1.8
領主となったお父様は経緯を含め報告に上がらなければならない。
領主となったと言ったが、これはまだ正式着任という訳ではない。国王に叙任していただいて初めてなるものだから。細かく言えば、今は領主代理である。
事情が事情なだけに、名代を立てるにしても家臣よりは親族の方が良いという判断で、父の妹のセレス叔母様夫妻に行ってもらうことになった。
話を詳しく聞くと、バース叔父さんの管理している土地をどうやら売りに出したようだ。
それはお爺様のお父様つまり先々代の時に、帝国からある程度の金を渡して領地にしたらしいのだが、それを叔父様は安く買って高く売り抜けるようなことができるのであれば、国にも領にもいいことだと思って、やったらしい。
先日のお爺様の話からすると何を馬鹿なといえる根本的な話であるが、それが抜けてしまったのだという。
実際土地を持ち逃げすることは出来ないのはそうだが、この領地の役割を考えると、飛び地のように王国でない部分ができるのは良い訳がない。
そこで、更に大金を使って買い戻す羽目になり、お爺様が剣を持って廊下で脅していたあの商人に払った手数料分、赤字が出ることになったらしい。
金額の問題ではないにしても、痛い。そして住民に説明や信頼回復やら様々な手段をこれから講じる必要がある。
何にせよ、手間がかかりそうな案件だけに、誰もが手を付けたいとは思わないだろう。
つまりお父様がかかりきりになるのではないかと予想する。
その他にも、お父様はこれからの役割のことも含め家臣団と折衝を重ねる必要がある。
問題はこのことだけではない、そもそもいきなり世代交代が起こったのだ。色々な関係各所に様々な通達が必要であるのはいつでも一緒だろう。
皆が忙しい毎日を送る中、レオナルドはペイジと言われる主に仕える者としての心掛けを学ぶべく、王宮に行かなければならないらしい。何でも一年くらい住み込みで働くことになるとのこと。
これは貴族ならば誰でもやることらしく、7歳くらいからやるものもいるし、王宮に行くのは家格の関係上、家の家格よりは高いところに行かなければならないからである。
実際、王太子が即位する時にしっかり信頼されていなければならないから必須と言えよう。
まあ、家はそれを最低限はという形だけで済ませようと、今までそちらに行かせていないのだから、王宮勤めを目指した教育ではないという事が分かるだろう。
それを知ってか知らずか、レオナルドは今回張り切って気に入られようとしている。
もうすでに5年間も仕えている人もいるのだ。同じような信頼を勝ち取ることは無理だろうと思ったのだが、「俺の異世界生活はここからだ!」と私たちに宣言して行った。
レオナルドがなぜか意気揚々と出発したのと入れ違うように、王都からの使者がやってきた。
これは領主の引継ぎを認める為の事前調査という事だ。
今回は領地を売るという前代未聞の暴挙をしようとしていたのだ、ある意味反逆未遂である。
王様のものを勝手に売るとはスパイとかのレベルではない。『完全な攻撃』ととれるのだから。
それをお爺様が全ての責任を背負ってやめて、父に引き継いだ。
思想的な問題が無いのかどうかを確認する必要があって使者がやってきた。
この重大な任務を任された王都の使者として第2王子のテオドール様がやってきた。
年齢は17歳で、若いと感じるが、この世界ではもうほとんど一人前のとして扱われている。
どうやら平均寿命も短いし、60歳以上まで生きられる人は珍しい部類に入っていく。
だからそれ以上生きているというだけで、その人がどれだけ適切に生きているかが分かり、長老として敬意を集める存在になっているのが、元の世界との大きな違いだ。
またこの世界の物流は未成熟だと感じることが多い。
実際この世界で手紙を届けるという時、鳥を使う。鳩のように見えるが名前は違うのかもしれない。
しかも結構な数、今回の当主交代を知らせる鳥は5羽飛ばしていた。
