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復讐は娘(仮)とともに  作者: 竹間単
◆第一章  死者蘇生と彼女の娘

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4/4

●4


(3)


 ジェンナに連れてこられたのは、森の中にある一軒家だった。


「入って」


「へえ。ここがジェンナの暮らす家か。強力な目くらまし魔法と動物避け魔法が張ってあるな」


「目くらまし魔法を突破する腕輪を持ってるから私は惑わされないけどね。そもそも家の詳細な場所を知ってるから、時間をかければ腕輪無しでも辿り着けるけど」


「時間はかかるんだ……」


 アメリアが亡くなってからはジェンナが一人で暮らしていると言うから、それは危険なのではないかと思ったが、かなり防犯のしっかりしている家だ。

 人間は目くらまし魔法でこの家が見えないし、動物は動物避け魔法で入ってくることが出来ない。

 この魔法を張るにはかなりの魔力が必要だったはずだ。アメリアが張ったのだろうが、自身が死んでなお効果が残っているのだから相当強い魔法が掛けられている。


「お邪魔しまーす」


 家の中に入ると、小さなテーブルが一つ、椅子が三つ置かれていた。


「椅子が三つ?」


 思わず疑問を口にすると、すぐにジェンナが答えをくれた。


「メイナードの分だよ。母さんはメイナードを生き返らせる気満々だったから。金銭的な問題でベッドはまだ用意してなかったけどね」


「アメリアと、ジェンナと、俺の椅子……」


「どの椅子が誰のかは決まってないから適当に座って。お茶は要らないよね、骸骨だから」


 言われて気付いたが、十五年も眠っていた――いや、死んでいた――というのに、俺は喉も渇いていなければ腹も減っていない。きっと今後も空腹を感じることはないのだろう。


「ふう、大仕事を終えた後のお茶は最高だね!」


 そう言って、ジェンナが立ったまま豪快にお茶を嚥下した。


「それ、何も飲めない俺の前で言うなよ」


「子どもの言うことにいちいち怒るのは大人げないよ?」


「別に怒ってはないけどさあ」


 ジェンナがお茶を飲みながら席に着いた。俺も空いている椅子に座る。


「母さんがメイナード用の服を用意してるから、この後はそれを着て町を見に行こう」


「そんなものまで用意してるのか」


「言ったでしょ。母さんはメイナードを生き返らせる気満々だったの」


 ジェンナがお茶を喉に流し込みながら告げた。


「でも母さんもまさかメイナードが骸骨の姿で生き返るとは思ってなかったみたい。こんなときにどうすればいいのかは教えてくれなかったよ」


「見た目は良くないが、喉も渇かないし腹も減らないから便利な気がするぞ」


「でもその姿じゃ町で活動できないでしょ。ローブを羽織って動くにしても限度があるもん。手も足も顔も骨なんだから」


「それはそうだな」


 家の中を見渡す。必要最低限の生活用品は揃っているが、それだけだ。ジェンナはギリギリの生活をしているように見える。


「アメリアはどうしてこんな森の中に家を?」


「メイナードの墓の近くに住みたかったんだと思う。見たでしょ、自分の墓石。毎日磨いてたせいで字がかすれてるんだよ」


「あれ、磨き過ぎでかすれてたんだ……」


 アメリアにそこまで愛されていた事実は素直に嬉しい。そして嬉しいと同時に、この十五年間アメリアに愛を返せなかったことがとても悲しい。

 だが、そうか。アメリアはそんなに俺のことを……。


「あとは私に日々死体を操る練習をさせたかったからだと思う。町なかでそんなことをやったら最悪の場合は捕縛されるからね」


 アメリアの愛に感動している俺に、ジェンナが現実的な意見を付け足した。

 基本的にネクロマンサーはどこかの集落で暮らしていて、町なかには滅多に現れない。死体を操る行為を否定する人は多く、不用意に町へ出てくるとトラブルになってしまうからだ。


