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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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14/59

1.9

それから数日が過ぎ、予告通りまた私は呼ばれた。


今度は応接間ではなく、庭の開けた東屋だ。

丁度天気がいいので、着るものを間違えなければそこまで寒くなかった。


「今日は天気がいいからここにしたんだ。今日は尋問という訳ではないよ。お茶でも楽しみながら話を聞けたらと思って呼んだんだ。だから少し楽にしてくれていいからね」

テオドール様はいつもの笑顔だ。

伸びをして、リラックスをアピールしている。

私は姿勢に気を付けて、笑顔を作り、お地蔵様を憑依させる。

「・・・」

私は楽にしているつもりだが、基本楽にしての「楽」という概念が良く分かっていない。

「・・・君はこの庭を見てどう思う?」

「最高です」

「・・・そう。好きな花はあるかな?」

「すべて好きです」

「・・・いつもはどんなことをしているのかな?」

「読書と稽古です」

「へ~、どんな本を読んでるか教えてくれる?」

「書庫にある歴代の辺境伯の自伝です」

「・・・・面白い?」

「最高です」

尋問と質問と対話の区別があんまり分かっていないから、尋問のようになってしまう。


「・・・そう、・・・話を変えよう。私はね、第二王子なんだ。だから基本王様にはなれないんだ。だから、ここだけの話、バース、君の叔父さんのバースのことが少し分かるんだ。・・・自分を認めてほしいと父に訴えて、何とか勝ち取りたいという、そういう焦りというか、承認欲求というか、そういう感情。欲しくて欲しくて堪らない、だからどうにかして手に入れたい。・・・どうしても欲しいと思う時、君ならばどうする?」

「努力します」

「でも、それは達成しないよ」

「それでも努力します」

「でもそれは秩序を壊すかもしれない」

「それでも努力します。無駄だと分かっていても努力します。手に入らないからと言って努力を止めると、人生がつまらなくなるから。己を高めるために努力し続けます」

簡単に言い切って、お茶を飲む。

唖然と言った感じが見て取れる王子が少し暗い表情に変える。

「・・・じゃあ叔父さんのことは、仕方がない結果だと?」

「あれは努力ではないです。甘えです。努力とはただ一人で生きることです。結果が欲しくて脇に反れたのは全部甘えです」

「・・・・ほう。・・・君、何歳だったけ?」

「3歳で、もうすぐ4歳になります」

「将来何かやりたいこととかあるかい?」

「この家、・・・領地、国、世界の為になることをしたいです」

またもや顔から感情が抜けた顔に変わった。

「驚愕としか言いようがないな」「ええ」

思わず後ろの近衛騎士もしゃべった。

「本を読んだからかな?歴代の辺境伯の教えにそんなことが書かれていたの?」

「・・・似たようなことは書いてあると思います」

「そうか、私も本をもっと読んでおけば良かったのかな。・・・うん、そのまま真っ直ぐ育ってほしいね」

佇まいを変え、柔和な笑みを消し、真剣な眼差しになった。

「・・・世の中は君が思っているほどシンプルにはなっていないし、今の気持ちが折れてしまうこともあるかもしれない。そうならないように気をつけなさい」

「はい」

「・・・・」

それで行っていいよと言われ挨拶を終えて出た。



「なんだかこっちが説教された気分になったよ」

「私は、・・・最後のは負け惜しみに聞こえました」

「アハハハハ・・・、私もそう思っていたところだ」


それからしばらくして査察が終わった。

最後に第二王子より、言葉を賜るために屋敷の皆が集められた。

「今まで時間を取らせたね。今日で査察はお終いだ。明日我々は帰る。その前に皆に一言お礼をと思ってね、一か月もお世話になったからさ。冬に予定のない歓待と負担をかけてすまなかったね。お陰で、スムーズに終えることができたよ。助かった、ありがとう。決定は陛下から下されるけれど、私は問題ないと思ったよ。だから安心して職務に邁進してほしい。これからもニーデル王国の為に尽くしてくれ。よろしく頼む」

爽やかに笑顔を振りまき、帰っていった。


そしてそれからすぐにお父様に登城の許可が下りた。

叙爵の為来いという事だ。


父が支度し、馬車に乗り込もうとしている時にそれはやってきた。


あれは親戚筋で騎士団の隊長を務める人たちで、年齢はお爺様とほぼ同じかちょっと下くらいの人たちだった。

その一団が馬に乗ってきてすれ違う。

「これから出立か、気を付けて行ってきてくれ。我らはもう仕事を終えて来た。安心せい」

「流石です。フェルマー団長」

そう言葉を交わして、通り過ぎて行った。


見送りに出ていた私たちは何のことか分からなかったが、父が「バースの見送りと、不和を持ち込んだ奴らを成敗してくれたのだよ」と優しく教えてくれた。


頭に疑問を浮かべているのが分かったのか、母が「あの商会を潰してくださったのよ」と言い換えた。

「我が家、お爺様に恥をかかせたのだ、徹底的にやっておかなければ、駄目だ。ある意味見せしめであり、周囲への注意喚起でもある。必要最低限の慎みを学ばせてあげただけさ」

