第11話 リコルド
ランゴ王国のずっと北方には山が連なっている。この山はランゴ王国や隣国を含めて巨大な壁となっており、その先は魑魅魍魎が闊歩する魔王の領域とされている。この山はその防衛壁であり、軍事拠点でもあった。
その山の一つの中腹に簡易的なテントが立てられていた。中には机や椅子が綺麗に整頓されており、数人の男女がたむろしていた。
その先頭である男が遠眼鏡で山の向こうを見ている。フード付きのパーカーを被ってはいるが大柄な黒髪の青年である。
「う~ん、あそこにいるのは魔物たちかね。一見ただのシカの群れにも見えるが……こっちに襲ってきたらマズいな。早く見て来い」
「それは無理だね。リコルド、単騎で見に行くには装備が不安すぎる」
いつの間にか後ろに現れた背の高い少女に声をかけられる。
「あ?カレンお前そのA級の身分で僕に何か言うのか。僕は未来のS級冒険者だぞ」
「だから冒険者ランクで身分は決まらないって知らない?そもそも今はアタシと同じA級でしょうが」
「フン。良く躾けられてるなヴァルツの影響か」
「これでもこの服を着せてもらっている以上身分制度には厳しくて」
少女はその服をひるがえす。どこか西洋の国で作られたと思わしき軍服に軍帽、中世的な王国にはなじまないがこれが彼女の正装。
カレン・ローゼンバーグ、彼女もヴァルツの影響を受けた英雄のひとりである。
「それで?今現在敵軍を偵察中の僕に向けて何か御用かな?」
「ヴァルツ殿が襲われた。しかもビビット王国の勇者ルークにだ」
「それで?まさかあのジジイが死んだって言うのか?」
「いいや生きてる。そうエリックが通信を飛ばしてきたよ」
「エリックのガキね。アイツもうそんな偉い身分になったのか。ガキの頃は木から降りられなくなって泣いてたくせに」
「そんな昔のことをよく覚えてるね」
カレンは感心するが、リコルドは大した返事をせずに話を一方的に続ける。
「まぁあのジジイがどうなろうと知ったことではないが、流石に上は問題にしたくはないだろう。大体今はビビット王国との合同作戦中。連合軍を組んでいる関係で余計な諍いは毒だ。まぁお前みたく恩がある連中は知らないけどな。アイリスとかキレてるだろうよ」
「アイリスはそんなことで露骨に態度に表したりはしない、心の内側は知らないけど。盟友の私が証言するよ」
「フン盟友ね。羨ましいことで」
「そんなことを言ってリコルドも不安なんだろう?表情に少しのこわばりがみられる」
「そんなことはねぇ!」
リコルドは遠眼鏡を見ながら、しかしそれでもきっぱりと言い張った。
「はいはい。でも世間は君の動きを見ているよ。ちゃんとそのことを心掛けることだね」
「あっそ。後今いる魔物らしき群れだが、猪の群れだった。この遠眼鏡は使えないな大きさを見誤ってしまう」
「じゃあ。帰らせてもらうね」
カレンはそのままテントから出ていった。
最後一人テントに残ったリコルドは遠眼鏡を外して椅子に座った。
「まったく相変わらず心配かけてるな……」
そしてため息をつく。
「あの……クソ親父がよ」




