206話 自分を信じること
―― The Flame Trial Begins ――
映し出される、二つのシルエット。
立ち塞がるのは、牙の意匠を胸に掲げた男。
その名は――牙王ライオネル。
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ゼルドは、足を一歩踏み出すのではなく、わずかに引いた。
人間の構造原理に基づく動作。
後退の一歩は、爆発的な推進力を生む。
体を押し出す。
それだけで、身体は自然と前へと滑り出す。
滑らかに、まるで水面をなぞるように。
ホバークラフトのごとく、足と床の接地面に空気を挟み、浮いているかのような挙動。
それは、かつての世界のリニアモーターカーを彷彿とさせた。
その動きに、牙王はにやりと笑う。
ゼルドの太刀筋が、牙王ライオネルに触れかかった――その瞬間。
一瞬の隙。
だが、それすら読まれていた。
ゼルドは、ガシャリとわずかに抜いた剣を、再び鞘へと戻す。
――「参ります」
その声と同時に。
ゼルド――ゼタ=エルド。
魔王シン――日下部シン。
そして、世界皇帝――牙王ライオネル。
三人による、二人のための「炎の節」の試験が、幕を開けた。
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牙王ライオネルは、何かを唱えていた。
ボソボソと、低く呟く。
呪文か。
それとも、呪いか。
その声は、魔王シンには届かない。
一方で、ゼタ=エルドは恐れ慄き、腰が固まる。
その異様な光景を、魔王シンは静かに見据えていた。
どうすれば、この化け物じみた世界皇帝から、合格をもぎ取れるのか。
思考は、ただそれだけに支配される。
打破するか。
奇襲をかけるか。
禁じ手を使うか。
思考は迷路のように入り組み、
靴紐のように絡まり合い、解けない。
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――「自分を信じること」
底知れぬ男、牙王ライオネルが、ただ一言呟いた。
奇妙なことに、その言葉は魔王シンの内心と一致していた。
「炎纏」
炎の節の試験において、氷・自然・雷の使用は邪とされる。
許されるのは、炎のみ。
炎をもって、炎を制する。
ゼルドの視線が、魔王シンへと移る。
二対一。
単純な構図だった。
どちらかが隙を突けば、いかに世界皇帝といえど、二人を同時に相手取ることはできない。
ましてや、牙王は丸腰。
武器を持たぬ以上、ただの魔獣と大差はない――はずだった。
ゼルドが再び剣に手をかけた、その時。
シンが制止する。
『やめておけ』
「問答無用」
理解が追いつかない。
何が起きているのか。
必死に思考を巡らせる。
だが、ゼルドの思考は、そこで停止した。
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『……喋れるか。わかった、俺がやる』
純粋な炎の衝突。
激しく。
速く。
そして、熱く。
もしこの場に、炎の魔導士ハヤタカがいれば、
「見ものだな」と葡萄酒を注いだだろう。
魔王シンは、見逃さなかった。
牙王ライオネルの手に、黒い渦が一瞬だけ揺らいだ。
――まさか、黒炎か。
いや、違う。
あれは――。
こんばんは! VIKASHです!
お楽しみいただいてますでしょうか。
今回は、牙王ライオネルと魔王シン、ゼルドに焦点を当てた回となっております。
最後にちらっと出てきた黒い渦……さあ、なんでしょう?
次回で知ることができます。
本日は手短にしておきます。
ここまで読んでいただいている方、
ブックマークされている方、
評価をしてくださった方、
誠にありがとうございます。
VIKASH一同頑張って参ります!!
まあ、一人なんですけどね。笑
次回までお楽しみに!
次回の更新は明日です!
◀次回タイトル「見えざる剣」




