第3話 相乗り
受付の女性はヴァルツを見ると顔色を明るくする。
「ヴァルツ様!こんな所に来るとは珍しい」
次に女性の上司と見られる男が近づいていく。
「それで何の御用でしょうか」
「邪の洞窟に入ろうと思いまして」
「邪の洞窟だって?偶然だな俺たちと一緒じゃないか」
ルークがこれ幸いとばかりに話を振った。服を見てみると生地だけはよさそうな服を着ているが、明らかに筋肉は無いし装備も簡素だ。明らかに採集に行ける訳が無い。
「爺さん一人で行くつもりだったのか?」
「えぇ軽く薬草を取ろうと思いましてね。戦闘はしませんので」
「かーっだったら残念だったな。どうやらここのギルドは四人じゃないと出してくれないケチなところらしい。ぼっちじゃどうしようもないって事だ」
ルークが嫌味ったらしく言う。受付の女性は「あっいや」と言いかけたがすぐに視線で制される。
「そうでしたか。数年任務に出ていないものでギルドの仕組みにこんな変化があったとは。老いるのは辛いですな」
ヴァルツは頭を軽く掻く。
「まぁ普通ならここで門前払いを食らうところだろうが?俺は勇者ルーク。老人にも優しいんだよ。丁度こっちも三人しかいなくてな。どうだい場所が一緒なら相乗りして報酬を折半って言うのは。これなら可能ではあるだろ?」
「え、えぇ確かにそれなら規則上可能ではありますが……本当にそれで大丈夫ですか?」
女性は四人の方を眺める。
「いえ何も問題はないですが」
「ほらな。これで決まりだ。俺たちも問題は無いよ」
ルークはほくそ笑んでいた。こんな老人でも数合わせにはなる、荷物持ちも確保できるし、面倒な雑用を押しつけることもできる。
もし役に立たなければ、危険な場所で囮にでもすればいい。死んだら適当に悲しそうな顔をしておけばいい。
「決まりだな。俺は勇者ルーク、こっちの鎧がアゴラスで女の方がレベッカっていうんだ」
「よろしくなジジイ」
「足引っ張らないでね」
「ではよろしくお願いしますぞ」
ヴァルツは頭を下げて取引は成立した。
昼寝していた若い男の冒険者が声をあげて笑う。
「ハハハ!こりゃとんでもない介護パーティーだな。ご苦労さん」
「おい聞こえるぞ」
「明らかな事実を言って何が悪い」
ルークはその声を聞いて喜んだ。
やはりこの男はギルドの中でもお荷物だったんだと。やっぱり適当に囮にしておくのがそっちの為でもあるだろう。しかしその予想は裏切られる。
「一対三じゃ大変だろ。ヴァルツの爺さんが行くなら俺も補助でついて行ってやろうか?」
先の若い冒険者が立ち上がった。
「そうだな。折角の機会だしこの俺も先生に同行しよう。あそこには直近複数回潜っているから詳しいぞ」
「今いないメンバーでも呼びましょうか?」
スキンヘッドの冒険者も立ち上がり、次いで金髪の冒険者も立つ。
「いいやいらねぇよ。報酬が減るだろうが。この爺さんを加えるんだよ」
ルークは丁重に断った。なぜこちらより多い人数が必要なのだ。見た限りこのヴァルツとかいう爺さんは好かれているらしい。これでは囮にできないし、報酬も減る。そもそもこちら側が人数で主導権を握ることもできない。
「いやてめぇの為じゃ……」
若い男の冒険者がにらみつけるがルークの方は全く聞いていなかった。
「まぁ皆さん自分の任務があるでしょう。船頭多くして船山に上るとも言いますし」
「それじゃあ一時間後に洞窟の前に集合な。遅れたら報酬を減らすぞ」
勇者パーティーは意気揚々と去っていく。
金髪の冒険者はそれを見届けると扉をバタンと閉めた。
そして振り返って心配そうに告げる。
「ヴァルツさん本当に大丈夫か?洞窟に戻りながらあの三人の介護なんて」
「クックック。アイツら自分が先生を介護するつもりで居やがる本当は逆なのにな」
ワイングラスで酒を飲んでいた眼帯の悪人顔の男が笑う。
「おい先生。あんな薬草が欲しいなら商人相手に買えば良いでしょう。アンタ相手なら在庫全て引きずり出して売ってくれる。元勇者パーティーの魔導士様よ」
「ありがとうイザベラ、ゲオルギウス。でも私は運動をしたいのだ」
「へっやっぱり勇者パーティーの一員様の考えは分からねぇな」
ゲオルギウスはまたワインを口に含んだ。
誰一人ヴァルツがお荷物になる心配はしていなかった。逆にあの勇者たちがヴァルツのお荷物になるのではないかと心配していたのだった。




