第24話 怒り心頭
場所は変わってランゴ王国の冒険者ギルド、ここも重苦しい雰囲気に包まれていた。
「リコルド。もう一度説明してもらえるか?」
ゲオルギウスが眼帯の奥の目を細める。
「ラーグルフの撃破には成功したが、オリエンス王国のアースに手柄を奪われた。それを指摘したら逆に勇者への嫉妬で襲撃したと糾弾されたよ。ふざけんじゃねぇよ」
リコルドは横を向いて悪態をつく。
「……そうか」
ゲオルギウスは書類を机に置いて俯き、手で頭を支えた。
予想外の事象の連続で流石に受け入れきれなかったのだろう。
「それで先生を切り捨てた挙句、魔族を卑怯な方法で襲い。かつ喚き散らしたと……オリエンス王国は何を考えている」
書類には緻密に今回の遠征のデータが描かれていた。
「ふざけるな……」
最初に声をあげたのはバドスだった。彼もラーグルフ同様武勇を重んじる冒険者だった。
「そのラーグルフとやらは最期まで戦士としての誇りを捨てなかったのだろう。立派じゃあないか。それをあの勇者は戦利品として扱うに留まらず、奪っただと?」
拳で机を叩く。
「敵であろうと、戦士の最期を侮辱することは万死に値する!」
この言葉に同じ考えの冒険者たちも同調する。
「そうだそうだ!」
「そんな節操なしなドアホウに勇者を名乗る資格などない!」
その一派と同様に怒る一団が居た。
「味方を突き飛ばしたですって?しかもアニスを」
アイリスの冷たい声が、ギルドの一角に響いた。
リコルドは慎重に頷く。リコルドはアイリスより強いがここに秘められた怒気では押し負けそうだった。
「あぁアースが騒ぎ立てた際、お前の妹さんが仲裁に入ろうとしたところ、彼は彼女を邪魔者扱いして突き飛ばしたんだよ」
そしてアイリスは口を開く。
「……へぇ」
普段の彼女は規律に厳しく誰にでも容赦がない女性だった。しかしアニスにだけは違う。
「アニスに、手を出したんですか?」
「アイリス、落ち着け」
普段は冷徹なゲオルギウスですらつい声をかける。
「落ち着いていますよ」
アイリスは微笑んだ。
「人ってね。この上なく怒りに包まれると冷静になるんですよ」
その微笑みが、かえって恐ろしかった。
「アニスは強く言える子ではありません。そんなあの子を突き飛ばして怪我をさせた上に、非常にも被害者ぶるだなんて」
「シスコンだねぇ。そんなこと無くてもアニスちゃんは凄く強いから大丈夫だよ」
エリックがつい口を滑らせる。
「あんなに小さいのにもし傷口からばい菌でも入ったら……今は仕方なくここに居るけど今すぐ寮に舞い戻りたい」
アイリスは目から涙を流す。そして手元で魔力を揺らがせる。
「とにかくあの勇者には教育が必要です。それもみっちりね」
「アンタの言うみっちりとした教育はシャレにならないよ」
エリックは軽く諫めるが、他の冒険者の一団も不満を言う。
「アニスちゃんに何をしたんだ!あの狂人の中の唯一の癒しなのに!」
「そうだ突き飛ばした腕を切り落とせ!」
一団の怒りは弱い者の阿知波を踏みにじる卑劣さに対する怒りだった。
最後に声をあげたのは名誉を重んじるものだった。
「で?この国の功績を奪われたんだね?」
イザベラがそう告げる。
「名誉も優しさも一つの点だろう。でもここにどれだけの資金と戦力を投入したんだ。それをやすやすと奪うだと?」
それを受けてディアも同調する。
「ラーグルフの討伐に関わったのは、ヴァルツ様とランゴ王国の冒険者たちです。その功績をオリエンスの勇者が独占した。これは外交上の問題でしょう。ね?ゲオルギウスさん」
「無論だ。あれだけの戦力を要求しながらそれをすべて奪い。かつあの男の名声の糧とされるのは気に入らない。今すぐにでも叩き殺してやろうか」
彼は眼帯に触れながら、静かに呟く。
「アースという男は、ヴァルツ先生を傷つけただけではない。ランゴ王国の冒険者たちが大切にしているものを、片っ端から踏みにじったわけか。これは面白い」
「もうこれ国同士の問題ですよね。きちんとこちらの立場も見せないと」
エリックはあくびを噛み殺しながらそう呟く。一番怒らなそうな彼ですら怒っている。
もはやこの場にいるヴァルツの弟子たちの怒りを止める者はいなかった。




