2.0
レオナルドはペイジとして認められるために王城に来ていた。
ペイジとは、幼年期7歳くらいから14歳くらいまでの貴族子息が上位の者との接し方を学ぶべく、奉公に出される制度である。15歳くらいからはスクワイア(従騎士)、20歳くらいに騎士となる過程の一番下のカテゴリーである。
辺境伯の子息であるレオナルドは王城で、そこの女主人である王妃の下、マナーの最終確認をされるという事でやってきていた。
主と仰ぎ見るのは勿論王様である。
王の従者として働き、学び、鍛える。
それの為に来ている。
しかし、レオナルドは前世の小説・漫画・アニメからの知識で、これは『学校』だと勝手に思い込んでいた。
その為、中身を知り、突き落とされる感覚になった。
話が違う。
誰もそんな話はしていなかったが、己の思い込みを誰かのせいにしたいのだ。
歳の近い男女が親元離れてキャッキャウフフとできるのだと信じて疑わなかった。
親元離れた解放感から皆少しいけない遊びにはまってしまう。
王道だがそれが良い。そう思っていた。
それを期待したからこそ、半月の移動に耐えてここにやって来たのだが。
やらされるのは水汲み、掃除、王の服の着替えの手伝い、食事の配膳などだ。
これ以外にも講義や訓練も行われるが、大体が男女別。ほとんど接触はない。
レオナルドは『辺境伯の息子』から『召使い』へとジョブチェンジしたと思い、何とか現状を変えなければと奮闘することにした。
こんなはずじゃない。
前世の記憶から「学校ってもっと楽しかったはずだ」と、そこから感覚が抜け切れないでいた。
部屋は6人部屋で家の爵位は侯爵3人と伯爵2人であり、自分が一番家格は上なのだが、それでもやることは一緒。優遇される訳ではなかった。
そして彼らの動きはもう既に傅く者のそれであり、生意気だったり、気弱だったり、馬鹿だったり、ショタだったりという事は全くなかった。
こんな薄い味付けのキャラ、誰が愛するんだ。
余計なお世話だと言っておこう。
そして訓練がとにかく厳しい。
老騎士といっても、お爺様より若いのだが、明らかに何度も戦場に出ていると思える出で立ちである。
「兎に角、体力づくりだ」と言われ、荷物を背負い小走りで走らされ続ける。
もうレオナルドは限界だった。
ここにきて1週間で音を上げた。
自分の役割は頭脳労働だと信じて疑わないレオナルドにとって、これは意味のない時間だと割り切っていたが、監督役は許してくれない。
遅れたり、隊を乱したら殴る蹴るは当たり前であり、30人ほどいる訓練生の内5人ほどは包帯姿でもやっている。
調子が悪いと休むなどもってのほかで、体調を崩すような生活が悪いと評価を下げられると聞いたときに、「人権は?」と言って、周りから変な顔をされた。
この世界と自分の知識の違いが未だに信じられないでいる、ある意味頑固さを持つのがレオナルドである。
自分が正しいと信じて疑わない、何なら周りが間違っているのを糺してやろうとさえ思っていたから色々啓蒙して回ることにした。
「人権は生まれながらにあたえられているのだ」
「子供だからと奪われていていい訳がない」
「誰もが得意不得意はあるのだし、長所を伸ばす教育をしていく方が良い」
「教えるために暴力を与えるのは間違っている。怪我をさせて未来を棒に振ったらどう責任を取るつもりだ」
「休みが無いとかありえない。仕事に張を持たせるためにも、弛緩は必要なのだ」
「こんな事なぜ誰も分かろうとしない。簡単な話だろ」
そうやって自分が信じて疑わない正論を言い放った。
言いたいことをそのまま伝えた結果、家に帰されることになった。
「お前にはまだ早かったようだな」
そう監督官にいわれて追い出された。
来るときは馬車があったが、何もない状態だった。
「え」
これは詰んだ。
お金もなければ、武器もない。
食料は愚か水さえない。
この状態で、来るとき馬車で15日はかかったあの道を足で帰れという事だと思った。
これで辺境伯の息子が死んだらどうするのだ。
誰が責任を取るのだ。
保証は。法令は。
俺は守られるべき存在のはずだ。
しばらく茫然と立ち尽くし、・・・・・それから死を予感した。
そこで漸く、道が無くなったことで、バットエンドフラグと理解する。
ただもう後戻りはできない。
時間は巻き戻せない。
セーブポイントがあればと意味の分からない後悔をする。
どうしようもないから、とりあえずその場からトボトボと歩き出した。
この世界に、いや、生まれて初めて自分が、いかに守られていたか、いかに多くを与えられていたかを思い知った。
今まで持っていると思ったものは誰かが作ってくれた、勝ち取ってくれたものであり、それを当たり前のように思い込んでいた。本当はただ乗せられていただけだと分かった。
権利などと言っても、認めてくれるものが大勢いて初めて許されるものであっただけだ。
それは必ずあるのではない。
