第10話 国王との謁見
ゲオルギウス達がレベッカを尋問する少し前。
ランゴ王国の王都にそびえている城。その中では多くの官僚が数多く働いている。
ヴァルツはその門の前に立った。すぐに門の衛兵に止められる。
「何者だ。見かけない顔だな」
「見かけないのはこちらもです。なるほど前に参じた時と比べて担当衛兵が替わりましたか」
「衛兵が変わっているというと前にもここを訪れたことがあるということですか?何か御用でしょうか」
「まぁそうなりますな。ここの国王陛下に用がありまして」
「国王に?寝言は寝ていってくれよ。官僚でも中々ご尊顔を拝めないのにこんな外から来たご老人が会えるとでも?」
衛兵の一人が笑うが、相方の衛兵が手で制する。
「いや待て。ここで問答無用で追い返すのは逆に失礼にあたるかもしれない。お手数をおかけしますがお名前をお聞かせ願えますか」
「ふむ。礼儀がなっている。私は国王陛下に拝謁願いたいヴァルツと申します」
「こ、国王に?今からですか」
「だが賢者ヴァルツと言えばかつてこの国で生まれ育ち勇者とともに旅立った英雄の一人。昔話でしか聞いたことないぞ」
「こら失礼だぞ!この方は数多くの冒険者を育成している育成のプロだ。現に今の近衛隊長様だって……」
「私がどうしたって?」
コツンコツンと軽い足音がして赤髪の女騎士が出現する。凛とした目と通った鼻筋は理知的な印象を感じさせる。
「ディア様!お疲れ様です」
衛兵たちはびしっと敬礼する。
「客人か」
「はい。ヴァルツと申す者が陛下にお会いしたいと」
「何!先生が来ているだと?」
ディアはぐるりと周囲を見渡す。そしてかつての恩師を見つけた。
「先生。ヴァルツ先生ではありませんか」
ディアがヴァルツを見下ろすとすぐに衛兵に声をあげる。
「おい貴様らこの方を待たせるな早く通すんだ。荷物も持つんだぞ」
「は、はい!」
衛兵たちはそのままヴァルツを通して荷物を持っていく。
ヴァルツとディアの二人で歩いていく。
「しかし陛下に何の用ですか?」
「少し報告したいことがありましてな」
「そうですか。もしかして……あの勇者たちの事ですか?」
「もう話は行っておりましたかな」
「まぁ帝都の門でも騒ぎを起こされたという報告が上がってきていまして、そのことをこれから議論しようと人を集めていたところなんですが……ヴァルツ先生も参加しますか?」
「そうさせていただきますかな」
このやり取りを少し離れて聞いていた衛兵たちは開いた口がふさがらなかった。
「え?飛び入りでか」
「こ、この人は陛下にいつでも会えるのか……」
帝都の謁見部屋でヴァルツが待っているとそこに小太りの男性が現れる。これがランゴ王国の国王エルトンであった。加えてもう一人部屋にはディアが立って会談を見守っている。
「ヴァルツ。ヴァルツさんではないか」
「陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
「よい、ヴァルツ。ここでは昔のように話してくれて構わん」
「いけませんな。陛下は陛下でございます。公私の区別はつけねばなりません。ぜひともヴァルツと呼び捨てになさってください」
「……そなたは昔から、そういうところだけは頑固だな」
「若い頃の陛下に礼儀を教えたのは私ですからな」
「それを言われると、何も返せん」
この国王エルトンはかつての勇者だった先代国王の息子である。その繋がりもありエルトンは幼いころからヴァルツに魔法や教養、礼儀に至るまで徹底的に教え込まれていた。
その為未だヴァルツに頭が上がらないのだ。
「それで何か御用かな。ただ世間話をしたいだけだったらありがたいが……そなたはそんなことで突然来る訳ではないか」
「流石お気づきになられましたか。そうです……勇者のことでお話が」
「それが我が父の事ではなく、乱立されている勇者の事か」
「えぇ。ルークと名乗るビビット王国の勇者がギルドに現れましてね」
「勇者が?そうだったのかディア」
「えぇ先ほど帝都の防衛隊からこちらへ情報共有が。門で騒ぎを起こしたらしいです」
ディアが表情を変えずに報告する。
「何と……それでそのパーティーとはうまくやれたのかね」
「いえ。彼らは自分勝手の極みですな。その上お恥ずかしいことに洞窟で埋められてしまいまして」
「「え?」」
エルトンが反応するのとディアが反応するのは同時だった。ディアがすぐに頭を下げる。
「失礼いたしました」
「なにそなたが生き埋めに?良く生きておったな。相手側が」
「いえもう生きていませぬ。大蛇を刺激して一人を残して空の上に」
ヴァルツが悲しそうな顔をして舌を向く。それは自分が居ながら死人を出したことへの後悔がにじみ出ていた。
「いや彼らが行くのは空ではなく地下深き地獄であろうよ。のうディアよ」
「えぇ私の恩人……いえ陛下のご友人を襲った罪は万死に値します」
二人は逆に怒りに満ち溢れていた。
「それで?その生き残りはどうしたのだ」
「しばらく休ませていましたが、そろそろ起きる頃でしょうな。問題はゲオルギウスに話を聞かせています」
「奴は責任者だからな。だがそのことについては我から一つ言わせてもらいたい。恐らくそのまま帰すことになろうな」
「その通りです。ビビット王国は隣国とはいえ大国。下手に事を荒立てれば戦争になるでしょう」
「それなら歓迎です。全て叩き潰しましょう」
ディアが凄んでいるが、二人の顔は暗い。
「まぁ我もこの国の全軍をもってすれば互角以上に戦うことはできる。だが非戦闘員にも影響は出よう。国民の生活が乱れ、交易が滞り、農地や街が被害を受ける可能性があります。勝ったとしても、戦後処理には費用がかかる」
「これは失礼しておりました。怒りに身を任せ過ぎました」
ディアはまた頭を下げる。
「そもそも今は北方の魔王軍との睨み合いに戦力を裂いてしまっています。今ここで争えば互いに弱みを見せ、きっと魔王軍に付け込まれるでしょうな」
ヴァルツはそう呟いて紅茶を口に含んだ。




