第22話 喝采と侮辱
北方の陣営ではアースが讃えられていた。
「これを見ろ!魔王軍の厄介野郎ラーグルフ討ち取ったり!」
アースは誇らしげに笑った。
「俺が討ち取ってやった。これで北方の戦況も大きく変わるだろう!」
当然全部嘘である。いや正確には大部分のダメージを与えていることだけは事実と言ってもいいのだがその方法が酷すぎる。
「さすがは勇者様!」
「魔王軍の幹部を討ち取るとは!」
「これで我がオリエンスの名声も高まる!」
周囲から称賛が沸き起こる。彼らは何も知らなかった、アースが不意打ちしたことも、ラーグルフがヴァルツたちに願いを託したことも、そもそもとどめなんて刺していないことも。
しかし……
「待ってください」
アニスが止めに入る。
「お前は……あのジジイの所にいたガキじゃねぇか。迷子か?」
「ついて来たんですよ。勝利で油断して魔力を全開にしているあなたの位置なんてすぐに捕捉できますから」
「チビの癖に生意気な野郎だな!」
「それはこっちのセリフです。それは貴方が持っていていいものじゃない。すぐにこっちに返してください」
「うるせぇんだよ!」
アースはアニスの頭を掴むと奥に放り投げた。
「いたっ!」
「これは俺の獲物だ。お前はあそこに突っ立ってただけじゃねぇか」
「それは……その」
アニスが言葉に詰まる。こんな勢いで凄まれたのは初めての経験だった。
「助けてお姉ちゃん……」
アニスの目に涙がたまった時……
「……随分と楽しそうだな」
低い声が響き、アースが振り返った。
「なんだ、リコルドか。お前も俺を称賛しに来たのか?」
「そんな訳ねぇだろ」
リコルドはアニスを抱きかかえて立たせる。
「全くお前こんな奴らに負ける奴じゃないだろうに。アイリスに殺されるぞ、俺が」
そう冗談を言ってからアースを睨みつける。
「その首を返してもらいたい。俺が持ち帰って埋める」
「は?」
周囲の空気が変わる。
「これを返せって言うのか。俺が討ち取った敵将だぞ」
「お前は彼を討ち取ってなんていないだろう。虚飾も大概にしろ」
リコルドは淡々と続けた。
「お前は彼を不意打ちで傷つけ、幼魔族をかばおうとした彼を傷つけた。彼は死を悟り、俺たちに最後の願いを託した。親父が慈悲の魔法をかけ、サイモンが首を落とした」
「それで?」
「お前は傲慢にもその首を持ち去った。これが勇者のすることかみっともなさすぎて反吐が出る」
リコルドの言葉には、怒りが滲んでいた。
オリエンス王国の兵士たちがざわつく。アースは一瞬、言葉を失った。
だがすぐに顔を歪める。
「ふざけるな!」
彼は声を張り上げた。
「お前たちが襲ってきたんだろう!」
「何で襲う必要がある」
「俺が勇者だから嫉妬したんだろ?それは分かる。ただ流石に六人がかりで攻めてくるとは思わなかったよ」
「は?俺たちがいつお前を傷つけたんだ。逆にお前が親父を……」
しかしそのセリフはオリエンス王国の冒険者に遮られる。
「勇者様に何という無礼を!」
「六人で一人を囲むとは卑怯だ!」
「ランゴ王国は勇者を出せなかった身分で勇者様の功績を妬んでいるのか!」
リコルドは眉間にしわを寄せる。
「勇者は国民性を映す鏡か。バカらしい」
「バカらしいのはお前たちだ!」
アースは声を張り上げ、そこにオリエンス王国の冒険者たちが同調する。
「そうだ謝罪しろ!」
「秩序を乱すな!」
「こいつら全員死刑で良いっすよね」
リコルドは周囲を見渡し、自分たちの話を聞く気が無いことを察した。
サイモンは無口で説明ができない。アニスは強く言い返せない。
一番酷いのはカレンだった。
「そうか死刑か。良いだろう今すぐ横一列に並べ一人ずつ脳天を撃ちぬいてやる」
「待てません!」
カレンの弾丸がアースへ向けられる。
「武人の最期を踏みにじるなどご法度も良い所」
「ほら正体を現したぞ!これがこの女の本性だ」
アースが水を得た魚のように叫ぶ。
「半分は当たっているのが物悲しいな」
リコルドは呆れ果てて空を仰いだ。
ここでは人数より勇者の名前がものを言ってしまう。にわか勇者が乱立するのも納得だ。
ヴァルツは今ウォリアーに担がれてゆっくり歩いてきている。
「親父……アンタならどうする」
リコルドは小さく呟いた。




