197話 異質な四人
―― The Xeno Quartet ――
白き水神ホワイトペッパーは、天使を鎮める者を選びあぐねていた。
それは単なる人選ではない。
この国の秩序と、未来そのものを左右する決断だった。
最初に名が挙がったのは、深淵のゼノン。
力だけを見れば申し分ない。深淵の権能は、あらゆる存在を沈め、封じる。
だが――
「鎮める」という行為に、その力はあまりに荒々しかった。
制圧と鎮静は違う。
その違いを理解しない選択は、必ず禍根を残す。
場所はインペリハーツに属するアルキメデス魔法学校。
神々の代理が集うには、あまりに人の気配が濃い場所だったが、それゆえに象徴的でもあった。
ホワイトペッパーは皿を爪で軽く掻き、音を立てる。
癖だった。思考が煮詰まったときに出る、無意識の所作。
「どうしたもんかな」
隣に立つ二人に視線を投げる。
「俺の推薦は、ゼルドとユニムなんだが……」
先に答えたのは暁だった。
背筋を伸ばし、古い誓約を守る者の眼をしている。
「叡勇にふさわしいのは、ユニム殿であろうな」
即答だった。
迷いがない。それが、かえって重い。
「オイラは、ゼルドを選ぶっすよ」
そう言ったのは黒塩――ブラックソルト。
軽い口調とは裏腹に、その視線は鋭く、御影石の床に落ちていた。
「同じ黒い色のよしみ、ってやつっす」
冗談めかしてはいるが、色を理由にする者ほど、本質を見ていることをホワイトペッパーは知っている。
白胡椒、暁、黒塩。
三者の意見は、すでに固まっていた。
もしユニムの夢――四権英雄への昇格が決まれば、旅が始まる。
まず向かうのは樹空界。
師と仰ぐ者たちに再会し、二人の叡勇が選ばれたことを報告する必要がある。
ゼルドは、どう思うだろうか。
ユニムは、この決定をどう受け止めるだろうか。
暁から話はしてある。
だが、仲間が誰になるのか――
その核心だけは、まだ伝えていない。
今回ばかりは、天王子ランキング一位のアリスには申し訳ない話だった。
三年もの間、不動の一位に君臨し続けた少女。
その実力に疑いはない。だが、彼女にはどうにも拭えない違和感がある。
天使に近しいのか。
それとも、異世界の存在なのか。
いずれにせよ、同じ枠に収めるべきではない。
鏡の魔法。
鏡の国。
彼女の行き着く先は、別の物語になるだろう。
いつか必ず、訪れなければならない国だ。
ホワイトペッパーは視線を遠くへ投げる。
このセレスティアルには、四つの果てがある。
賢者たちの手記によれば、それぞれに四皇獣が存在し、どこかにプラネットパズルが眠っている。
――四人では、足りない。
最初の四人を選ぶ必要がある。
勇ましき者たち。
新たな秩序を担う、四聖叡勇。
「決まりだな。この四人でいく」
暁が告げる。
それは宣言であり、裁定だった。
黒塩は御影石を見つめたまま、何も言わない。
その沈黙が、選択の重さを物語っている。
ホワイトペッパーは、したたかに笑った。
「おもしろくなってきた」
この国は、変わる。
もしかすると――ひっくり返る。
その兆しを孕んだ暗雲が、まだ誰にも気づかれぬまま、静かに動き始めていた。




