿は私の言い分を聞き届けてくれたように思う。

長男という事以外でも、クリート様は凄く深いものを持っているように見えるのだ。


いつ見ても、静かにこちらを観察しているように見える。

あの佇まい、あの眼は、まるで誰も信用していないという感じがしていた。

だからかもしれないが、三人は「好かん」と言って、敬遠した。

だが、私には何か恐ろしくも感じれば、全てを飲み込み受け止めるような測り知れない大きさがあると思った。

だから、次期当主はクリート様だと思っていたのだ。


まあ、結果は必然的になってしまったのだが。


そしてその長男のレオナルドは一見飽きやすいようだが、真剣になればかなりの集中力がある。

ただ始動に時間がかかるだけ。思い込みを取ることが最も大変なだけなのだと思っていた。

次男のアントニオはもっと凄いと感じた。

棒を持っただけなのに、まるで体の一部のように一体化していると感じた。

あれが最初からできるのであれば、もはや天才という言葉以外ないだろう。

ただこちらも、どうも引っ込み思案で、何かと遠慮しようとする。

自分が何かすると目立つと知っている様子だった。それだけ周りと己の違いを分かっているのだろう。

だから、二人ともそれぞれに良さがあると思っていた。


そしてなぜかお嬢のステファンも訓練に参加するようになった。

殿はその時までおそらく長男も次男もなんだか物足りないように感じていたのかもしれない。

お嬢は頑張り屋だとは思うが、武道の心得として、何か光るものがあるわけではなかった。

どの道、戦場に出ることがほとんどないのだからと、私は思っていたが、お嬢本人はいつでも行く気だったようで、アントニオに気概が大切だ、「もっと上を目指しなさい!」と我々が半ば諦め、言わなかったことをストレートに言ってくれた。

あの時の眼に私は一発で惚れた。


まだ3歳と幼いのに、二人にはない、いや、私にでさえない、信念や闘志、焦れるほどに追い求める純粋な()()()()が見えた。


仲間内で話すときも多くの騎士たちが同調してくれて、密かにファンクラブを作る話が出るくらいだ。


それからアントニオも少しずつ変わったし、なんだかこの領の未来も光が差し込んできたように思えたのに、あの騒動だった。


私の中ではアップダウンが激しすぎて、未だに全てを昇華しきれていないように思う。


それでも今回のお嬢の護衛任務は誰にも譲らんと見事に勝ち取った。


しかしだ。

あの薬草を取りに行くと期待して、眼を輝かせて行った先が、山菜採りという実態に変わり、お嬢の眼がくすみ沈んだ雰囲気になった。

堪らずあのカミーラのばあちゃんに反抗するという暴挙をした。


カミーラばあちゃんは俺たちの青春、癒しの女神とまで呼ばれた女性だ。

まあ、今となっては面影もないが。

それでも薬の腕は領内でもトップクラスの実力者であることは間違いない。


そんな神と崇めていた方に、文句を言うのはかなり言葉に迷ったが、今の最推しのお嬢の顔を見れば、処置なしと決死の覚悟を決めた。


結果は10倍、100倍になって返ってくるだけで、変わらなかった。

申し訳ない。


それでもただ黙々と山菜を籠山盛りになるまで取り続ける健気な姿に私はもう護衛を忘れて籠を担ぐ。

それが今の楽しみになっている。


4人との約束は忘れていないが、今できることをその時やるのが漢である。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

大変うれしく思います。

読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。


もしよろしければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

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