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「んじゃあ、何か。俺は殺されて埋葬されて。それを十五年越しに君が蘇らせたのか?」
「そういうこと」
「だが当然十五年も経てば身体は白骨化してるわけで。死者蘇生の魔法では肉体を再生することが出来なかった、と」
「そういうこと」
俺の質問に、目の前の子どもが淡々と答える。
普通、骸骨が動いて喋り始めたらもっと驚くと思うのだが。
……いや、この子どもも最初は驚いていた。しかし今では俺の前に座って普通に会話をしている。あまりにも順応が早すぎる。ネクロマンサーだから死体が動くことに慣れているのだろうか。
ああ、そうだ。これも確認をしておかないと。
「死者蘇生が出来るってことは、君はネクロマンサーの家系なんだよな?」
「そう。ネクロマンサーが一生に一度だけ使える特大魔法が、死者蘇生」
「……死者蘇生の魔法は実在したんだな」
眉唾ものだと思っていたのに。
しかし肉体が再生しないのでは、完全に蘇生させたとは言えない気がする。
「死者蘇生って、もっとこう、生前と同じ姿になるものじゃないのか?」
「普通は死んだばっかりの人に使う魔法だから、身体が骨になる前なんじゃない? 死んでから十五年も経った後に使う死者蘇生がどうなるかなんて知らなかったよ」
「昔に亡くなった親を生き返らせたい人だっているだろ」
「さあね。ネクロマンサーの友だちがいないからよく分かんない」
「……まあ他人がどうかはともかく、俺は死後十五年経ってから蘇ったわけか」
俺は自身の墓石をひと撫でした。年月は感じるものの十五年経っているにしては綺麗に保たれている気がする。
ここは森の中なのに。
集合墓地ではなく、森には俺の墓だけがポツンと立てられている。
「墓を作ってもらえるなんて思ってもみなかったよ。俺は身寄りが無かったから。これは誰が立てたんだ?」
「母さん」
「君の母親が? どうして俺の墓を?」
「母さんはあんたと同じパーティーだったから」
パーティーメンバーの中で墓を作ってくれそうなのは、俺を殺したあの三人ではない。きっと……。
「君の母親の名前を聞いてもいいか?」
「アメリア」
ああ、やっぱりか。
あの場にいなかったアメリアだけは、俺の死を悼んでくれたようだ。
その事実にだけは、救われた想いがした。
「君はアメリアの子どもなのか」
「そういうこと」
正直、アメリアが誰かと結婚をして子どもを作ったことに関しては思うところがある。本音を言うなら、俺がアメリアと結婚したかった。
しかし……俺は殺された。
それなら、俺のいない世界でアメリアが好きな相手を見つけて結婚をした事実は、喜ぶべきことなのかもしれない。きっと幸せに暮らしているだろうから。
とはいえ、アメリアの夫にものすごく嫉妬はする。俺がアメリアを幸せにしたかったから。
「アメリアは今どこにいるんだ?」
「死んだよ」
「死…………そうか」
十五年という年月は、短いものではなかったようだ。
アメリアが結婚をして子どもを産んで、そして亡くなっているなんて。アメリアは人生を駆け抜けたようだ。
だが、アメリアはかなりの早死に思える。
「事故か? 病気か? 冒険者は死と隣り合わせとはいえ、アメリアは実力があっただろ?」
「魔法の使い過ぎらしい」
「魔法の使い過ぎって……俺が死んだ後、アメリアはパーティー内で酷使されてたのか?」
子どもはすぐには答えず、俺のことをじっと見つめている。
……そうだった、相手は子どもなのだ。それも母親を亡くした子ども。
その子どもにこんなことを聞くのは酷だ。あまりにもデリカシーが無い。
俺は一旦この話をやめ、別の質問をすることにした。
「君の名前は?」
「ジェンナ」
「名前から考えて女の子……だよな?」
「見れば分かるでしょ」
申し訳ないが、見ても分からなかった。
まだ幼く痩せた身体は男女どちらにも見えるし、雑に切られた肩までの髪もどちらとも取れる。服も男女どちらが着ていてもおかしくないものを着用している。
「気を悪くしないでくれ、確認のために聞いただけだ。それでジェンナ、君はどうして俺を蘇らせたんだ?」
ジェンナの母であるアメリアはすでに亡くなっている。そしてジェンナは一生のうち一度だけ使用できる死者蘇生の魔法を持っていた。
この場合、普通はアメリアを生き返らせる選択をするのではないだろうか。
死者蘇生が、自然の摂理に反する魔法だと思って使用しないならまだ分かる。しかしジェンナはこうして他人である俺を蘇らせている。
はっきり言って、意味が分からない。
