第553代 クラウディオ
今回はお爺様の自叙伝です。
楽しんでいただけると幸いです。
バーンベルク領、第553代領主クラウディオ・バーンベルク
28の時に父が亡くなり、領主を引き継いだ。
父の亡くなり方は本当に素晴らしかった。
1ヵ月くらい前に嫁に出した姉や妹、それから家臣に手紙を書き、死に目に会いたければ1ヵ月後に来いと伝えていたのだ。
そして丁度姉たちや良く使えてくれていた家臣もこっちに到着した後、徐に庭の椅子に腰かけ、そのまま旅立ったのだ。あの時の、夕日を眺めている姿から突然倒れた衝撃と共に今でもすぐに思い出せる。
執事のジョルジュ曰く、「旦那様はここから見える景色が殊の外お好きで、考え事などする時はいつもここでした」という事だ。
自分の死に場所がお気に入りの場所というのは何とも理想的だと思った。
私はあの亡くなり方を見て、自分の最後もあのようにきれいさっぱりした状態にできればと思わずにはいられなかった。
それから25年、いつの間にか父の年齢を超えるところまで来ていた。
自分の最後はまだまだだろうと思っているのだが・・・。
なんとも情けないことをしてしまった。
父が亡くなった後も、次期領主として認めてくれていた家臣が多かったこともあり、順調だった。
早くから領主争いをしていると言われていた従妹たちが私に忠誠を誓ってくれたのは大きかったように思う。
まあ、自分でいうのもなんだが、ほとんど家臣は私についてくれていたのだから、否応なしともいえたのだが。
そういう意味では、わしは幼いころからちょっと周りとは違ていたように思う。
一番の違いは生まれだ。
わしは父の子供で唯一の男だった。
また違った能力が備わっていた。
これは生んでくれた母がそうしてくれたのか、ご先祖様がそうしてくれたのか知らんが、私には他の人には見えないモノが見えていた。
それに気づいたのは、かなり後のことだったが。
あれは13歳になりペイジとして国王、王妃の傍に仕えた1年弱の期間のことだ。
偶々知らない女性が通りかかり、その人に挨拶をしたのだが、わしの他は誰も挨拶せなんだ。
どうした?と思い聞いててみると、誰もいないと答えられた。
そんなはずはないと言ってみるが、幽霊話に聞こえたのか、誰も取り合ってくれなかった。
その人は確かにいたのだが、いつの間にかいなくなっていた。
そんなことが2、3回あってペイジ仲間の皆がわしをからかい出した時に王妃が「それは精霊ですよ」と仰ったのだ。
精霊は性別はなく、食事もしないらしい。
だから王城の居住区をうろついていても気にしなくていいらしい。
そもそも見えない者がほとんどだから気にしようがないという話だった。
精霊は王城で何かする訳もなくいつも見守っているというのは、おとぎ話としてはよく言われているらしい。
あんまり書物の類を読んでこなかったわしは己の無知を恥じた。
どうやら精霊眼と言われる眼を持つ者だけが見えるとか。
そして父もそうであり、貴族では精霊を感知できる能力を持つ者がしばしば生まれるそうだ。
小難しいことはどうでもよい。
「見えるなら見えるでいいし、見えないければ仕方なかろうが」と切り捨てるわしにはどうでもよかった。
だがこのアドバンテージがわしの次期当主としてかなり強力なカードになっていたようだ。
周りの者が特別視したのだ。
持っている者よりも持たざる者はどうにも特別扱いしたがるように思う。
見えているモノがちょっと違うだけで、別にそれによって得をするとかは無かったのだ。
ただその後、この目に感謝することは確かにあった。
正直気づいたのはそれこそスクワイアに上がって、何戦かこなした後だ。
スクワイアに上がる時に領に戻って、バーンベルク領で研鑽を積んでいた者たちと共に実践に参加することになった。
今でも偶にあるのだが、国境になっている川を越えて帝国の奴らがこっちで悪さをする。
村の襲撃で家畜を奪ったり、犠牲者を出すこともある。
大体が十数人での小規模な構成で食料を奪いに来るのだ。
この知らせを聞いた時に動くことが多いのだが、父はこれを予期し、教えてくれた。
それが精霊眼の使い方だと言われたときに初めて素晴らしい宝を授かったのだと気づいたのだ。
そしてわしも敵の追跡に精霊と思しき人が道を教えてくれて何度か早期解決に導けた。
こう聞くと特別だと思うが、実はなこれはもうほとんど役に立っていないのだ。
というよりも実戦経験を積めば、感覚が研ぎ澄まされて、敵が領に侵入したなどすぐにわかるようになる。
何ならわしの感覚は一日前にはそろそろ来るかもしれんと分かるのだから。
だからこれを読んでいる者には、ないことを嘆くよりも、できることをひたすらに続けてほしいと思うのだ。
帝国の奴らは手を出す頻度がどんどん減ってきた。今では極偶にになっている。
手を出しても成果が無いならば、そうなるのは必然ともいえる。
おそらくあっちで天災や災害級の事態があった時に、背に腹変えられず、襲ってくるのだろう。
皆ギリギリの状態の者が多く、不憫に思った。
しかし手を緩めることだけはできない。
それは反逆になるとか忠義の問題もあるが、あの眼を見たら誰でも感じるだろう。
向こうは必死の状態で、それこそ決死の覚悟だ。
こちらは緩めることなどできようはずがなかった。
いくら特殊な眼を持っていようが、あの必死の形相の眼には敵わないと感じる。
それこそ全てを投げ出し己を賭した眼には生の激しい閃光を感じ、特別なモノが宿っていると畏れ慄く。
人の命の輝きを戦場ではいつも感じ、何が本物かと、本気の問いを投げかけられた。
だから生きている人間は全員特別なモノを持って居おる。
その特別なモノは普段は分かりにくいだけなのだ。
自分は特別でないと腐るものは見ていて歯痒く思う。
そんな命を賭した経験が何度も続けば、誰でも一人前になる。
父から騎士叙任を提案された時、迷わずバーンベルク領で執り行うことを決めた。
これは国王への敬意が無いわけではない。
ただこの地で最後まで戦い抜かねばならんという決意を皆に示したかったからだ。
わしは18で騎士叙任の栄誉を与えられた。
普通よりはかなり早いが、それだけこの地は戦場が近かったというだけである。
ただその後剣をペンに持ち替える必要がでる。
少しは事務仕事もせねばならんのだ。今もそうだがどうも苦手だ。
やらない訳ではないが、気が滅入る。
ただ色々駆けずり回っていたおかげで、顔は広く、その土地の長老ともそれほどもめたことは無い。
そもそも皆代々うちの領に忠誠を誓ってくれている。
また精霊の助けや神々のご加護も多い地域だ。皆信心深く伝統を大切にしている。
そこまで苦しい生活ではないことも大きかったのだろう。
あの隣国の襲撃者を思えば、皆温和な姿で暮らしている。
贅沢ができる訳ではないが、それでも腹をすかせた子が物乞いしていることはほとんどなかった。
そしてまた天災が帝国を襲った。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
大変うれしく思います。
読者の皆様が幸多からんことをお祈り申し上げます。
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どうぞよろしくお願い申し上げます。




