210話 氷晶
―― CRISTALICE ――
沈んだ先に、誰かがいた。
前にも味わったことのあるような、不思議な感覚。
忘れ去られた記憶の彼方――
そこには、ときに残酷なほど鮮明に、考えもしなかった父と母の存在意義が映し出される。
「存在証明」という言葉がある。
だがそれは本来、自身に用いるべきものであり、他人に当てはめることはどこか憚られる。
視界の先。
玉座の、ちょうど肩のあたりだろうか。
二つの手が見えた。
それは、氷のように固まり、動かない。
生命や森羅万象といった垣根すら越えて存在しているようで、ユニムはそれを、人智を超えた“何か”だと判断するしかなかった。
見えているのに――触れられない。
身体は、ぴたりとも動かない。
時間が止まったかのように、氷になったかのように、微動だにしない。
恐怖はなかった。
ただ、その“何か”について考えようとするたび、思考が遮断される。
思考停止とは違う。
心の奥底、意識の海に沈んでいくユニムには、確かな思考力がある。
それでもなお、その二つの手だけは、自身の知識では説明できなかった。
――存在証明ができない事象。
神は、いるのだろうか。
その二つの手は、「いる」と言わんばかりに、ユニムの心の玉座から離れようとはしない。
影の正体なのか。
黒――不吉。不幸の兆し。
赤――危険。鮮血。
どこからともなく、怒鳴り声が響いた。
何が起きたのか。
気づけばユニムは、ハヤタカの首を空中で絞め上げていた。
ハヤタカは魔法が一切使えないらしく、状況を把握できていない。
ユニムの髪は、ゆっくりと青へと戻っていく。
『君はいつ来るの? まあ、返事はないんだろうな』
「へ、返事をしろ……」
喉を切り裂かれたような、掠れた声がユニムに届く。
――ああ。
最も驚いていたのは、ユニム自身だった。
突如として、隻翼が出現する。
さらに反対側の肩甲骨から、それを補うかのように氷の翼が広がった。
だがユニムは、別人格にでもなったかのように、完全に意識を失っており、何の反応も示さない。
ハヤタカは何度も呼びかけた。
試験の中止も叫んだ。
それでもユニムは異様な挙動を見せ続ける。
危険を察したハヤタカは、全力の炎で牽制した。
しかし、ユニムが一歩踏み込んだだけで、周囲は一瞬にして白銀へと変貌する――まるで南極のように。
咄嗟に足へ炎を集中させ、ハヤタカは飛び立つ。
だが、ユニムに足を掴まれた。
――その瞬間。
魔法が使えなくなった。
落下するかと思われたが、ユニムは何らかの力でハヤタカを空中に拘束する。
このとき、ユニムは直接触れてはいなかったという。
その瞳は禍々しく、赤黒く輝いていた。
天使でも魔獣でもない、“何か”。
ハヤタカは思わず「似ている」と呟く。
すると、ユニム――あるいはユニムではない何かが、低く言い放った。
「久しぶりだな。それ以上は口を慎め」
次の瞬間、喉が締め上げられた。
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今回の件は事故として処理され、ユニムは一週間の謹慎処分となった。
だが教師を殺しかけた行為は重く、本来であれば退学、さらには天王子の資格剥奪もあり得たという。
その一週間。
ユニムは自室で、ただ啜り泣いていた。
あれは、自分の内に潜んでいたのか。
それとも、外から乗っ取られたのか。
正体のわからない“何か”に、ただ一人、怯え続ける。
震えは止まらず、東の海に伝わる漢方を、アルキメデスガール筆頭のアリスから処方された。
「残念だったね」
そう一言、告げられる。
もし試験で満点を取っていれば、ユニムは魔王シンを抜き、アリスと並ぶ首位――
天王子弐拾七人衆の頂点に立つはずだったからだ。
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一週間。
ユニムは自室で本を読み続けた。
その中で、「クリスタルアイス」という古い伝承に興味を抱く。
百年に一度生成される氷の結晶。
内部には炎を閉じ込めたかのように橙色の光を宿し、外側は水色から青へと輝く。
その中間には、黒や白が混在している。
それが炎と氷の凝固なのか、あるいは酸素や窒素、二酸化炭素といった物質によるものなのかは判然としない。
だが、そのクリスタルアイスを用いた権物を、かの氷帝が所持している――と記されていた。
それが、セレスト――通称ブルースカイのものなのかは定かではない。
やがて一週間が過ぎる。
預けていた電気石をティタインから受け取ったユニムは、
氷帝セレストへと電話をかけた。
こんばんは! VIKASHです!
さあ、いかがだったでしょうか。
バースが終わりましたね。
こんかいのバースでは、「Wildfire And Cristalice」ということで、「荒ぶる焔と氷晶」という正反対のものを描きたく、前半の5話で焔を中心に、6話以降で、だんだん凍っていくように、まるで氷のように氷晶に成り立っていくという構造になっています。
随所に伏線が散りばめられているため、読み返しても、これからの話を読んでも、繋がるように工夫を凝らしました。
enjoyしていただけると幸いです。
今回の話で、ユニムの心のうちに眠る静かな闇へのフックがありました。
何度も登場する謎の玉座、二つの異質な手。
これらが何かを仄めかしていることは間違いないでしょう。
私も100%これ、と決めているわけではないので、今後変化させたり、変えたりする予定はありそうですが、なるべく改稿はしないようにしたいですね。
これは、私の変なこだわりなんですが、改稿をしてしまうと、後付けしたんじゃないか。と、勘ぐられてしまうので、やはり、最初から決めていた設定で、文章でつづけていきたいので、なるべく改稿はしないようにしています。
前の話で登場した言葉、氷帝も……まあ、一応、私の作品の中では、氷帝のセレストといえば、ブルースカイとなっているわけで、それはお察しだと思うのですが、ユニムが孫であるという設定が、魔法学校篇で描かれているわけなんですが、実は、もっとあとで種明かしする予定でしたね。
この150話辺りからは、完全にネタ切れで、つづきが書けない。というスランプに陥っていて、おそらく相当期間が空いているはずなんですね。
ですので、3話で構想していた氷帝のセレストの孫という設定を止むなく出さざるを得なくなったので、氷帝のセレストの孫という話が、この辺りで出てきていますね。
私は、少年ジャンプの漫画が大好きなので、新しいもので人気があるものには、もれなく目を通しているんですが、やはり王道は面白いですよね。
昨今で見られる師匠キャラクターや、強いキャラクターが実は親類だったという設定は、やはり多く取り入れられていて、私もとてもその設定を気に入っているので、もし祖父母が最初の超序盤で登場していたら……という、私の趣味前回の設定をかましております。
そのため、序盤を読み返していただけると、なぜか突如として、マダム・ウィッチ(ユニムのおばあちゃん)と氷帝のセレスト/賢者ブルースカイ(ユニムのおじいちゃん)が登場してきますので、面白いと思っていただけると幸いです。
もし、よろしければ、考察や誤字脱字報告、感想などなど……お待ちしておりますゆえ、何卒よろしくお願い致します。
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どうぞよろしくお願いします。
さてさて、こんな感じでしょうか。
今日はこの辺にしておきますね。
ここまで、お読みいただきありがとうございます。
次回までどうぞよしなに!
◀次回のタイトル「零の兆し」




