第553代 クラウディオ ②
あれは私が21だったと思う。
国境線の役割を果たしている河川が氾濫したのだ。
何日も長雨が続き、その影響で河川が増水、ある意味必然の結果である。
我が領地を丸く包むように河川が曲がっていることもあり、向こうの領地だけ被害が出てしまった。
それからしばらくの後、案の定、民は武器らしい武器も持たず、こちらに攻めてきた。
ある程度警戒していた父を含めた我らが精鋭が、あっという間に制圧して、向こうと交渉したのだが、話し合いに応じる気もなかったのか、帝国は好きにしろと言ってきたのだ。
私は彼らが見捨てられたのがあまりに惨く見えた。
領を治める者としてあまりに不誠実に映った。
民は宝だ。
それを放り出すなど、あってはならんと思った。
だから氾濫して被害のある一帯を我が領地にすることを提案したのだ。
元々10年に一度くらいは氾濫する河川だ。これを機に支流を何本か作り大規模土木工事をして曲がるところを緩やかにする計画を提案したのだ。
向こうは使い物にならない領地だと思っているので、問題なく切り取ることを了承した。
ただ向こうの体面を整える為に、金を送ってやった。それなりの量だし、文句はなかった。
国王にも相談の上だし、国同士の話し合いも持たれ、万事うまく解決させた。
そうやって整えた上で数年も歳月を予定した溜池や用水路も含めた治水工事を開始したのだ。
今考えると私の人生の一番大きなものであろう。
父の代で完成したから手柄は父なのかもしれんが、あれはほとんどわしが駆けずり回って成したのだ。
父はこの時、国王から何とかという勲章を授与されていたな。
わしだって戦争に出て国王から勲章をもらっている。まあどうでもいいが。
今まで精霊の手助けが及んでいないのか、洪水の後だというのに、大して地面は緩んでいなかった。
様々な手立てを講じながら6年の歳月をかけて完成させた。
そのときには多くの人が自然と涙していた。
あの水を通した時の人の顔は今でも忘れられん。
苦しかった日々があの瞬間で報われたのだ。
だが時が経つとその感動も当たり前になる。
あの感動を覚えている者が少なくなればなるほど、あの川が、水路が在って当たり前になる。
そして当たり前を通り越し、不満を持つようにもなる。
これから書くことは、現時点の話でだ。
わしが妻との間に二人の息子と一人の娘を授かった。
三人共に立派に成長してくれた。どこに出しても恥ずかしくないほどだと思って居った。
ただ次男のバースに任せていたこの水路を整えた新しい地域では、だんだんと不満をあらわにする者が増えてきた。
確かに元帝国の人民が多く、根底のところで分かり合えていないと言う問題もあろう。
もしかしたら、種族として何か根本が違うのかもしれん。
だが、それを治めるのが領主というモノであり、バースにはその毛色の違う部分を任せ過ぎたのが原因だったのかもしれない。
バースが帝国の考え方に毒されていったのに気づけなかった。
最近言動を見るに少し横暴に見えることがあった。
だが、人は誰でも、ついつい言い過ぎることもあれば、やり過ぎることもある。
周りが注意したり、促せば、戻れると思って居った。
しかし、今回バースの任せた地域を区画整理し、その土地を売り出しを行った。
元は金を渡して手に入れたのだから、それを売り出すことは悪くないという考えでやったらしい。
しかもそこに住んでいた人間を無理やり立ち退かせたことも分かった。
あいつはそこまでするやつではなかった。
調べると帝国の商会が入れ知恵をしていたことが分かった。
金を得て、お前は何がしたいのかと問うと、その方が良いと思ったとしか言わなかった。
家族や家にお金を渡すことが良いという事だ。
そんなものを貰って何になる。
民の心が離れたり、臣下の心が離れたり、ましてや精霊や神々から見放される方が恐ろしいだろうに。
あいつはそれを金で買えると思ったのだろうか。
理解ができないのはわしの勉強不足なのかもしれない。
ただわしのいっていることを少なくとも理解したうえで、それでもこっちの方が良いと言えないのであれば、ただの我儘を押し付けているのと変わらない。
なんでこんなことになったのだ。本当に。
帝国の商人とも話をしたが、あれも金があれば何とでもなるというような口ぶりだった。
それが帝国のやり方というならば、今まで帝国と言わず、我が国以外が手を変え品を変えやってきたようにそのうちまた変わるのだろうと思えた。
今は帝国だが元は様々な国が合わさっているのが向こうの歴史だ。
詳しくは忘れたが、200年くらい前にできたと思う。
ただ我が国もバースのようにあの思想に毒されるのであれば、同じ轍を踏むことになる。
必ず引き締めなければならん。
そしてそれは我が国の玄関口ともいえる我が領で、食い止める必要がある。
ただ気になるのは陸続きでいえばバーンベルク領が玄関だがもう一か所大きな港町がある領がある。
しかし、今までの歴史を見たらどちらの方に理があるかは分かるだろうに。
目先の利益というのはバースのように人を変える魅力があるのだろう。
それを肝に銘じて子孫たちには未来をつないでもらいたい。
私が愛したこの地を、この世界を、もう誰も穢してほしくはないのだ。
私ができなくともこの地の英霊は永遠に守り続けてくれると信じている。
思い起こすのは平和だった日常ではなく、苦しかった思い出のようだ。
これを書いてみてつくづく思う。
苦しい思い出を必ず栄光の歴史に変えてほしい。
自分にできないことを悔しく思う。あとは頼んだ。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
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