誰かが勝ち取った証であり、それを分かってくれない人ばかりであれば、無いのだと初めて知ったのだ。
自分が辺境伯の息子だとこの街の誰も知らない。
そんな子供を誰が気に掛けるだろうか。
自分が「あるのが当然だ」と思っていた全てを失い、丸裸になって、初めてそれでも未だあるものに気づく。
それは体であり、知識であり、僅かなエネルギーだった。
ステファンの「自分が全てを決められると考えるのは浅はかよ」という言葉が浮かび上がた。
そして自分がどれだけ我儘で傲慢であったのかを知った。
だが時すでに遅し。
もうどうすることもできない。
それから街をさまよう。
王都といっても、そこは日本の首都から見たら殺風景であり、大きくても5階建てくらいの建物ばかり。
人はそれなりに多いが、余裕がある生活をしている様には見えなかった。
日々の生活をその時その時でしのいでいる。そんな印象だった。
活気は在れど自分を気に留めて話を聞いてくれる隙間はなかった。
しばらく歩くとスラム街なのか、自分と同じ目をした人たちが道端に座っているように見えた。
俺も将来ここの一員だなと思うほど、もうすでにメンタルはやられていた。
自分の将来像を思い浮かべたことで、ここに留まるのはまだ早いと思い直す。
だからもう一度活気のある方へと足をむけた。
しかし、夕暮れを過ぎて、人が減るとそこも冷ややかな世界に変わっていた。
水は何とか井戸を見つけたので喉を潤すことができた。
だが食べ物は無い。そして寒い。
漫画やアニメでは飲食店の裏に生ごみが出されているとあるが、あれはここにはない。
話が違う
何度目かの自分の思い込みと現実の違いに騙された気分になった。
未だ傲慢さは抜け切れていなかった。
一日目の夜はスラム街と住宅街の境目で過ごした。
王都には城壁が築かれている。
街から出ていく勇気がなく、歩き回ったが、もう空腹で体力も限界に来ていた。
行動エネルギーの底が見えてきた。
あれから何度も後悔し、俯いて泣いていたが、誰も助けに来てくれない。
普通泣いていれば誰かが声をかけるものだと思うが、これも思い込みの人任せである。
頼ることのできる者もいなければ、知り合いすらいない。
無能と蔑まれるだけの自分しかいなかった。
この世界は地獄に違いない。
そう思ったところでハッと気づく。
辛いのは空腹くらいだ。
未だそれだけである。
地獄がこんな楽なわけがない。
自分が体験した中では一番厳しいかもしれないが、それでも映像で見た、紛争地域の人々の様子から言えばまだ恵まれているはず。
根拠のない力が湧いてきた。
あれから比べれば大したことが無い。
だから取り敢えず生きるために足掻いてみよう。
もうプライドも何もかなぐり捨てて生きてみよう。
まず自分の持ち物を確認した。
何もない。
だが、今来てる服は王城で支給されたものである。
少し汚れたが王家の紋章もついている。
品質は素晴らしいはずである。
これを売ってお金に変えようと行動を開始した。
「すいません。私お金が無くてこの服と交換でいいので何か恵んでくれませんか?」
「は?それ、王家の紋章でしょ、なんで?」
「あはは、追い出されてしまいまして。もうギリギリなので、買い取りをお願いしたい、もしくは買い取りをしてくれそうなところ知りませんか?」
「勘弁しておくれ、そんな人と関わりたくなよ、どっか行っとくれ」
服を売っている店のおばさまにすげなく断られた。
どうやら王家を追い出されたという事が思いのほかNGワードだったようだ。
気を取り直して少し離れた店の人に聞こうと向かう。
「すいません。この服の買い取りをお願いしたいんですが」
「え?・・・着ているそれですか?いや、ちょっと・・・・今責任者不在なもので他を当たってください」
小姓のような若めの店員には鉄壁のセールスお断り言葉で追い返される。
この後何軒か回ってみたが、駄目だった。
皆怪しい人と取引には応じたくないという感じで避けられた。
レオナルドは知らないが、城壁の中で暮らすというのはある程度信用がある人間でないと居住を認められていない。
信用できない者と取引しないのは当たり前だった。
商売取引も縁をつないでくれる人が人を紡いでできていた。
スラム街と見えた住人も汚れ仕事といわれることをこなす必要な身分の人である。
犯罪や問題を起こす人間は衛兵が捕まえる。
それが王都であった。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
大変うれしく思います。
読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。
二章では兄弟それぞれのサバイバル?成長をテーマにしたいと思います。
今日からは大体一話ごとの掲載を目指していきます。
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