「ジェンナは、どうしてアメリアを生き返らせなかったんだ?」
「あんたを、メイナードを生き返らせることが、母さんの悲願だったから」
「メイナードさん、な?」
「母さんがいつも言ってた。メイナードなら復讐を果たしてくれる、あいつらを殺して母さんとメイナードの無念を晴らしてくれる、って。だから私はメイナードを生き返らせたの」
「メイナードさん、な?」
ジェンナが俺のことを呼び捨てにする件も気になるが、それよりも気になることは。
「あいつらって、パーティーメンバーのことだよな? 俺の復讐相手はあいつらしかいないんだから」
「そう。カルロス、エミリ、オーガスト。母さんはメイナードを殺したその三人を恨んでるって言ってた。それにその三人が国の平和を奪ったって」
「国の平和を奪うって何だよ。あいつら、そんな権力を握ったのか?」
ジェンナは自身の白い腕を伸ばした。あまりにも細くて今にも折れてしまいそうな腕を。
「私は何歳だと思う?」
「何歳って……七歳か八歳くらいか?」
背丈から考えてそのくらいのはずだ。身長に個人差はあるだろうが、大きく外してはいないだろう。
「十三歳」
「はあっ!?」
ジェンナの答えに驚愕した。どう見てもジェンナは十三歳には見えない。あまりにも発育が悪すぎる。
こんな成長しか出来ないほどに、この国の子どもたちは貧困に喘いでいるのだろうか。
「これでも私は恵まれてる方。餓死する子どもが多いから」
「十五年前はそんな国じゃなかっただろ!?」
「でも今はこんな国。あいつらが権力を握ってやりたい放題するようになってから、この国はおかしくなった」
「……それを俺にどうにかしろって? 俺のことを買い被りすぎだ。俺は大して頭も良くないし、そんな力は無い。それに国を良くしようなんて崇高な志も持ってない」
俺はただの魔法使いであって、国の治め方なんてまるで知らない。権力者になりたいとも思っていない。そんな俺が国を良くするなんて、世迷言も良いところだ。
「メイナードはただ復讐を果たしてくれればそれでいい。国はついでに良くなったらいいな、程度。私の望みもあいつらへの復讐だから」
「どうしてそこまで? ジェンナはあいつらに何かされたのか?」
「直接何かをされたわけじゃないけど、住んでる国を貧しくされたって意味では何かされたとも言える。だけどそれよりも復讐が母さんの悲願だから。母さんの悲願を叶えるために私はいるの」
「……ジェンナの父親は何て言ってるんだ?」
母親の復讐を完遂させようとする娘を、父親が止めないわけがない。
そこから考えられるのは、父親もすでに亡くなっている……とかだろうか。
しかし俺のこの予想は大きく外れていた。
「私は父さんの顔を知らない。母さんはネクロマンサーの血を引く子どもを作りたくて、父さんとの間に子どもを作っただけだって言ってた。私が出来たから、金を渡しておしまいにしたって」
想像していたよりも最悪な家庭だ。
そして子どもにこんな話をするなんて、アメリアは俺が死んでからずいぶん変わってしまったようだ。俺の知っているアメリアなら、間違ってもこんな話を子どもにはしなかっただろうに。
「だからメイナードは復讐を果たしてくれればいい。私がそれを見届けるから」
「子どもに復讐を見せるわけには……」
「見せてくれないなら、死者蘇生の魔法を解除する」
ジェンナが杖を取り出したため、慌てて両手を振る。
せっかく蘇ったのに、また死ぬなんてまっぴらごめんだ。
「分かった、検討するから。だから杖を下ろしてくれ」
「検討って何!? メイナードは自分を殺した三人が憎くないの!?」
俺が復讐に乗り気ではないと思ったらしいジェンナが俺に詰め寄った。
だがそれは勘違いだ。俺は子どもに残酷なものを見せることに難色を示しただけで、復讐自体には賛成だ。
「俺はあいつらのことが憎い。人生を奪われたんだから、憎くて憎くて仕方がない。あいつらが俺にやったのと同じように、俺もあいつらの人生を奪ってやりたい。俺にはその権利があるはずだ!」
十代だった俺には、まだまだやりたいことがあった。
好きな人だっていた。
未来は明るいはずだった。
それなのに、あの三人にすべてを奪われた。目障りだなんてどうでもいい理由で。
こんな理不尽を、許せるはずがない!
「あいつらには、地獄で自身の行ないを悔いてもらう」
「それなら……!」
「ああ、俺は復讐を果たす。その様子をジェンナに見せるかどうかは保留だがな」
ジェンナは不満そうな顔をしていたが、それでも俺が復讐に乗り気なことを知って、ひとまずは安心したようだった。