道も平坦というところばかりではなく、しかも曲がりくねり、荷馬車の大きさによっては通れないところもあるようだ。だから物流がとてもゆっくりである。
今回は手紙を届けるような話ではなく、王子様一行でやってきたのだ。
実際、半月以上かかったらしい。
そんな長旅をさせられたならば、ゆっくりしたいだろう。
しかも冬。罰ゲームとしても質が悪いと思ってしまう。
だがこの王子は嫌な顔一つせずただ淡々と聞き取り調査や、契約書関係を調べ直し、くるくると動き回っている。メイドが言うには文句ひとつ言わないらしい。
食事を一緒にしたことがあったが、笑顔を崩さない。
ちょっと完璧に見えるその人格が恐ろしく感じた。
一族全員に聞き取り調査をするようで、私たち孫にも一人ひとり時間を設けて面接することになった。
レオナルドとエミリヤはペイジとして王城に行っいるが、ガトーとジンは数日に分けて特に念入りに何度もされる予定だ。
私の番になった。
面接するため応接間に通される。
扉には連れてきていた騎士が配置され、王子の隣にも一人立っている。
前世に聞くやってなくてもやってしまいましたと言質を引きす出す定石「飴と鞭」を感じさせる配置だ。
いつも通りの笑顔で、華やかな印象は変わらず、明るい声で話始めた。
「名前を聞いてもいいかな」
「ステファン・バーンベルクです」
「話の内容は聞いているかい?」
「詳しくは知りません」
「どう聞いたのかな」
「バース叔父様が土地を売却したと聞きました」
「ふむ。それを君は悪いことだと思ったの?」
「はい、土地は国のモノですから、私たちがやっていい事ではないです」
「ふーん、君、賢いな。じゃあ、クラウディオ前辺境伯が下した罰はどう思う」
「何もないです」
「何もない?」
「なにかあるだろ!」
いきなり後ろの騎士が怒鳴り上げた。
一瞬王子から目を離しそうになったが、変わらず、背筋を伸ばして王子に伝える。
「お爺様の言葉は絶対です。私はそれに従うだけです」
「そうか、では君は当主が死ねと言ったらどうする」
「喜んで死にます」
「・・・分かった。君にはまた話をききたいな。いいかな」
「必要であれば何度でも参ります」
「・・・では下がってくれ」
私は恭しく挨拶をして出た。
ドアが完全に閉められるのを見てから息を吐く。
「あの子も歳相応とは思えんな。落ち着いている。こういうことを想定して練習したのか?完璧だったな。それとも辺境伯で育つとそうなるのか?」
そうテオドールは仲のいい近衛騎士のリチャードに話を振る。
「ええ、特にこのステファンという子と兄のアントニオは大分大人びて感じました。なんというか雰囲気が子供のそれとは違い、異質です」
「それだけ何か裏にあるのかな。あんまり考えたくないけど、ここに反旗を翻されたら王国は終わるぞ。・・・・それとも単に特別な教育でもしているのか」
「あれは教育で出来るようなものではないと思いますが、もっと何か重みがあるというか」
「どちらにしろ、この家の跡継ぎは問題なさそうだ」
「いえ、ここの長男にレオナルドというものがおります」
「そいつも頭の切れるものだと聞いたが」
「騎士の話では悪い感じではないようですが、どうも訓練は何かと言って出てこないことがあるようだと聞きました」
「でも、今、城にペイジとして行っているのだろ。デオンとボリスが勝手を許さないだろうから、今までのサボりは遅かれ早かれ叩き直されるだろうよ」
「ボリス様は確かに・・・」
「お前もボリスに叩かれた口か」
「いえ、私は手厚く教えを受けただけで、本当に何もありません」
「まあ、あれも王国を思ってのことだしな」
「そうですね」
「やっぱりどっちにしろ跡継ぎ問題はないじゃないか」
「もう、それは聞く者が聞けば、揚げ足取られますから、おやめください」
「ふふ、だから今言ったのだ」
「はぁ」
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