そう優しくお父様が教えてくれたが、飲み込むには時間をかけたい。


「おそらく、団長は、・・・・これは後で分かるだろうから、いいか。取り敢えず、皆これから忙しいだろうが、後は頼む」

そう言い残して旅立った。


言いかけた言葉が分かるのは次の日だった。

すれ違ったあの隊長たちは全員自決した。


アントニオは「武士かよ」と小声で漏らし、私も頷いた。


切腹は日本にしかなかった。

外国では宗教的に自害を禁止しているところが多いからかもしれないが、それ以上に日本人は恥の文化というものを大切にしていた。


『恥の文化』そのものがここでも行われている。

恥や誇り、忠義、信というものが、絶対の位置づけであり、法律や生命よりも大切にする考えは昔の日本の特徴だと聞いたことがある。


地図で見ても陸地が続く大陸の一部にあるわけで、日本的な風土では無い。

主食もパンだし、味噌もしょうゆもない。

異世界だと思っているが、文化が似ている。

人が作るものは似てくるのか?


日本的に見れば隊長たちの行動は、「法律よりも大切なことがある」「己の誠を見せる」といった考えなのではないかと思う。他にもバース叔父様を止められなかった自分たちを恥じたり、償いをしたいという思いもあるのかもしれないが。

生命の価値がどういうモノか、現代から見た価値観と、ここでの価値観の違いを目の当たりにして、驚きはあったが、納得のいく生き方だと受け入れることはできた。



ここでの葬儀の在り方を初めて見た。

本来は土葬で埋葬することがほとんどらしいが、今回騎士や罪を犯した者は穢れた体を持っているとされ、清めて葬る為に火葬にされる。

火に焼かれるうちに穢れが清められ、新たに上昇し変容するという意味らしい。

その後埋葬である。


ここでも土は還元とか豊穣の意味がある。

だから灰となったり残ったものを土に埋めるのだ。


あと水と風があり、この四元素が世界を形作り、光と闇という属性が合わさり、世界ができていると考えられている。


お墓は街の中央の大きな岩である。

そこは広場になっていて、その下付近の盛り上がったところに軽く穴を掘り土を運んできて被せる。


亡くなった人を個別に埋めるという事はしないらしい。

一応大きな柱の中心に近ければ貴族が埋められるものだと決められているらしいが、感覚であり、区画があるわけではない。

僧侶のような職はないが、花を添え、手を合わせて別れを告げるのは一緒だった。




本を読んでこの世界を見ている気になったが、街に出てみて初めてこの世界の文明を感じた。

中世西洋っぽいが、文化は江戸時代に近いように思えた。



戦国から江戸時代の武士に近いのが、騎士なのだと思う。

騎士団長のあの生き方はここにいる人は皆、理解している。


街は城郭で囲まれていないので開放的だった。

一応柵らしいものは見えるが、人の出入りは全ての住人同士の連絡網が機能している証だろうか。

昔の日本もこういう感じが多かったのだろうかと思いを馳せて街を見ているとアントニオが傍に来た。


「ステファンは初めて見るのかな。人が少ないし、表情見るとどこか割り切っている感じが多いと思わないか。

おそらくこの世界はそこまで長く生きることは出来ないのだろうと思う。

実際お爺様が長生きな部類だ。

昔の私の半分くらいが、ここの平均寿命じゃないかな。

それでも生き生きした人が多いと思わないか?

皆真剣に生きているからだと思うんだ。


この間サロンで話が合ったカルダーラ様覚えているかい?

あの方が言っていたように、己の使命にまい進しているのだろうな」

「・・・」

「私は今まで『ことなかれ主義』で生きていたんだ。

誰とも競わない、争わない、穏やかに終わらせる。

それが、一番正しく、逆に何かに固執するような考えが戦争を生み、世の中をダメにするのだと思い込んでいた」

俯き、暗い表情が、顔を上げ空を見上げた。

「でもこの人生では、それはやめにしようと思うんだ。

騎士団長のように信念の為に命を賭して、責任を取って人生を終わらせる生き方、そういう生き方は悪ではないと気づいた。

自分だけ高いところから眺めている気になっていたのが恥ずかしいよ。

ただ同じ土俵にすら立てていないだけだったんだから。

これからは自分のやるべきことをただ真剣にやろうと思うよ」

なんだか吹っ切れた顔で笑った。



ステファンは取り敢えず、親指を立ててどや顔を返した。






最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

大変うれしく思います。

読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。


これで一部完です。

二部はちょっとペースが落ちると思いますが、楽しんでいただけるようにしたいと思っております。

どうぞよろしくお願いします。


もしよろしければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。

それではまた。

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