第23話 支配派会議
ラーグルフの死の情報は魔王軍を駆け巡った。
支配派の本拠である魔王上の一つ、その巨大な魔石で照らされた会議室に、重苦しい沈黙が流れていた。
中央に座るのは赤黒い肌に牛の様な角を生やした若い男。支配派の指導者カンプである。
ラーグルフほどではないにしろ中々の武勇で知られた男であり、かつ魔族による人類すべての支配を掲げる冷酷な魔族だった。
右側には優雅な衣装を身に着けた少女レイラが座っている。優雅な衣装を身にまといながらもその顔には不機嫌さが浮かんでいる。
本来ならばカンプの左側にも武骨な男が座っていたはずである。しかしそこは空席だった。あの名将はもう戻ることは無いのだ。
「それで……ラーグルフさんが敗北し、命を落としたと」
レイラが扇子を閉じ、報告を受けた。
「はっアースと言うオリエンス王国の勇者に倒されました」
「表向きは……そうですわね」
レイラはカンプの方を見る
。
「報告によれば、彼は魔族をかばった際に不意打ちを受けたそうですわ。本当に愚かですわ。捨て置けば助かったかもしれないのに」
彼女の目が細くなる。
「しかしなんとも下劣な行いですこと」
カンプは目をつむって腕を組む。すぐ怒鳴るようなことはせずに報告を飲み込んだ。
しかし、会議室にいた魔族たちは理解していた。
カンプは静かに怒っている。
「ラーグルフは、先代の勇者が居た時から前線に出ていた生き字引だった。そんな奴が散り、若い魔族を導くものが居なくなった。これは大きな損失だな」
しかし彼が怒っているのはそこではない。
「現代の人間の勇者が、かつてから人魔の間で暗黙の了解だった戦士の誇りを理解していないとはね」
カンプは小さく呟く。
「しかもその勇者が手を下したのではなく他の勢力がとどめを刺したものを勝手に奪ったんだろう?」
それを受けて魔族たちがうなった。
「我らが将を戦利品扱いするとは……!」
「誇りは?意地はないのか!」
カンプは手を挙げ、彼らを制した。
「怒りに任せて騒がない」
そして立ち上がって一同を見回す。
「この一件ではっきり分かったことがある」
「人間との和解は不可能ということですか?」
レイラが口元を隠す。それは喜んでいるのか悲しんでいるのか分からない。
「人間に自治領を与え統治させる案もあったが取りやめだ。全面的に我々が支配する。レイラも都合が良いだろう」
「そうですわね」
「人間に自治を任せることはできない。彼らは力を持てば争い、称号を得れば傲慢になり、他者の尊厳すら踏みにじる」
彼の声が、会議室に響く。
「我らが支配することで、初めて秩序が生まれる」
それはラーグルフの死をきっかけに、さらに強固になった支配派の理念だった。
そしてカンプは継いで言う。
「潜入中の奴にもそう命じろ。作戦を変更する必要はないが、人間社会の腐敗をより詳細に調べるようにとな」
「承知しました」
そう言って去っていく。
「偉大なる同士の死は痛い。だからこそ無駄にはしない」
カンプの目には冷たい意志が宿っていた。
「しかしラーグルフが最期に託したのはヴァルツですか……これは興味深いですわね」
レイラは微笑んだ。
「まぁあの勇者にはふさわしい報いが必要ですわね」




