201話 天使の鼓動
―― Seraphic Pulse ――
「ハヤタカ、強いんじゃなかったのか」
「まあ、その……なんだ。相性が悪くてな。
わかるだろ?」
イェリエルは、そのまま静かに立ち去った。
だが――天使は一体だけではない。
ドク。
おや?
ドク、ドク。
感じる。
いや、感じていた。
ユニムは、その呼応を確かに感じ取っていた。
天からのものなのか。
それとも――自分の内側からなのか。
荒ぶる焔のような脈動が、確かに存在していた。
「ハヤタカ、これはなんだ」
ハヤタカは肩をすくめる。
「一段落ついたことだしな。炎の節の試験でもやろうかと思ったんだが……ユニム。お前、自分が何したかわかってるか?」
「イェリエルは、放棄したのだろう」
ユニムの言葉に、ハヤタカは小さく息をついた。
「イェリエルは良き理解者だ。
天使のなかでも、かなり理性がある方だ」
ユニムは知らなかった。
――自分の血に、天使の血脈が流れていることを。
ドク、ドク。
全身を巡る血の感覚が、いつもよりはっきりと意識される。
背中に、むず痒いような感覚が走った。
これは何なのだろう。
ユニムは、ひとり考える。
思い返せば――
あの“影”に見られていた時も、似たような感覚があった。
視線のような。
気配のような。
だが、天王子になってからというもの、
その影の存在は、跡形もなく消えていた。
影は魔獣だったのか。
それとも――天使に近い存在だったのか。
答えはわからない。
だが、この鼓動だけは確かだった。
自分の心臓が、確かに脈打っている。
ドクドク。
高鳴りが収まらない。
まるで、興奮が身体の奥で燃え続けているかのようだ。
ユニムはその感覚を胸の奥に押し込み、
ゼルドとシン、そしてセレストが戻ってくるのを待った。
近々開催されるアルティメカに向け、
彼女は一人、練習を続けていた。
ちょうど炎の節の時期でもある。
炎の魔術の訓練にも、余念はなかった。
天使とステラロイド――
別名バタリアン。
両者は全面戦争に突入するかと思われていた。
しかし、残されたのは奇妙な沈黙だった。
バタリアンを指揮していたセンチュリオンは、
戦乱を鎮めた者として名を上げている。
多くの者は、それをセンチュリオンの手柄だと考えていた。
だが実際には、
バタリアンと戦った下級天使たちを指揮していたのはイェリエルだった。
そして――
そのイェリエルを鎮めた者。
それが、ユニムだった。
結果として、功績はユニムに帰することになる。
ユニムの順位は、凄まじい勢いで駆け上がった。
ついには、天王子ランキング二位――
魔王シンと並ぶ位置にまで到達していた。
ちなみに、天王子ランキング一位の永遠のアリスは、
王や女王といった地位にまったく興味がない。
それでも彼女は、一位の座に居座り続けている。
何かを守っているのか。
あるいは――何かを待っているのか。
その真相を知る者はいない。
アルキメデス魔法学校は、
自立型巨大古代兵器――アルビオンへと変貌し、東へ向かって進んでいる。
その跡地となったウルメガルト湖には、
ぽっかりと巨大な穴が残されていた。
湖の近くには、急遽建設された仮設校舎が並ぶ。
そこには、アルティメカの練習場や試験場など、
さまざまな施設が設けられていた。
どうやらマダム・ウィッチは、
天使の血筋を引く者ではあるが、完全な天使ではないらしい。
天使とセレスティアル人の混血――
いわば混合種族だという。
そして実は、ユニムも同じ分類に属していた。
血は薄い。
だが、その力は確かに受け継がれている。
サンタンジェロで、
ゼルドに触れただけで宙に浮かせたあの現象。
あれが偶然であるはずがない――。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
今回の話では心音を表現するのが特に楽しかったです。心音には、安眠効果や、緩和作用もあるそうですよ。
実はこのシーン、最初は別の展開も考えていました。
投稿はしていないですが、ボツになった展開が5つほどあります。
次回はあの魔王が登場します。
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それでは次回もよろしくお願いします!
次回の更新は一週間後です!
お楽しみに!
◀「次回タイトル」―《二王邂逅》




