第8話 判断
一行が洞窟から出てくると久しぶりにまぶしい光が差し込む。
「光もない所に閉じ込められていたので日の光は久しいですな」
「ほら!ヴァルツ先生がこんなに苦しんでるじゃないの。反省しなさい」
アイリスはレベッカの後ろに立ち、拘束魔法で身体を押さえている。レベッカは悔しそうな顔をしているが最悪ここで一戦交えたとしてもアイリスは抑え込める自信がある。そもそもこちらのホームなのでレベッカが暴れてもいくらでも戦力が投入できるのだ。
レベッカは周囲を見渡す、多くのやじ馬が集まっていた。本来なら出て来た自分たちを歓迎する為の物のはずなのに今はその視線が痛かった。
子供が指を差す。
「あっ人殺しだ!」
「はぁ?!」
レベッカは睨みつける。蹴り殺そうとも思ったが足が動かない。
「こら話しかけるんじゃないの。目に毒よ」
母親らしき人が子供を覆い隠す。まるで猥褻物でも見たようだ……
「何よこれ。流石に人殺しは言いすぎじゃない?」
「言いすぎじゃないわよ。アタシの恩師を殺そうとしているじゃない。もし死んでいたらアンタもあの死体袋の中身になるところだったわ」
アイリスはバドスが担いでいる袋を一瞥する。その中にはルークとアゴラスだったものが入っていた。
「チッ……」
ギルドの会議室でレベッカが喚く。
「何よあれ!私たちは被害者なのよ。そこの爺さんに先に行くように言われて、そうしたらあの大蛇!そして自分は安全圏の洞穴の中でぬくぬくと」
「良くもそう虚飾を並べ立てられますな。むしろ感心してしまう」
向かいの椅子にはゲオルギウスが座っている。その胸には王国のバッジの他にもう一つ特殊なバッジを付けていた。
冒険者連盟。この世界各国の冒険者による自治と秩序の組織であり、総合した権力は小国をもしのぐとされる連盟組織。ヴァルツの弟子のひとりであるゲオルギウスは冒険者として活躍する傍らそこの職員も務めていた。
近くには他の職員もいたが一様に顔をしかめている。
「何よ。この男の言うことを信じるというの?」
レベッカはゲオルギウスのことを指さす。
「どうやらこの職員さんはヴァルツと入魂な様子。その証言に信用性なんかないでしょう」
「ハハハそれは恐れ入った。まぁ確かに私と先生は数十年前からの師匠と弟子、実際そうだったからこそ私は役職者でありながらわざわざ先生を救助しに行ったわけです。中立の存在とは言えないでしょう」
「そうよ大体あの洞窟の中は密室。ヴァルツの身内のアンタらが口裏を合わせる事なんてた易いでしょ」
「その言葉はブーメランですよ」
ゲオルギウスがニヤリと笑った。
「その理論が通じるならば、同じく洞窟の中での証言であるアナタの発言にも信ぴょう性が無いことになる。数が多く複数の目で見ている分こちらの方が優位でしょう」
「は?そんな理論が通じる訳が」
ドンと机を叩く音がして振り返る。そこには怒りに震えたバドスがいた。
「バドス。その身体で備品を叩かないで頂きたい」
「いつまでも先生のせいにしやがって。自分たちが魔物に襲われたら助けてもらった。感謝の一つくらいしたらどうなんだ?」
「うるさいわね! 私は被害者なのよ!」
「フン。こちらの立場が無いからって舐めていやがるな」
「被害者、ねえ……」
エリックが欠伸を噛み殺した。
「仮に先生が眠らせていなかったら。君は帰ってこれなかったと思うけど、随分運のいい被害者だねぇ」
「はぁ?アンタ誰よ。てか大体町出て来た時の視線が人を殺したそれなんだけど。アンタ何言ったのよ」
「何言ったって『大変だ!隣国の勇者がヴァルツ先生を殺したかもしれない』って触れ回っただけさ。何も間違っていないだろう?」
「間違いだらけよ!大体死んでないじゃないの」
「それは結果論だね。まぁ先生は死なないだろうけど、仮に死んでたらね……アイリスを始めとした信者がどうなるだろうねぇ」
「何よ。大体私たちは勇者一行なのよ。早く帰さないとそちらの立場が悪くなるんじゃなくて?」
「随分と偉そうですね。でもそれが痛い所なんですよねぇ……」
ゲオルギウスは頭を抱える。
「ほら何も言い返せないじゃないのよ」
「いえ、あなたの言い分を信じる気はありませんが、これでも貴族の紋章が入った装備を付けている代表団であることは事実。あなたを帰還させなければ隣国に何を言われるかが分からない」
「それは困るわね。仮に無事に帰したとしてアンタが『こちらに嵌められた』とでも報告すればこっちは否定する手が無いわ。実際勇者と戦士は死体になってしまっている訳だし」
アイリスのつぶやきを聞いてレベッカの表情に余裕が戻る。
「そうよ。それが分かっているなら今すぐ帰しなさい!」
「まぁここはひとまず穏便にお帰り下さい。ただこちらも証拠がありますので、後にそちらにお伺いすることになるかもしれませんが」
ゲオルギウスは至極丁寧にしかし一切の好意の無い様子で応対した。
レベッカはしばらく四人を睨んでいたが、やがて乱暴に椅子を引いた。
「……覚えていなさいよ!」
そう吐き捨て、彼女は部屋を出ていった。




