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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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セイリーフの行く道

先日夫のバースが珍しくご機嫌になって帰ってきた。


「セイリーフ!やった!父上に褒められたんだ!」

「あら、良かったじゃない。何があったの?」

「先日までやっていた道路整備で、街のみんなに手伝ってもらっただろ。ああやって、家から仕事を紹介して、住みやすく皆の為になることをやったのが思いのほか、喜んでもらえたみたいなんだ」

今任されているニューランドという地域は、先代の時に帝国から譲り受け、それから何年も経ってはいるが、どうにも収穫量が少なく、皆もまだ貧しく生活している人が多い地域だ。


それでも王国の物流のお陰で、食料は何とかなっているのだが、どうも仕事のやる気を失った人が多いように感じていた。

だから区画整理をするついでに道路を整備して少しでも過ごしやすく、また仕事を出来る人がやる気を出せるようにとこちらから募集をしたのだ。


それには皆よく働いてくれた。

正直街の皆を見ると、やさぐれている人が多くいたので無駄なのではと思っていたのだが、少し希望が見えたように思えた。

収穫高が目に見えて伸びていないのが原因だと思うが、実は少しずつではあるが着実に伸びている。

ただおそらく前年比としてしか見ていない住人達にはその実感がどうにも薄いようで、中には土が悪いから、水はけが悪いからと文句を言って粗雑に扱う人も多いのがこの地域の一番の問題だと思っている。


私は他領から来たからあまり詳しくないが、この地域の農業はまだ始まったばかりらしい。

何百年と土地を受け継ぐことが多い王国の土地から見ると致し方ないと言わざるを得ない。


だが、やる者のバロメータは常に記憶だけに依存する。

識字率はそこまで高くない。だからどうしても焼け石に水だと思っているのだろう。

バースが一生懸命村人を説得する姿を何度も見ている。

あの人があれだけ熱意を籠めて言葉を重ねても、どうにも響かないのは元帝国民だからだろうか?


そしてまたしばらくしたある日、バースにちょっと考え事を相談された。


「セイリーフ、ここの税収を大きく増やせたらいい事だよな」

「そうね、管理を任されているのだから、それが実績といえると思うわ」

父がやっている隣のプラト領では地域ごとで税収を比べて今年の優秀者を決めていた。

「そうか、でもな・・・」

何事か考えているが、あまり私が意見を挙げるのは良くないと思っていた。

それは夫の領分に首を突っ込むことで、悩ますだけになる可能性もあるからだ。

聞かれたことだけに答えることにした方がお互いの為だと思っていた。


まあ、あんなことになると分かっていたら、話は別だが。


またある日、珍しく激しく酔っ払って帰ってきたことがあった。

その日は商会と打ち合わせと聞いていた。


そして月日が流れ、年に一度の本家で行われる報告会に向かった。

この家は私が侍女一人とメイドが二人で回しているのでそこまで準備は大変ではない。

そしていつものように子供たちも連れて4人で向かった。

普段あまり外に出ないので気づかなかったが、様々なところまで新しくなっていると思った。


そしてあの日事が明るみになった。


私は最初なぜバースがそんなことをしたのか分からなかった。

だって、土地は国王のものだと誰もが知っていることだ。

私たちは借りている。だから税収を一部国王に献上するのだ。


その土地を売りに出す?


理解できない。


でもなぜかそれが良いと思ったと言っていた。

絶対におかしいとしか言えない。何かが狂ったように思えた。


でもそんなことを追求するよりも、今後のことを考えねばならなかった。

子供もいる。

あの子たちを育てるのは私の最も重要な使命だと思っているからだ。


そして最終日、お義父様のあの発表の前に、「今夜少し時間をくれ」と言われた。


しかし、締めの挨拶でのあの発表で私は目の前が谷底に変わった。


夫が追放処分⁉


どうしようもない位はっきりと皆の前で宣言されてしまった。

もう私は夫人の集まりは愚かすべての社交には出られない。

そして、子供の将来はどうなるのか。


様々な思考が巡る中、大粒の涙だけが流れていた。


少し落ち着いた時には、いつの間にかお義母様が横にいることに気づいた。


「あの人から聞いたと思うけれど、今晩あなた達の部屋に行かせて頂戴。今後の話をするから」

そういわれ、少しだけ心に兆しが見えた気がした。


そして家族会議を経た後、お義父様たちが私の部屋に来た。

もう夫は旅立っていたが、子供たちも部屋にいる。


ノックをして入ってきてソファーに座る前にお義父様が勢いよく頭を下げ「すまん!」と言い放った。

向かいのソファーに子供たちと並んでいる私たちはどうしていいか分からなくなった。

「バースはああするしか無かったんだ。ここで少しでも恩情をかければ、必ず我らの秩序が崩れる。子供でも分かる話を飛び越えてしまっている。これが軽い罰で済むのであれば、何が重い罪なのか、これから裁けなくなる。無論そんなことが罷り通っては我ら貴族は愚か王国の存亡の危機になる。だからああしたのだ。だが、セイリーフやガトー、ジンのことまで罰を与える形になってしまった。それは本当に申し訳なく思っている」


自分のことまで気にかけてくれているのは分かり、少しうれしいが、まだ今後のことが見えてこない真っ暗闇の中にいることに変わりはなかった。

それを引き継いだのがお義母様だった。

「私からも謝罪させて。バースの母なのだから。セイリーフ本当にごめんなさい」

お義母様が私の眼を見て謝る光景にまた涙がこぼれだす。

「これから不安でしょう。・・・でもね、私は絶対にあなたを不幸にはしたくはないの。・・・・だからあなたを私たちの養子に迎えたらどうかって思っているのだけれど、どうかしら」

優しく思いやりのあるお義母様の声が、私の心をふんわりと包み込んでくれた。

頬に温かなモノが流れていく。

子供の前でこんなに泣いたことは無かった。

お義母様の肩に顔を付けて憚らずに泣いてしまった。


「あなた達も少し窮屈な思いをするかもしれませんが、それでも大丈夫だから安心しなさい」

子供のことまでお義母様は分かってくれているのが嬉しかった。

子供も精神的に不安定だったのだろう。

お義母様に抱き着き泣いている。

「うむ、ガトー、ジンは辺境伯のペイジとして暮らせばいい。そうすればいつでも会える。セイリーフは辺境伯の子として、エルサの仕事を手伝えばいい。新しく女主人となったばかりで大変だろうからな」

「それでは駄目です、エルサも仕事ができるようにならないではないですか」

「ん?そうか。じゃあ。バースのやっていた仕事をそのまま引き継ぐか?」

「それも酷ですよ」

「じゃあどうする」

「そうですね・・・あなたは何がやりたい?」


まさか自分に決定権があるとは思っていなかった。

だから、質問されてなんと答えればいいかなんて無かった。

今まで今後どう生活するかと子供の将来はどうなるのかしか頭に無かったから。

「すぐには・・・」

「そうね。今すぐ決めなくても大丈夫だから、これから一緒に決めましょう」

「蟄居しているが、夜中にこっそりやれば大丈夫だ」

と悪戯心がのぞいたいつもの頼りがいあるご当主様を見て大分安心ができた。


まだ決まっていないことがあっても、この方たちと一緒ならば、いえ、ひとりではないと分かれば、そこまで不安は無いと思えた。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

大変うれしく思います。

読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。


もしよろしければ、評価やブックマークをつけていただけると大変ありがたいです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

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