「私がネクロマンサーだってことは、母さんしか知らない。だから町へ出ても大丈夫」


 俺が見つめていたからだろう。ジェンナが言葉を付け足した。


「母さんの補助魔法のおかげで、私は効率的に死体を操る方法を覚えられたの。今では補助魔法が無くてもすぐに死体を操ることが出来るよ」


「……死者蘇生は、死体を操る魔法とはまた別なんだよな?」


 俺自身に操られている感覚は無い。操られている感覚が無いままに操られている可能性もあるが、たぶん違う。ジェンナには魔法を使っている際の疲労や集中が見られないからだ。


「死者蘇生は、死者の国へ行った魂を現世に呼び戻して死体に定着させる魔法。魂が定着することで死体は死体じゃなくなる。母さんはそう言ってた」


 なるほど。今の俺は、骸骨になった元の身体に魂が定着している状態なのか。

 どうせなら死者蘇生が身体を復元する魔法だったら良かったのに。


「だからメイナードは私に操られてるわけじゃない。メイナードはメイナードの意思で動いてる」


「そうなのか……ありがとう」


「何のお礼?」


 俺はジェンナに向かって、カタカタと鳴る頭を下げた。


「どんな思惑があろうとも、君が俺を蘇らせてくれたから。この件に関しては礼を言わなきゃならない。ジェンナ、俺は君に感謝してる」


「感謝されても別に嬉しくない。そんなことより復讐を果たして」


 丁寧に述べた礼は、ジェンナによってバッサリと切り捨てられてしまった。


「復讐は果たす。君に頼まれたからじゃなく、俺の意志で。俺の人生だけじゃなくアメリアの人生までめちゃくちゃにしたあいつらを許すことは出来ない」


 許せないし、許してはいけない。

 地獄の果てまで追いかけて、あいつらに自身の悪行の責任を取らせる。

 これ以上、のうのうと過ごさせてたまるものか!


「だけど、その身体で何が出来るの? 死者蘇生で肉体ごと蘇ると勘違いしてた私が悪いんだけど、骸骨の姿だと出来ることが限られちゃうでしょ?」


「そうだな。復讐を果たすにしてもいきなり相手の前に飛び出して戦闘をするのは悪手だろうな。見た目で俺が悪者だと判断されて外野からも攻撃をされそうだ」


 一対一であれば俺は元パーティーメンバーの誰にも負けない自信がある。しかし一対多数では……いや、俺の実力はあの頃のままだが、他のメンバーは十五年分の経験を積んでいる。一対一でも勝てる保証は無い。それなのに外野にまで相手側に味方をされたら、多勢に無勢で簡単に負けてしまうだろう。

 その場合、俺が殺されるだけでは済まないかもしれない。俺を蘇らせたネクロマンサーのジェンナも巻き添えで処刑される恐れがある。当たって砕けるわけにはいかない。

 目下、生身の肉体を手に入れることは必要不可欠とも言える。

 だが、どうしたら……。


「メイナードも魔法使いなんでしょ。受肉の魔法って無いの?」


「そんなピンポイントな魔法は無い。骸骨として動く人間なんているわけがないんだから」


 いるわけがない人間が、まさに今の俺なのだが。


「じゃあアイテム的なものは? 受肉の壺とか無いの?」


「何だよ、受肉の壺って。そんな骸骨用のアイテムも無い」


 とはいえ魔法よりもピンポイントな効果のあるアイテムは存在する。

 たとえば惚れ薬とか、若返りの秘薬とか。

 …………若返りの秘薬?


「そうかっ!!」


 俺が大声を上げながら立ち上がると、ジェンナが飲んでいたお茶でむせた。


「なに、急に」


「若返りの秘薬だよ! 肉体を若返らせるんだ!」


「肉体を若返らせるって言っても、死者には効果が無い……あっ」


 ジェンナも気付いたようだ。

 今の俺は死者ではない。死後十五年経過した身体に魂が宿っている状態だ。

 言い換えると、生きてはいるが肉体だけが劣化して朽ちている。


「若返りの秘薬があれば、俺の身体は皮と肉があった頃まで巻き戻るはずだ!」


「そして復讐も出来る!」


 俺とジェンナは顔を見合わせて頷いた。




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