第4話 洞窟探索
ヴァルツたちが訪れた邪の洞窟の内部はひんやりとした空気に満ちていた。
壁面には淡い青色の鉱石が点在し、天井から垂れ下がる鍾乳石の隙間を、水滴が絶え間なく流れ落ちている。
「おい、ヴァルツの爺さん。もっと早く歩けないのか?」
先頭を歩くルークが振り返った。
「へぃ。あいにく年寄りなものでして」
ヴァルツは大きな背嚢を背負い、杖を片手にゆっくりと進んでいた。背嚢の中にはヴァルツの荷物など無く、勇者たちの予備の武器や食料、採取道具まで詰め込まれている。明らかに過剰な量だが三人ともそれを指摘しない。
「だから年寄りは困るんだよ。こんなところに来る前に引退すればよかっただろうが」
「呼んできたのはルークでしょうが」
レベッカが笑いながら口を挟んだ。
「こんな調子じゃ日が暮れちゃうわね」
そう言って杖で腰を突く。そのせいでヴァルツが転んでしまう。
「おっと」
「おいおいまともに歩くことすらできねぇのか?」
三人の声が洞窟に反響する。
ヴァルツは小さく息をつき、再び歩き始めた。
やがて、一行は洞窟の中で開けた場所、薬草の採取場所へたどり着いた。
そこは広い空洞であちこちに薬草が生えている。
「ここにもありますが、こちらの穴の中にはもっと生えていますぞ」
ヴァルツが杖で指さす中をパーティーが覗いてみるとそこには森のような鉱石と薬草が生えていた。
「すげぇこれだけありゃ商売に困ることはねぇ。全部持って帰るぞ!」
ルークは顔を急に明るくした。アゴラスとレベッカも同じく喜んだ。
「全部ですか?」
ヴァルツが尋ねた。
「ああ。何か問題でもあるのか?」
「ここの薬草や鉱石は群生地の物、必要なだけ取って残しておくのが最適でしょう」
「あ?何言ってんだよ爺さんこれだけあるんだ。半分くらい取ってもどうせすぐに生えてくるだろ?」
「しかしこの薬草は魔物の餌でもあります。過剰に採取すると魔物たちが腹を空かせて外に出て来て危害を加え、不必要な諍いを生むでしょう」
「へっ知ったことねぇよ。俺らはどうせすぐにこの土地と関係なくなる」
アゴラスは強引に薬草をむしり取って袋に放り込んだ。
同じくルークとレベッカも放り込んでいく。成熟したものはおろか未成熟なものまで摘んでいってしまう。
ヴァルツは少し採取した後で静かに告げる。
「あまり採りすぎると来年以降にも影響は出ます」
「チッ仕方ねぇな。引き上げるぞ。一度に持ち帰れる物量にも限界はある」
ルークはヴァルツを睨みつけながら荒らされた薬草の群生地を一瞥し、それ以上は何も言わなかった。
一行は空洞を後にした。
空洞から外に出て大通りに合流した時、ルークが思い出したように言う。
「あっ、しまった!」
「どうしたの?」
「採取場所に予備の傷薬を置いてきた。貴重なものだからあれがないと困る」
レベッカが眉をひそめた。
「私たちも一緒に戻る?」
「いや、全員で戻る必要はないだろう」
ルークはヴァルツを振り返った。
「爺さん。悪いが、取りに戻ってきてくれ。荷物は置いて行っていいからよ」
「袋でしたな。すぐに戻りますので」
ヴァルツはそのまま先の空洞に戻って行った。
ルークはアゴラスに目線を向ける。
「アゴラスやれ」
「あ?本当にやんのかよ」
「あの爺さん、いちいち説教してきて鬱陶しいんだよ。それに、あいつがいると好き勝手に採取もできない」
「けっ相変わらず酷い奴だな。勇者認定を受けたとは思えねぇや」
「俺はいつでも勇者だぞ?だが邪魔なものは切り捨てているだけだ」
「そんなことをしなくても良いんじゃない?何かあのお爺さん人望あるみたいだし」
「レベッカお前は黙っていろ」
勇者は冷たく言い放った。
「不慮の事故なんて、洞窟じゃ珍しくもないだろ?」
三人は顔を見合わせた。
一方ヴァルツは再び薬草の群生地へ戻っていた。
「あれれ。一体どこにそんな袋が……」
探している途中。その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴッ!
地の底から響くような轟音とともに天井の岩が大きく揺れ、亀裂が走った。
「なっ……!」
土煙とともに洞窟の口が崩れていく。




