第9話 勇者乱立
レベッカがムカムカしながら出て行った後で他の冒険者たちも入って来る。
「なぁアイツ本当にそのまま帰して良かったのか?冒険者連盟における救護義務違反で引っ張れねぇのか」
バドスがゲオルギウスを向いて尋ねる。
「仕方ないでしょう。あちらにも立場がありますから面倒なんですよ」
ゲオルギウスは手元にある書類を見ながら肩をすくめる。
「ワイアール伯爵。隣国ビビット王国の有力者であの勇者連中の表向きのパトロンにして厄介。ただでさえこちらで死なれているのにまた女性を拘束してはあちらに騒ぎ立てる口実を与えかねませんから」
それを聞いてエリックが笑う。
「勇者って。それ何かの冗談だよね?あの勇者はAランク下位だ。上澄みではあるけど別にあのタイプの魔物を余裕綽々倒せるほどじゃない。あんなので勇者を名乗るとか今の勇者乱立の酷さが伺えますよ」
ヴァルツたち古の勇者が表舞台から姿を消した後、その影響を受けて数多くの冒険者が出現した。これは良い側面ばかりではない。その一つが本来神に指名され厳かな儀式の元で得られるべき勇者の乱立であった。国家が自国の英雄を作りたい。貴族は名声を得たい。商会は勇者を宣伝に使いたい。挙句の果てにはそうした根拠もなく勇者を自称するものまで現れている。そうした思惑によって、実力を伴わない勇者の称号だけが増えていってしまった。ルークたちもその氷山の一角に過ぎないのだ。
「全くあんなに自称勇者が増えられては冒険者の格が下がるってもんです。今回だって相手がビビット王国の大貴族がバックじゃ無ければとっくに処理できてますよ」
「まぁビビット王国相手なら仕方ないわ。同じ連合軍同士だもの。全面戦争だったら絶対負ける気がしないけど」
アイリスは窓から北側の山々を見た。その向こうにアイリスの仲間たちがいる。
今現在人類は魔王軍の一派に対抗するために多国間連合が編成され、多くの冒険者が北へ向かっている。ランゴ王国やビビット王国もその一翼であり、この国の有力冒険者はほとんど北へ出払っている。
「ここで足並みが揃わないと魔王軍に付け込まれる恐れがありますからねぇ。まぁそもそもこの騒ぎも要は救護義務違反をしたというだけ。訴えても取り合ってもらえるかすら怪しいですよ」
「ヴァルツ先生相手じゃ無ければね。それはそうとヴァルツ先生はどこ行ったのよ」
アイリスはキョロキョロ見回す。
「あの人は国王陛下に呼ばれましたよ。ことが事ですし。こっちが忙しい時に会いに行けるとかどこまで信用されてるんですかねぇ」
ゲオルギウスはそうため息をついたのだった。




